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「フシギダネ、頼むぜ!」
「ダネダッ!」
「トリドトン、油断しちゃダメよ。」
「トリドッ!」



バトルも後半戦を迎えたとあって、盛り上がりを見せていた。
シロナもサトシもどこか楽しそうだ。



「トリドトン、“ストーンエッジ”!!」
「“はっぱカッター”で撃ち落とせ!」



先手必勝と攻撃をしかけるも、その攻撃はあっさり相殺された。
相殺された攻撃を見つめながらシロナは思った。

本当に彼は不思議なトレーナーだ。
ブイゼルも、ワニノコも、フシギダネも進化させていない。
にも関わらず、チャンピオンたる自分のポケモンに遅れをとることなどない。
互角以上に渡り合うその実力は一朝一夕につくものではない。

彼の歩んできた道が、少しずつ形となってきた証なのだと思わせてくれる。
進化などさせなくても、サトシはそのポケモンに合わせたバトルを組む。
それは誰にでも出来ることではないのだ。

いろんな経験をしているからこそ、それが分かる。
それに、こんなに本気でバトル出来る相手もそうはいない。
まして、その相手をしているのがチャンピオンでもなく、ポケモンリーグで優勝したわけでもないトレーナーなのだ。

否、彼の実力ならいつ優勝してもおかしくはない。
そう思わせるトレーナーだ。
だからこそ、手加減などする必要などない。
本気でバトルして、楽しもう。
そう思った。



「トリドトン!“じしん”!」
「飛べ!フシギダネ!」



ポケモンたちと築いてきた信頼関係。
それは、ただ技の指示をするだけではない。
他人からしたら、それは指示ではないと思えるような指示をしてもサトシのポケモンたちはそれを正確に読み取り、応える。

現にフシギダネは『飛べ』と言われただけなのに、“つるのムチ”を使って空へ飛んだ。
これは初戦のワニノコの同じだ。

『踊れ』と言われただけで『避けろ』と言われたわけではないのに、サトシが何を望んでいるかを正確に読み取るのだ。
これぞ、サトシとサトシのポケモンたちだからこそ成せる技だ。



「フシギダネ!“ソーラービーム”!!」
「トリドトン!“ヘドロばくだん”!!」



互いに効果抜群の攻撃を受けたが、空へ飛んだフシギダネは地上でソーラーパワーを取り込むより、太陽により近い位置で取り込んだからか、その威力は想像以上だった。
トリドトンの“ヘドロばくだん”をあっさり破り、あまつさえ戦闘不能にまで追い込んだ。

みず・じめんタイプのトリドトンではダブルで効果抜群の攻撃だったのでやむを得ない部分もあったが、それにしてもあのフシギダネのレベルは相当高いのだと思い知るには十分だった。

進化していない状態でこれほどまでに強いのかとシロナは表情にまでは出さなかったが驚いた。
戦闘不能になったトリドトンをモンスターボールに戻しながらシロナは満足そうに笑った。

本当に不思議なトレーナーだ。



「ピカチュウ。次は君に決めた!」
「ピッカー!」
「私はルカリオよ。」
「ワウッ!」



第五戦目は、ルカリオVSピカチュウ。
シロナにはピカチュウとのバトルも何度か見られているので、こちらの手の内は知られているが、シロナのルカリオに会うのはこれが初めてだ。
どんな攻撃をしかけてくるか、分からない以上…警戒して然るべきだ。



「このままでは終わらないわよ、サトシくん。」
「俺だって負けるつもりはありませんよ!!」
「ルカリオ!“はどうだん”!」
「ピカチュウ!避けろ!」



強力な攻撃に避けるよう、指示するサトシ。
ピカチュウも持ち前のスピードを活かしてその攻撃を避ける。
ルカリオのスピードとパワーは相当なもので、そのレベルの高さを痛感せざるを得なかった。



「攻撃の手を緩めないで、ルカリオ。
“じしん”!!」
「…!ピカチュウ!飛べ!」
「フシギダネの時と同じね。
だけど、同じやり方は通じないわよ、サトシくん。
ルカリオ!“サイコキネシス”!!」
「ワーウッ!」



効果抜群なだけでなく、ルカリオにはスピードもパワーもある。
それをくらったらひとたまりもないと、空中に逃げるように指示したサトシ。
しかし、同じ手が通じるほどシロナは甘くない。
尻尾で空へ飛んだピカチュウを“サイコキネシス”で捕らえ、地面へと叩きつけた。



