09
「ウソ…だろ…?」
フシギダネが“ソーラービーム”を放ったあと、シューティーは呆然としていた。
フィールドには戦闘不能となったジャローダ。
そしてサトシに労いの言葉をかけてもらい、嬉しそうに、満足そうに笑うフシギダネがいた。
今、シューティーが驚いているのは負けたことに、ではない。
「あれが…進化もしていないポケモンの放った攻撃だと言うのか…?」
今、シューティーの思考を埋め尽くしているのはフシギダネが放った“ソーラービーム”の威力だ。
進化もしていないというのに相当な威力をもっていたのだ。
否、最終進化を迎えたポケモンでもあそこまで威力のある攻撃を放てるかと聞かれればNOと答えるだろう。
それほどまでに凄まじい威力をもっていたのだ。
「どうして…!!
どう考えてもおかしいじゃないかっ!!
進化もしてないポケモンに僕のジャローダが攻撃の1つもあてられないまま負けるなんて…!!
僕は、ジャローダを強くするために特訓もしたし、素早さをあげるためにインドメタシンを使ったりもした!
やれることは全てやったんだ!
それなのに…進化させてもいないポケモンに負けるなんて…!!
君はそのフシギダネに何をしてそこまで強くしたんだ!?
絶対におかしいじゃないかっ!!」
「何をしたって言われても…一緒に旅をして、いろんな人やポケモンと出会って…時にはバトルしたりして…特別なことは何もしてないぜ?」
「そのフシギダネだったら進化させたらもっと強くなる!
なんで進化させない!?」
「何で?
うーん…理由…って言うとフシギダネが進化することを拒んだからってことになるんじゃないか?」
「進化することを拒んだ!?
どうしてだ!!進化させれば強くなれるんだ!拒む理由なんてどこにもない!」
「それは違うと思うよ。」
全敗し、最後には進化もしてないフシギダネの強力な“ソーラービーム”を目の当たりにして、ただ現実を受け止めきれずにいたシューティーは子供のようにおかしいと言い続けた。
進化させれば手っ取り早く強さを手に入れられる。
それが基本で、揺るがないものだと思っていたシューティーの考えを根底から覆されるバトルだったのだ。
理不尽とも言える怒りをサトシにぶつけ続けていると、シューティーの言葉を否定する声が割って入ってきた。
シューティーはその声の主…エニシダを眉間にシワを寄せながら見つめた。
「進化させれば、強くもなる。
だけどね、強くなる方法が進化だけに限られるわけではない。
その証拠をすでに君は目の当たりにしているじゃないか。」
「…フシギダネとのバトルのことなら…」
「フシギダネとのバトルのことだけじゃないよ。」
「えっ?」
会話に割って入ってきたエニシダ。
シューティーの言葉に苦笑いしていたエニシダだったが、すぐに真剣な表情を浮かべ、きょとんとするシューティーに向かって言葉を続けた。
「あれ?本当に気付いていないようだね。
サトシくんは君とのバトルで、進化できるポケモンなのに一度も進化していないポケモンたちしか出していないんだよ。
ゼニガメはカメックスに。
ブイゼルはフローゼルに。
ワニノコはオーダイルに。
ヘイガニはシザリガーに。
フカマルはガブリアスに。
フシギダネはフシギバナに。
みんな、最終的にはそう言った進化を迎える。
けれどサトシくんが君とのバトルに選んだのは進化してないポケモンだ。
進化してないポケモンだけとなると、いくらフロンティアブレーンと言えどもサトシくんの方が圧倒的に不利だ。
それでも進化してないポケモンを選んで君とのバトルに臨んだ。
サトシくんが君とのバトルで何を伝えたかったか分かるかい?」
「…………。」
エニシダの言葉にシューティーは沈黙した。
エニシダに言われてようやく気付いたのだ。
バトルの途中は『また進化もさせてないポケモンか。』とバカにしていたが、違ったのだ。
サトシはあえて進化させてないポケモンを選んだのだ。
「なあ、シューティー。
俺のポケモンたち、弱かったか?」
「………。」
「俺もシューティーの言葉を否定してるわけじゃない。
実際、俺のポケモンたちの中にも進化することで強くなった奴もいる。
だから、シューティーの言ってることが間違ってるなんて俺も思ってない。
だけど、それが全てじゃない。
だってポケモンたちは生きてるんだ。
進化するかしないかを決めるのはポケモンたちだろ?
