恋は盲目

あの子は今、どんな旅をしているのだろうか。

アルセウスは、空を見上げながら1人の少年を思い浮かべた。

信じていた人間に裏切られ、破壊の限りを尽くしていた自分を救ってくれたのはどこにでもいそうな少年だった。

裏切られたと思っていたが、それは違っていたのだとその少年のおかげで真実を知ることが出来た。

人々から神などと呼ばれているが、アルセウスとてこの世界に生きる生き物。
自分とは違う温もりが恋しいと思うのも当然のコトだろう。

どこにでもいそうな少年。
けれど、誰よりもまっすぐでひたむきで、そして笑顔がとてもあたたかい子。

あの少年と別れてからずいぶん経つが、アルセウスの心からその少年が消えることはなかった。
むしろ、時が経てば経つほど、心を揺るがすこの想いは強くなっていく。

これが何なのか、アルセウスには分からなかった。
長い時を生きてきたが、初めて感じる気持ちだったからだ。



「どうしよう!!
もう、ドキドキが止まらない…!
好きで好きでどうしようもないよ…!」
「告っちゃいなよ!!」
「でも…!そういう風には見れないとか…言われたら…、拒絶されたら立ち直れないよ…!!」
「そんなに好きなら気持ちを伝えないと後悔するよ?」



ただ、自分の気持ちの正体が分からず、やきもきしていた時、アルセウスは人間たちの会話を耳にした。

感付かれないようにそっと様子を伺ってみると、2人の少女がベンチに腰かけて話していた。



「足を挫いて歩けなくなった時に、すっごく気遣ってくれて、優しくて…笑顔が可愛くて…!!
あの笑顔を私だけに向けてくれたらいいのにって何度も思ったの。
…でもね、…嫌われるのが怖い…。」
「でも、初めて好きになった人なんでしょ?
初恋なんだもん。
戸惑うことの方が多いのは当たり前だよ。
自分の心のなかでしっかり整理つけて、どうしたら自分が後悔しないか、考えて行動したらいいんじゃない?
相手から告ってくれるかもしれないしね!!」
「えー!それはないよー。」



キャーキャー騒ぎながら話す少女たち。
その会話を聞いたアルセウスは今まで理解できなかった感情が何なのかを理解した。
そしてその瞬間、すとんと胸に落ちてきた何か。
この感情が間違いでないことを知らしめていた。

そうだ。
私はあの子のことが好きなのだ。
私を救ってくれたあの子のことが好きで好きでたまらない。
とにかく大切でそして、あの笑顔を守りたい。

そして、同時に“嫌われたくない”という強い思いが強くなった。



『そうか。
私はあの子のことが…、サトシのことがこんなにも好きだったのか。』



神が好きになったのは、太陽のような少年。
人間だけど、ポケモンのような、そんな不思議な少年。

神たる自分が何よりも恐れるのはサトシに嫌われること、拒絶されること。

気持ちを伝えたら、あの子はどんな反応をするのだろうか?

そんな風に考えれば考えるほど、アルセウスは想いを寄せる人間…、サトシに会いたくなった。

そうと、決めたら即行動にうつそう。
突然、姿を見せたらどんな反応をするのか考えたアルセウスは無意識のうちに笑っていた。

きっと目をまんまるくして驚くのだろう。
そんな姿を想像しながら、アルセウスは想いを寄せる相手の居場所を探った。
神と呼ばれる自分にその程度のこと、造作もない。



『…今は…、イッシュ地方を旅しているのか。』



サトシの居場所を探ったアルセウスは、想い人のいる場所をつきとめると、そう呟いた。
そして呟き終わった途端、小さな淡い光を残してその場から消え、アルセウスはイッシュへ飛んだ。



『サトシ、久しぶりだな。』
「…えっ!?
ア、ア、アルセウス!?なんで!?
ええ!?どうして!?」



そして、イッシュ地方を旅するサトシの前に突然、何の前触れもなく姿を現して驚かせたアルセウスはその瞳に変わらない力強さと優しさを感じ取って、心があたたかくなるのを感じた。