「とどめの“じしん”!!」
「ピカァッ!!」
「ッ、ピカチュウ!!」



地面へと叩き付けられ、ふらつくピカチュウにシロナは追撃してきた。
効果は抜群の攻撃にピカチュウはばたりと倒れた。



「ピ、ピカチュウ、戦闘不能…」
「ピーカッ!」



デントがコールしようとした時、ピカチュウの声がそれを遮った。



「…さすがはサトシくんのパートナーね。
ルカリオの“じしん”をを受けてもなお、立ち上がるなんて…、でも…効果抜群の攻撃をまともに受けたことに変わりはないわ。
まだピカチュウに戦えるほどの体力はあるのかしら?」
「ピッカァ…、ピ…ピカッ!」



シロナの言葉にまだ戦えるよ!言わんばかりに声をあげるピカチュウ。
しかし、それも必死に強がっているのだろう。
息は絶え絶えで、ふらついている。

そんなピカチュウを見たサトシは静かにピカチュウの元に近付き、そっと抱き上げた。



「ピ、ピカピ!?」



フィールドに入って、ポケモンに触れた時点でそれは負けとなる。
つまりは、ピカチュウにサトシが触れた時点でルカリオVSピカチュウ戦はピカチュウの負けとみなされるのだ。
それが分かっているからこそ、ピカチュウは驚いたようにサトシを見上げた。



「いいんだよ、ピカチュウ。
みんなの頑張りを無駄にしたくないっていうお前の気持ち、ちゃんと伝わったぜ。
その気持ちだけで十分だよ。
ありがとう、ピカチュウ。」
「ピカピ…。」



穏やかに微笑むサトシにピカチュウはこくりと頷いた。

そう、サトシとはこういうトレーナーなのだ。
勝ち負けだって大事だけど、それよりサトシが大事にしてるのはポケモンたちのこと。

それを何の躊躇いもなくやってみせるから、サトシの周りには人もポケモンも集まってくるのだ。



「まだ、負けたわけじゃない。
…最後は…、リザードン!君に決めた!」
「ガウッ!!」
「…最後のバトルね。
…天空に舞え!ガブリアス!!」



最後のバトル。
それはガブリアスVSリザードン。

迫力のあるバトルになるだろうことは容易に想像がついた。



「…ガブリアスは間違いなく、シロナさんのポケモンの中で一番レベルの高いポケモンだわ…。
サトシがガブリアス相手にどう戦うかがバトルの勝敗を分けることになりそうね…。」
「ポーチャー。」



ヒカリがごくりと唾を飲み込みながら呟くと、ヒカリに抱き締められているポッチャマもごくりと唾を飲み込んだ。



「リザードン!“きりさく”!!」
「グオォォォーッ!」
「ガブリアス、“ドラゴンクロー”!!」
「ガブッ!」



リザードンの“きりさく”とガブリアスの“ドラゴンクロー”がぶつかり合う。
凄まじい衝撃と音とがびりびりと響き渡った。

その威力は相当なもので、どちらもかなりレベルが高いことを一発目の攻撃で誰もが嫌と言うほど肌で感じ取った。



「…強いわね、サトシくんのリザードン。」
「はい。
いつもピンチの時に助けてくれるとても信頼できる奴ですよ。
だから、シロナさんに負けませんよ!
俺は絶対に勝ちます!」
「私もチャンピオンとして負けるわけにはいかないわ。
…ガブリアス!相手にとって不足なしよ。
…“りゅうせいぐん”!!」
「ガーブッ!」
「リザードン!お前のスピードならいける。
空へ飛べ!」
「ガウッ!」



シロナの容赦のない攻撃にサトシは慌てず指示をとばした。
ガブリアスの実力は分かっている。
あの攻撃をまともに食らえば、リザードンといえども、戦闘不能になりかねないほどの威力をもっている。
けれど、リザードンも無駄な時間を過ごしていたわけではない。

ずっとリザフィックバレーで修行に励んでいたのだ。
リザードンのスピードなら、避けることも可能だ。
そう信じての指示だった。

リザードンもサトシの信頼にしっかり応え、無差別に降り注ぐ“りゅうせいぐん”を無駄な動きなく避けていく。

まるで空中で舞を舞っているようだった。



「…まだよ、ガブリアス!
“ドラゴンクロー”!」
「リザードン!“つばさでうつ”で迎え撃て!!」

「…スゴい…。
あのシロナさんと互角に渡り合ってる…。」
「こんなに強いポケモンをゲットしてたなんて…知らなかった…。」
「サトシは聞かれなきゃ自分がどんな旅をしてたのかとか、どんなポケモンをゲットしたのかとか言わないもんね…。
でも、サトシは強いわよ。
ポケモンたちとの絆だって確固たるものを築いてるもの。」
「「…………。」」