フシギダネも進化を迎えそうになった時、それを拒絶して…そのあとも自分の信念を曲げずに努力してきたんだ。
だから、フシギダネはこんなに強くなれたんだ。
進化しなくても、強くなる方法はあるんだ。
俺はシューティーとのバトルでそれを絶対に伝えたかったんだ。」
「サトシくんはいつもポケモンたちの意思を尊重するトレーナーなんだ。
君の言う通り、基本は大切だ。
だけど、君は基本に拘りすぎるあまり忘れている。
ポケモンは機械じゃない。
生き物なんだよ。
そしてポケモントレーナーとして、いろんな人と出会い、自分とは違った考えを聞くことは自分の視野を広げることにも繋がる。
そこからまた強くなっていくものだと僕は思うよ。
だからこそ、サトシくんは全てのフロンティアブレーンを倒し、ここまでレベルの高いバトルを見せてくれたんだと思う。」
サトシくんの一番の魅力はポケモンと築き上げた強く、深い絆だけどね。と言いながらエニシダは笑った。
その言葉にサトシは照れ臭そうに笑った。
「………サトシ。」
「ん?」
静かに目を閉じ、自分とのバトルや他のトレーナーたちとのバトルを思い返したあと、シューティーは目を開け、サトシの名を呼んだ。
「…確かに君と君のポケモンは強い。
そしてその強さに気付けなかったのは僕の経験が足りなかったからだ。
僕は…進化させれば強くなる。
そう思って、ここまで来たし、正直…それが全て強さへと繋がると思っていた。
とにかく早く進化させなければと躍起になっていたようにも感じる。
……だけど、君とのバトルを思い返してみて、ようやく気付いたよ。
…僕は自分が強いんだって、それが揺るがないものだって思ってた。
だから、君に負ける自分を認めたくなかった。
君は強い。バトル構成だけじゃなく、ポケモンたちと築き上げてきた絆や強さも…、僕なんかじゃ足元にも及ばなかったことに…ようやく気付いたよ。
君と君のポケモンとのバトルは力じゃなくて…心や絆の深さでするものなんだ。
進化に基本に拘りすぎていた僕が勝てないのも当たり前のことだったんだ。
…完敗だ。」
聞き分けの悪い子供のように敗けを認めるのを拒んでいたシューティーもサトシとエニシダの話を聞き、ようやく自分が負けたことを認めることが出来た。
カベルネ戦を思い浮かべた時、自分と自分のポケモンたちにあんなアイコンタクトをとるだけで、互いが何を伝え合おうとしているのかを理解することなど、到底できることではない。
今の自分のポケモンでは、フシギダネのように『サトシならきっとこうするだろう』と考えて技を放つことだってしない。
それだけではない。
あれだけたくさんのポケモンたちが登場したのにも関わらず、どのポケモンもサトシのことを強く信頼しているのを見てとれた。
ゲットしたポケモンが増えれば増えるほど、一体一体に割く時間もそれに比例して減る。
そうなれば信頼関係を築くことすら、難しくなる。
だが、サトシのポケモンたちは心の底からサトシを信頼し、期待に応えるバトルをする。
それがどれだけ難しいことか、トレーナーならばよく分かる。
そんな考えに行き着いた時、今の自分ではサトシに勝てるはずがないのだと、そう思えたのだ。
以前のバトルで勝てたのもサトシがまだイッシュ地方に来て間もなかったこと、そしてポケモンたちとの絆を深め始めたばかりだったから。
きっとそう時間も経たないうちにイッシュ地方でゲットされたポケモンでバトルして、今のような手も足も出ないバトルとなっていたのではと思わせる…そんなバトルだった。
「君には敵わないよ…。
早いうちから君のことを見下し、弱いと決めつけていた僕に勝てるはずがなかった…。
だけど、僕は僕なりのやり方で強くなってみせる!
次こそは君に勝つ!」
そう言うとシューティーは手を差し出した。
最初こそ不思議そうに目を瞬かせていたサトシだったが、フシギダネが“つるのムチ”でサトシの手を取り、シューティーの方へあげてみせると、サトシはそこでようやく理解したらしい。
シューティーと握手を交わした。
サトシと握手を交わしながら、ちらりとフシギダネを見れば『やれやれ。』と言わんばかりに小さなため息をついていた。
鈍いマスターの行動には慣れているのだろうな、と思いつつ、そこからも付き合いの長さや仲の良さが伝わってきて、それを見たシューティーは自然に思った。
「(ポケモンたちとこんな絆を深めて、結んでいける…そんな関係が理想だな…。)」
そんな考えが頭に浮かんでる時点でもうサトシの強さを理屈なしに認めているんだと思わずにはいられなかった。
これは悔しいから絶対に言わないが、こんなトレーナーになりたいという目標となりうる人物だ。
そしてポケモンたちとどんなスキンシップをとったら、ここまでたくさんのポケモンたちに信頼され、信頼できるような関係を築けるのか知りたいとさえ思った。
もっと強くなりたい、視野を広げて、サトシみたいな独自のバトルスタイルを編み出したい。
そして、そんなときはサトシと一番最初にバトルしたい。
シューティーはそう思った。
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