06
「エニシダさん、あの…!」
全てのバトルが終わった。
だが、サトシに笑顔はなかった。
固い表情はそのままに、すぐにエニシダの元に駆け寄った。
「キョウヘイくんを追いかけるんだろう?
バトル大会は全部終わったし、ここは僕に任せてサトシくんは行って。」
サトシの言わんとしていることを理解したエニシダは、にっこり微笑みながら頷いてみせた。
エニシダに許可をもらい、サトシはキョウヘイのあとを追いかけた。
***
「……キョウヘイ!!
ここにいたのか。」
キョウヘイのことを捜していたサトシは街の中にあった小さな池の畔に座り込むキョウヘイを見つけてその隣にそっと腰をおろした。
「…キョウヘイ、後悔してるんだろ?」
「…………。」
バトルフィールドで言ったことと同じ問いかけをするサトシ。
しかし、キョウヘイは膝を抱えたまま俯き…、言葉を返さなかった。
「…“足掻く”なんて言ったこと、後悔してるんだろ?」
「…ッ!!」
サトシの言葉にキョウヘイは、びくりと体を震わせた後、ぼろぼろと涙を流した。
「…僕…、ぼく…!!
どうしよう…ぼく…、ミルホッグとウルガモスにヒドイこと…言った…。
“足掻く”なんて…、最初から負けるに決まってるって決めつけてる言葉を…ミルホッグとウルガモスに…!!
大切なのに!大好きなのに!
今までだっていつも、頑張ってくれてたのに!
たくさん…たくさん励まされてきたのに…!!
それなのに…あんなヒドイこと…!!
僕は…本当に最低だ…!!」
キョウヘイは声を震わせて泣いた。
バンギラスが必死に戦ってるその姿を見て、キョウヘイは気付いた。
ポケモンたちに言ってはいけないことを言ってしまった。
“足掻く”なんて言葉、ポケモンたちのことを信じていないから出る言葉だ。
最初からミルホッグやウルガモスに「どうせ君たちじゃサトシさんのポケモンたちには勝てないんだ」と言ったようなものなのだ。
大切な仲間に向かって、なんてことを言ったんだとキョウヘイは強く後悔した。
大切な仲間のことを信じ、そしてその信頼に応えるようなトレーナーでありたいと思っているのに、あの言葉ひとつで全てを否定してしまった。
自分が一番にポケモンたちのことを信じて戦わなければならないのに。
それを、放棄するような発言を簡単に吐いた。
今まで、イッシュ地方を旅して、苦楽を共にしてきた仲間に向かって、なんてことを言ってしまったんだろう。
サトシがもっとも嫌うトレーナーじゃないか。
否、サトシがどうこうよりも、キョウヘイは自分自身が嫌いになった。
そんなキョウヘイの心中を知ってか、知らずか…サトシは静かに口を開いた。
「…キョウヘイ。
俺はさ、ポケモンのことを道具みたいに扱うような奴はキライだ。
許せないって思う。」
「…ッ!!」
「今までもそういう奴にも、たくさん会ってきたし、その度に俺はそういう奴が許せなくて反論してきた。
でも、キョウヘイは違うだろ?」
「……え…?」
サトシの言葉にキョウヘイは思わず顔をあげた。
違う?
だって、大切な仲間を見下すような発言をしたのに?
「だって後悔、してるだろ?」
「……。」
「……あのさ、…俺の初めてのポケモンリーグ…、リザードンが俺の言うことを聞いてくれなくて負けたことはキョウヘイも知ってるみたいだけど…、あの時さ…、俺は自分の力を過大評価してたんだ。
『俺が負けるはずない!俺の力はこんなもんじゃない!』って…、みっともなくふてくされて、負けたことを認めようとしなかった。」
「サトシ…さん?」
「…あの時にさ…、思ったんだ。
リザードンが俺の言うことを聞いてくれないから負けたんだって。
リザードンさえ、俺の言うことを聞いてくれれば勝てたのにって…思ったんだ。
あのあともリザードンは俺の言うことを聞いてくれなくて…そんな時にオレンジ諸島でリザードンを看病しながら声をかけてて…気付いたんだよ。
俺は何にも分かってなかったんだって。
リザードンに言うことを聞かせることしか考えてなかったんだって、後悔した。
ポケモンたちの気持ちを考えずに…自分の意見ばかり押し付けていたんだって…リザードンが俺に教えてくれた。」
「………。」
「ずっと一緒にいたらさ、言っちゃいけないことを言ってしまうことだってあると思う。
思わず言っちゃって…相手を傷付けることだってある。
でもさ、そのあとに気付くか、気付かないとでは全然違うと思う。
俺もいろんなところを旅して…いろんなことに気付いて…ここまで来れたし、いろんな仲間とも会えた。
だからさ、気付けたんなら、それでいいと思うぜ?
