05
その夜、サトシはピカチュウと共に街の公園にいた。
公園にあるブランコに腰掛け、ピカチュウを膝の上に乗せ、抱えながら、サトシは空を見上げていた。
「ピカピ?」
「なあ、ピカチュウ。
俺はさ、強くなるためには人によっていろんなやり方があると思うんだ。」
「チュウ?」
「シンオウで、俺はシンジと何度も対立しただろ?」
「ピカ。」
突然、語り始めたサトシ。
ピカチュウは最初こそ不思議そうにサトシを見上げていたが、途中からサトシの言葉に相槌をうちながら、耳を傾けた。
「シンジは強くなるためにヒコザルに無理矢理特訓させるだけさせて、最後にはヒコザルのことを見限って、逃がした。
俺はそれがずっと許せなかったし、ヒコザルは弱くないんだってことをシンジに認めさせたくて、必死に頑張ってきたつもりだ。」
「ピカ。」
「シンオウリーグでシンジがゴウカザルのことを認めてくれた時、すごく嬉しかった。
それと同時にシンジは強くなるために直向きだったんだなって思えた。
シューティーも、シンジとそういう点では同じなんだと思う。
…でも、…でもさ…。」
「ピカピ?」
ずっと空を見上げながら話をしていたサトシはその視線を地面に落とした。
ピカチュウはそんなサトシの顔を見上げ、名前を呼んだ。
名前を呼ばれたサトシは小さくため息をついた後に静かに口を開いた。
「シューティーは基本さえしっかりしてれば、強くなれるって思い込んでる。
基本も大事だってことも分かってるんだ。
俺だって旅に出たばかりの頃、基本を知らなかったからピジョンをゲットするためにゲットしたばかりのキャタピーでバトルしたし…。
多少でも基本を知ってれば、あんなことしてなかっただろうなとも思う。
…でもさ、ポケモンってそれだけじゃないだろ?
ポケモンだって生きてるんだ。
物じゃない。
基本を守ることだけに凝り固まってたら、応用をきかせていくことだって出来なくなっていくんじゃないかってそう思うんだ。」
「ピカピ…。」
サトシの言葉にピカチュウはじっとサトシを見上げながら、その小さな手でサトシの頬をピチッと叩いた。
サトシの言いたいことは分かる。
だって、基本に拘ってたら、きっとピカチュウもそして他のポケモンたちもサトシに強い信頼を寄せなかった。
基本なんて、サトシにとってはあってないようなものだ。
だからこそ、ピカチュウたちはサトシのことを唯一無二の主と、マスターと認め、そばにいる。
強くなるために進化させる。
サトシはシューティーの言うそんな基本なんて意識していない。
サトシのポケモンたちが進化する時はいつも、ポケモンたちの意思に任せている。
自然に強くなりたいという意思をもって進化している。
サトシは基本よりポケモンたちの意思を尊重してくれるから。
だから、ピカチュウがライチュウに進化することを拒んだ時やフシギダネがフシギソウに進化することを望んでいないことを知った時も、進化させようとしなかった。
そしてその姿勢は今も変わらずにある。
もし、ピカチュウの主が、フシギダネの主がシューティーだったら…きっと、彼は強くなるためには進化することが基本だと言って進化させることを強要してくるのではないかと思う。
シューティーの手持ちポケモンはサトシの手持ちポケモンと違って進化することを拒むポケモンたちはまだいないようだが、いつかはそれを拒むポケモンと出会うことになると思う。
ピカチュウもフシギダネも進化することを強要せず、その意思を尊重してくれたサトシの気持ちに応えたくて、強くなろうと思った。
シューティーはそれを知らない。
進化することを拒むことで生まれる強さもあるんだということを知らない。
彼は基本に拘りすぎているから。
―――ねえ、サトシ。
だったら、そんな強さもあるんだってことをあの子に分からせてやろうよ。
信頼から生まれる強さもあるんだってことをあの子に見せつけてやろう。
ピカチュウはそんな気持ちを込めて、サトシを見上げた。
だって、誰1人としてサトシと共に旅をしたことや、出会ったことを後悔してるポケモンたちはいないんだから。
みんな、サトシをマスターに選んで良かったと心から言えるから。
そんなピカチュウの気持ちが伝わったのか、そうでないのかは定かではないが、ぽかんとしていたサトシが穏やかに笑った。
さっきまで沈んだ表情を浮かべていたのがウソのように笑った。
「ありがとう、ピカチュウ。
お前が俺の相棒で良かったよ。」
「ピッカ♪」
「俺がこれまで旅をしてきたことが無駄じゃないんだってことをバトルで証明してみせる。
…そのためには連絡を取らなきゃいけないよな…。」
サトシの言葉が嬉しくてピカチュウはにっこり笑った。
全てが伝わったとは思わないけれど、サトシの沈んだ顔が笑顔になったことがただ、嬉しかった。
そして、頑張ろうな!と言うサトシにピカチュウも力強く頷いたのだった。
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