君のパートナー

「コジョフーは絶対に返してもらうよ。」
「そんな満身創痍の状態でまだやる気か?
安心しろ。このコジョフーは高値で取り引きしてやるから。」
「…どこにでもいるよね。
こういう典型的な悪役って。」
「人が下手に出てりゃいい気になりやがって!このガキ!!」
「ぐあっ!」
「ジョフ!!」



自分の目の前で痛め付けられる主を前にコジョフーはぽろぽろと涙を流した。

もっと自分に力があれば。
もっと自分に勇気があれば。

そんな思いだけがコジョフーの心を占めていた。

ボロボロになりながらも、自分のことを取り戻そうとしてくれるシンクにコジョフーはただ自分の無力さを呪った。




***



サトシたちと共にある島にやってきたシンク。
元々、団体行動を好むタイプではないシンクはコジョフーと鍛練に行くと、サトシたちのそばから離れた。

久々にコジョフーと一対一での鍛練に汗を流すシンク。
ビビりながらも、鍛練に付き合ってくれるコジョフーも出会った頃と比べても、ずいぶん強くなったように思う。

元々の気弱な性格のせいか、本人に自覚はないようだが。

久々に誰にも邪魔されず、鍛練に集中出来たことと、オールドラントにいた時と違い、辺りを警戒する機会も少なくなったからか、シンクは仲間たちとは違う気配が近付いていることに気付くのが遅れてしまった。



「ありがてぇ。
取り引きに使えそうなポケモンじゃねぇか。」



シンクたちの前に現れたのはかなり体格のいい男。
コジョフーを見つめながらニヤリと不吉な笑みを浮かべている。

その笑みがあまりに凶悪でコジョフーはびくりと体を震わせた。
しかしシンクはコジョフーとは対照的で男が現れ、鍛練の邪魔をされたことに苛立っていた。
その不機嫌な表情を隠すことなく、口を開いた。



「なに?そばにいると気が散るからさっさとこの場から立ち去ってよね。」
「ココロモリ、“サイコキネシス”。」
「コロー!」
「なっ!?」
「ジョ!?ジョフッ!?」



シンクの挑発的な態度に特に何の反応も返さず、男はモンスターボールからココロモリを繰り出すと、技の指示をとばした。

男に命じられたココロモリは“サイコキネシス”でコジョフーの体を浮かべると、そのまま男の背後にあった車の中に押し込んだ。
満足に抵抗もできないほど手際が良くコジョフーを捕えた。
よく見ると車の後方には檻がついており、コジョフーをその中に閉じ込めたようだった。

そして、シンクは男を睨み付けながら言葉を発した。



「なんのつもり?そのポケモンは僕のなんだけど?」
「この地方のポケモンは他の地方の金持ちに高値で取り引きされるんだよ。
今回の顧客はかくとうタイプのポケモンをご所望でな。
この島にはかくとうタイプのポケモンがたんまりいるって情報を仕入れて来てみれば、警察のやつらに俺が取り引きに使えそうなポケモンを探しにこの島に来るって知られたみたいでな。
保護していやがるから、満足に手も出せない上に時間がそんなに残されてないとあれば慌てるだろ?
取り引きに間に合わないと思っていたところに、のこのこと獲物が現れてくれたってわけだ。
感謝してやるよ。
取り引き時間ももう迫ってるし、このままずらかるぜ。」
「それを僕が指をくわえて見て、見逃すとでも思ってんの?」
「思ってはいねぇが、お前みたいなクソガキなんぞ、恐れる必要もない。」
「フン!その言葉、あとで後悔するんだね!!」



余裕すら感じられる男の姿にシンクは苛立ちもそのままに男に突っ込んでいった。

だが、男も武道の心得でもあるのか、シンクの攻撃をあっさり避け、攻撃までしてきた。

圧倒的とも言える力の差を前にシンクは何度も倒れ、それでも立ち向かい続けたが、起き上がることも困難になるほど疲弊してしまった。

男はシンクで遊んで楽しんでいるのか、疲弊して起き上がることも困難になったシンクとは違い、余裕の笑みを浮かべていた。



「多少はお前にも武道の心得があるようだが、お前じゃ俺には絶対に勝てねぇ。
それは俺とお前とでは決定的に違うものがあるからだ。
それが何だか分かるか?」
「………っ!!」
「力だよ。
お前と俺とでは圧倒的に力の差がある。
すばやさではお前の方が上だが、軟弱なお前の攻撃をいくら受けたって俺は倒せねぇよ。」