そのあとに、どうするかが大事じゃないか?」
「……サトシさん…、僕…。」
サトシの言葉にキョウヘイは腰についたモンスターボールを取り、掌に乗せた。
「…ミルホッグは…、ミネズミだった時に…、旅に出て初めてゲットしたポケモンなんです。
結構、大袈裟なところがあって…。
ちょっとしたことですごく驚いたり、笑ったり喜んだり…怒ったり、泣いたり…。
全部が大袈裟だけど…、でも、大袈裟なミルホッグだから…バトルで勝てた時は誰よりも一緒に喜んでくれるんです。
負けた時だって僕以上に悲しんで、悔しんでくれる…。
だから、僕も頑張らないといけないなって…、挫けそうになった時も背中を押してくれました。」
「…うん。」
「…ウルガモスは…密猟団に襲われていた時に助けて…、密漁団に襲われていたから…人間に対して強い警戒をみせていたのに、それでもウルガモスは僕たちと一緒にいたいって自分から仲間になってくれました。
もちろん、仲間になってくれたとはいっても最初は警戒心が抜けてなかったけど…一緒にいるうちに信頼してくれるようになりました。
…大人しめだけど、優しくて…僕が落ち込んだりするといつもそばにいてくれるんです。
何も言わずに、ただそばにきて、そっと寄り添ってくれる。
すごく優しいポケモンなんです。」
「……うん。」
ぽつりぽつりと語りだしたキョウヘイ。
けれど、その言葉からミルホッグやウルガモスのことを大切に思っている気持ちが痛いほどに伝わってきた。
だからこそ、キョウヘイは自分のことが許せないのだろう。
大切なのに、その存在を否定するようなことを言ってしまったのだから。
「…僕は…、ミルホッグもウルガモスも、大好きなのに…、サトシさんとバトル出来るのが嬉しいからって、あんなこと…!!」
「…言ってはいけないことを言ってしまったら、もう友達でいられなくなるのか?」
「…お前なんか友達じゃないって言われても仕方ないことを僕はしてしまったんです…。」
「…キョウヘイ。
俺が、シューティーに言ったこと聞いてたか?」
「もちろんです…。」
「ポケモンは生き物だって、俺…言ったよな?」
サトシの言葉にキョウヘイは、こくりと頷いた。
「機械じゃない、俺たちと同じ…この星に生きる生き物。
ポケモンたちは俺たちが言ってることを理解してくれる。
だったらさ、キョウヘイ1人で悩まずに、ミルホッグとウルガモスと話し合えばいいんじゃないか?
ミルホッグとウルガモスが、どう思ってるか聞かずに…もう友達ではいられないって決めつけるのはおかしいことじゃないか?
キョウヘイ自身が友達でいたいって思っているなら、話し合う必要があるんじゃないか?」
「…話し合う…?」
「ミルホッグやウルガモスとの、出会いや思い出…。
少ししか聞いてないけど、キョウヘイとキョウヘイのポケモンたちとの絆がそんな薄っぺらいものだとは思えないんだ。
だったら…ミルホッグとウルガモスの意思も聞くべきじゃないのか?」
「………。」
「トレーナーとポケモンは気持ちが一方通行じゃ、ちゃんとした信頼関係なんて築けない。
言葉だけじゃなくて、心で繋がってないと…、一緒に強くなんてなれないだろ?」
そう言いながら、サトシはキョウヘイの胸に拳を押し付けた。
「薄っぺらい言葉だけじゃダメだ。
心で伝えなきゃ。」
「心で…伝える…。」
サトシの言葉を聞いて、キョウヘイは再び、モンスターボールへ視線を落とした。
もしかしたら、許してくれないかもしれない。
あんなヒドイことを言った自分のそばにいたくないと、拒絶されるかもしれない。
…でも、このまま逃げちゃいけない。
サトシの言葉を聞いて、キョウヘイはそう強く思った。
そして…、2つのモンスターボールを宙に放った。
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