ヒカリの言葉にデントもアイリスも何の言葉も発することが出来なかった。
イッシュに来る前のサトシをデントとアイリスは知らない。
イッシュに来る前に旅をしていたことも何となく聞いていたが、まさかここまで実力のあるポケモンたちを育ててきたなんてことを全く知らずにいたのだ。
だから、見るもの全てが初めてでただ、驚くばかりだった。



「リザードン!“かえんほうしゃ”!」
「“あなをほる”で避けるのよ。」



シロナも本気で、手加減なしでバトルしている。
そんなシロナに対等に渡り合うサトシの実力は想像以上だ。

攻撃をくらったら、やり返し。
それの繰り返しだったが、それは永遠に続くのではないかと錯覚するようなそんなレベルの高さを窺わせるものだ。

ここまでレベルの高いバトル、そうそう拝めるものではない。
現に、騒ぎを聞き付けたのか、バトルを見学にたくさんのトレーナーたちが現れ、驚いた様子で見つめている。
その人数は増える一方だ。

だが、シロナもサトシも野次馬たちが集まってきていることにまるで気付いていない。

目の前のバトルに集中していて、周りなどにきを取られてはいない。



「これで決めるわよ、ガブリアス!
“ドラゴンダイブ”!」
「リザードン!この技に全力を込めるんだ!!
“ドラゴンテール”!!」



ドオン…という大きな衝撃と音が再び響き渡り…、フィールドは大きな砂煙で包まれた。

煙が晴れると、そこには互いに背を向けた状態で立つガブリアスとリザードンがいた。

…だが、少しの間のあと、両者は同時に倒れた。



「…ガブリアス、リザードン、共に戦闘不能!!相討ち!
相討ちが二戦、それぞれ二勝二敗なので…このバトル、引き分けです!!」
『ワアアアアアーーーッ!!』



デントのコールを聞いたあと、フィールド内は歓声がわきあがった。
そこでようやくシロナとサトシは人が集まってきていることに気付いたのか、ひどく驚いた表情を浮かべていた。

しかし、シロナはすぐに我に返り、サトシの元に歩み寄った。



「サトシくん。
本当に楽しいバトルをさせてもらったわ。
…やっぱり、貴方はかなり実力のあるトレーナーよ。
…貴方がポケモンリーグで優勝して、そして同じ場所に立てる日を心待ちにしているわ。」



そう言いながらそっと手を差し出したシロナ。



「俺の方こそ、とてもいいバトルをさせてもらいました。
ありがとうございます、シロナさん。
相性の良さがなければ、全敗しててもおかしくなかっです。
やっぱりシロナさんは強いですね!
俺、もっともっといろんなところを旅して、もっともっとポケモンたちと深い信頼関係を築いていきます。
その時にまたバトルしてください!」



満面の笑顔でシロナにバトルをしてもらったお礼を言いながらサトシはシロナと熱い握手を交わした。

後に、このバトルはイッシュ地方の雑誌に大々的に取り上げられ、サトシはちょっとした有名人となり…サトシを知るイッシュのライバルたちがひどく驚くことになる。


End

※※※

シロナさんとフルバトルでということだったのですが…。
アニメでは6体でてきていないので、ゲームでのシロナさんのポケモンを、参考に作成させていただきました。

長くなってしまったので分けました♪
フルバトルでなければもっとじっくりばっちり書いたんですけど…フルバトルを書くのもめちゃくちゃ楽しかったです!

勝てはしないけど、サトシの実力を考えればこんな展開もアリじゃない?って思いまして。
というか、イッシュリーグ…。
歴代のサトシのポケモンたちが出場してたら絶対に優勝してたように思うんですよねー。

だって、イッシュリーグ…。
今までのリーグ戦と比べると大したことなi…げふんげふん。
すいません。サトシくん贔屓女としては…そう思わずにはいられず…。

榎本さま、こんなカンジで大丈夫でしたかね…?
リザードンかゴウカザルはいれてほしいとのことだったんですが、私がどっちも好きなので両方いれちゃいました☆

バトルシーンを書くセンスないので、こんなしょぼいカンジになっちゃいましたけど、少しでも楽しんでもらえたら幸いでございます。

リクエスト、ありがとうございました…!!

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