『サトシ。
どうやら、私はお前に恋をしたようだ。
お前のそばから離れたくはない。
…私をゲットし、使役してほしい。
お前の笑顔も夢も全て、私が全力で守ろう。』
「「「えええええぇっ!?」」」



その言葉を聞いてサトシよりも驚きの声をあげたのは、サトシと現在、旅を共にしているN、デント、アイリスだった。



「えっと、どういうこと、サトシ!?
なんでアルセウスがサトシに会いに来るのよ!?」
「あれ?イッシュ地方でもアルセウスのことって知られてるんだな?」
「あったりまえでしょ!?
世界を創ったとさえ言われるポケモンを知らないわけがないでしょ!?
って、そうじゃなくて!
アルセウスと何で親しげなのよ!?」
「会ったことがあるからだけど?」
「いや…サトシ?
そんなさらっと言えるようなことじゃないんだよ?
アルセウスの目撃情報なんてあの世界一珍しいとされるミュウと並ぶほどなんだから。」
「ミュウかぁ…。
アイツも、元気にしてるかなぁ?」
「は?ミュウにも会ったことがあるの!?」
「え?うん。」
「…スパイスが強すぎて…どんな反応したらいいのか分からないよ…。」
「サトシくんとアルセウスは…一体どういう関係なんだい?」
「うーん…どんなって言われたら友達か、仲間だと思うんですけど…。」
『サトシ。
私の告白はスルーか?』
「告白?
あ、うん!俺も好きだぜ!」
『…………。』



満面の笑みを浮かべてアルセウスの問いかけに答えたサトシ。
だが、どう見てもアルセウスの告白の意味を理解していないだろうことは、誰もが理解した。



『まあ、いい。
…サトシ、私はお前のそばにいたい。
ゲットしてはくれないか?』
「え?そうなのか?
うーん…、じゃあ一緒に行こうぜ!アルセウス!」



そう言ってアルセウスに向かってモンスターボールを投げたサトシ。

あっさりとアルセウスを仲間に加えた。



「…神と呼ばれしポケモンをあちらから望んでゲットなんて…。」
「アンビリーバボーなテイスト、だね…。」
「サトシくんはトモダチのことをいくら伝説だとか、神だとか呼ばれていたとしても比較しないから…それがサトシくんの魅力の1つなんだろうけど…、こうして見ると本当にスゴい人だよね、サトシくんは…。」




アルセウスをさっそく出して仲間たちに紹介するサトシにアイリスたちはただ、驚きばかりが勝ってしまって、立ち尽くすことしか出来なかった。

ポケモンたちもアルセウスが仲間となったことにただ、驚いて固まっているが、サトシは微塵も気付いていない。

いろんな意味で規格外なことを改めて思い知ったデントたちだった。

End

※※※

ほぼ、アルセウスの独白で終わってしまった…!!

恋をしていることに気付かないアルセウス様。

ガールズトークを盗み聞きして自覚する神様ww

恋を自覚した以上、そばにいたい。
じゃあ、どうしよう?
そうだ!ゲットしてもらえばそばにいられるじゃん!!
…ってなカンジで何も考えずにサトシくんの前にポーンと現れて、N、デント、アイリスを半端なく驚かせました。

神様だから、感覚が普通とは違うだろうなってことで☆

突然現れた神ポケモンが、サトシに『恋しちゃった☆離れたくないからゲットして☆』なんて言ったらびっくり仰天ですよね♪

おいおい…って言われそうなカンジですが、恋は盲目と言いますし☆

今までとは違ったカンジで書いたので楽しかったです!!

な、渚様…こんなんで大丈夫でしょうか?
本人は書いてて楽しかったのですが…少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです!!
リクエスト、ありがとうございました!

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