男の言葉にシンクはうつ伏せに倒れたまま土をギュッと握り締めた。

男の言葉に間違いはないことを痛感しているからだ。
ここがオールドラントであれば術を駆使して戦うことも出来た。
だが、ここはもうオールドラントではない。

音素もないこの世界では術も使えない。

とすれば、シンク自身の筋力で全てが決まるが、まだ少年のシンクにがっちり体型の男にパワーで勝てるはずがない。

コジョフーに偉そうなことを言っているが、今の自分は本当に無力で、無様だ。



「ストレス解消になった上に、取り引き道具までいただいちまって、悪いな。
これ以上、騒ぎを起こすと面倒だ。
俺はこのままずらからせてもらう。」
「待ちな!
僕は…まだ負けたなんて言った覚えはない!!」
「分からねぇ奴だな。
他のポケモンでもゲットして、格闘ごっこでもしてな。」
「悪党が偉そうに僕に説教するのやめてくれる?ヘドがでる!」
「…どうやら、まだ痛い目にあいたいらしいな!!」



シンクの挑発的な言葉に、男もついにキレたらしく、うつ伏せで倒れるシンクの胸ぐらを掴み、そのまま持ち上げた。
苦しそうに眉を寄せるシンクに構うことなく、男はシンクの顔を殴り付けた。



「口では偉そうなことを言ったところで、結局はこのザマじゃねぇか!
俺に手も足も出ない。
弱いクソガキが、生意気なこと言ってんじゃねぇぞ!!」



怒りのままにシンクを殴り付ける男の姿にコジョフーはかたかたと体を震わせた。

あんなにボロボロになりながらも、シンクは引こうとしない。
明らかに勝ち目なんてないのに。

自分みたいなヘタレの弱虫なんて、見捨ててしまえば、あんなに痛い思いをしなくてすんだのに。

どうして?
どうして?

そんな思いがぐるぐると巡った。
けれど、疑問に思うこの気持ちよりも強く沸き上がってくる強い思いを感じた。

助けたい。
弱い自分に辛辣な言葉をかけながらも、強くなるためにいつも鍛練に付き合ってくれた。

まだまだ弱いままだけど、助けられるか分からないけど。

だけど、コジョフーは思った。

シンクを、助けたいと。

冷たいように見えて、本当に優しい人を…助けたい。
シンクが自分のことを相棒だと認めてもらうことがコジョフーの目標なのだ。
その目的を果たす前に離ればなれになるなんて絶対に嫌だ。

もっと一緒にいてシンクのことを知りたい。
だから、勝てないかもしれないけど、立ち向かわなければ。

ここで勇気を出さないで、一体どこで出すんだ?



「ジョッ、フー!」




強く、強く沸き上がってくる思いと共にコジョフーは技を放った。
それは大きな爆音を生み出した。



「な、なんだ!?」



シンクに気をとられていた男は突然響いた爆音に慌てて音のした方角…自分の車へと視線を向けた。

車は大破し、煙をあげて燃えていた。



「バ、バカな!?
簡単に壊されるような造りじゃないんだぞ!?」



見るも無惨な姿へと変わってしまった己の車を見て、男はただ呆然とした。
ポケモンが檻の中で技を放っても壊れないように、その対策はしてきていた。
にも関わらず、檻どころか車まで大破してしまっていれば驚きも隠しきれないのも当然だ。



「ジョフ、ジョフー!コジョー!!」
「なっ!?
く、来るな!!ココロモリ!!
“エアカッター”!!」
「ロロ、モリィ!!」
「ジョフッ!」



煙をあげる車の中から姿を現したコジョフーは男のもとへと向かってきた。
慌てた男はココロモリに指示を飛ばしたが、コジョフーはその攻撃を流れるような動きでかわしたあと、ココロモリに“おんがえし”を放ち、男には“はどうだん”をお見舞いした。

その攻撃に男もココロモリもバタリと倒れた。

シンクはいつもの気弱な様子とはまるで違うコジョフーの姿に呆気にとられていた。



「シンク!!コジョフー!!」
「すごい音がしたけど…って、どうしたの!?」
「だ、大丈夫か!?」



シンクが呆然としてコジョフーを見つめる中、さきほどの爆音を聞き付けたサトシたちが慌ただしく姿を現した。

そしてずいぶんとボロボロのシンクと、その傍らに倒れている男とココロモリの姿を見て、戸惑いながらもシンクの身の心配をした。

デントの手当てを受けながら、シンクはことのあらましをサトシたちに説明した。
すると、ルークとサトシが男とココロモリを手際よく拘束し、ヒカリはジュンサーへと連絡を入れた。

ジュンサーから、ブローカーがここに来るという情報を仕入れて、その男の行方を捜していたと聞き、それが今、倒れている男のことだとサトシたちも瞬時に理解した。
男のことはジュンサーに任せた。



「本当に無茶しないで、シンク。
すっごく心配したんだから!!」
「…本当、無様だよ。
あんな男に手も足も出ないなんて…一生の汚点だよ。」
「でも、コジョフーも頑張ったね!
コジョフーと2人で鍛練したいからって離れたから、シンクも他のポケモンは連れてなかったわけだし…。
ブローカーに連れていかれなくて本当に良かったね。」
「…ジョフゥ…。」
「えっ!?どうして泣くの!?」



軽口を交わすくらいの元気はあることに安堵して笑いかけるも、その隣にいたコジョフーはボロボロと、涙を流した。

そんなコジョフーの姿にアイリスは慌てた。
泣かせるようなこと言った!?とおろおろするばかりだ。



「ジョフ、ジョフー…コジョジョ…。」
「…シンク、コジョフーが“師匠が無事で本当に良かったです。”って言ってます。」



ふるふると体を震わせ、言葉を発すると、アリエッタがそれを通訳した。
コジョフーの言葉にシンクはふいっと顔を背けながら言葉を発した。



「僕があの程度でやられるわけないでしょ。
…あのあと、反撃するつもりだったし。」
「ジョフ!ジョジョフー!!ジョフジョッフー!!
コジョー!ジョッフー!!」
「…“ボクなんかのために無茶しないでほしいです!
師匠の隣に立てるほど、ボクは強くないし、弱いですけど…ボクのせいで師匠が傷付くのはイヤなんです!!
ボク、もっと強くなります!!
師匠のパートナーとして認めてもらえるように強くなります!
だから、もう無茶はやめてください!”…そう、言ってるです。」
「………!!」



コジョフーの言葉をアリエッタに通訳され、それを聞いたシンクは大きく目を見開いた。
未だに恐怖心が抜けず、震えるコジョフー。
シンクはブローカーが怖くて震えていたのだと思っていた。
しかし、それは違っていた。
コジョフーが怖かったのは、シンクが無茶をして傷つくことだったのだ。



「……アンタが強くなるって言うなら…、別にアンタに任せないこともないけど?
…強くなるって言葉に嘘はないみたいだし。
…だから、新しい技まで使えるようになったんでしょ?」
「ジョフ?」
「さっきの攻撃。
僕は見たこともない技だった。」
「ジョフ!」



シンクの言葉にコジョフーはこくこくと何度も頷いた。
そう…、シンクを助けたいと思った時に自分の体の中から新しい力の芽生えを感じたのだ。



「…それに、…僕のパートナーがアンタじゃないなら、誰がなるのさ?
…そんな分かりきったこと聞くの、やめてくれる?」
「ジョフー…。」
「だから何で泣くのさ!?
僕のパートナーがそんな簡単に号泣しないでくれる!?
僕までヘタレだと思われるんだけど!!」
「ジョフ、ジョフー。」
「“師匠、大好きです。”って言ってます!
良かったですね、シンク!」
「なっ!?
ぼ、僕は別にそんなこと言われても嬉しくもなんともないから!」
「顔が赤いぜ?」
「う、うるさいなっ!!
…そ、それよりもコジョフーが新しく覚えた技の名前を教えてもらいたいんだけど!」



コジョフーの突然の告白に顔を真っ赤にするシンクをからかうルークにシンクは顔を背け、話をそらした。

そんなシンクを見つめながらコジョフーは、ただ嬉しくなった。
シンクはとっくにコジョフーのことを相棒として認めてくれていたのだ。

それを感じることが出来て、コジョフーは今まで生きてきた中で最高の喜びを感じることが出来た。



『…言っておくが、お前がシンクの相棒として相応しくない行動をとったら、オレがシンクの相棒として返り咲くつもりだから、そのつもりでいろよ?』
『えっ!?』



歓喜に震えていたコジョフーはウォーグルの言葉を聞いて、石化した。

コジョフーの悩みは絶えないようだ。

だが、そのあとにウォーグルから『お前も頑張ったな。オレもお前の仲間で良かったと思ってるぜ?』という言葉をもらい、コジョフーはにっこり笑った。

そう、ここが自分の居場所。
大好きな人やポケモンと過ごせる、あたたかな場所。
シンクと出会う前は役立たずだと罵られるばかりだったけど、シンクは教えてくれた。
努力して、頑張れば居場所だって手に入れられるんだってことを。

今回の出来事はシンクとコジョフーを、大きく成長させてくれるものとなった、そんな1日だった。


End

※※※

ブローカーに捕まるコジョフー。
そんなネタで書かせていただきました。

ありがたくも、細かい設定まで書いてくださったので書きやすかったです♪

頑張るシンクだけど、あっちも本職で劣勢になるシンクを助けるコジョフーとか…!!
なんと萌える設定なんだ…!!

いろいろと脳内で妄想が暴走してまとまりつかなくなったくらいだったんだぜ!!

ウォーグルさんもシンクの相棒の座を狙ってはいますが、何だかんだ言ってもコジョフーさんのことを、認めてはいます。
ヘタレなので、背中をオレが押してやらねば!と思っての言葉です。

…シンクの相棒の座を狙ってることに変わりはないですけどね(* ̄∇ ̄*)

黒鳥様、こんなものでよろしければお受け取りくださいませ!

本当にありがとうございました♪

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