05
「ケンホロウ、今のところ…全敗だ。
…一矢報いるぞ!」
「ホロー!」
「ヘイヘーイ♪ヘイヘイヘーイ♪」
「ヘイガニ、相変わらず元気爆発だな…!
けど、お前の元気…俺も、もらえたぜ!
ありがとう、ヘイガニ!
バトルも絶対に勝とうぜ!」
「ヘイヘイヘヘーイ♪」
ぴりぴりするシューティーとケンホロウとは違い、出てくるなり何が楽しいのかハサミを上下に振りながらご機嫌な様子のヘイガニに影響され、連戦で疲れが溜まっていたサトシは精神的な疲れをある程度回復させることが出来た。
「ケンホロウ、行くぞ!
“ふるいたてる”から“エアカッター”!!」
「ヘイガニ!“バブルこうせん”!!」
「ホ、ホロ!?」
「ケンホロウ!!
クソ…!あっちは攻撃力もあげてないのに、なんでケンホロウの方が力負けするんだ!?」
すぐに始まったバトル。
先手をうってきたのはシューティーだった。
シューティーは攻撃力をあげてから、攻撃技を指示したのに対し、サトシは“バブルこうせん”を指示した。
しかし、やはりサトシのポケモン。
攻撃力をあげてきたケンホロウの攻撃に遅れをとることはなかった。
元々、元気のかたまりのようなヘイガニだ。
攻撃力自体がもともと高い。
現に、ヘイガニの攻撃は“エアカッター”をいとも簡単に消し去り、ケンホロウにまであてられるほどの威力をもっていた。
「(シューさん、本当に分かってませんね。
サトシさんのポケモンたちはそれぞれの地を旅して、ジムバッジも8個ゲットしてポケモンリーグに挑めるほどの力を持ったポケモンたちです。
更に上位におさまるほど実力もあって、ポケモンたちとも絆を深く結んでるんだ。
そんな強いポケモンたちを前に、たかだか一段階攻撃力をあげたくらいで対等に渡り合えるはずがないのに…。)」
キョウヘイは呆れたようにため息をこぼしながら、心の中でそんな言葉をこぼした。
声に出さなかったのは、デントたちがもっと詳しく聞かせてくれと詰め寄ってくるだろうと思ったから。
「(そんなの冗談じゃない…!
サトシさんのバトルを生で拝める貴重な時を他のみんなに追求されてしっかり見れないなんて…そんなのもうご先祖様に土下座して自分の失態を謝罪し続けてもたりないレベルだ…!!)」
声に出さなかったのは“サトシのバトルを生で見たいから”。
ただ、それだけの理由だ。
サトシが現時点で全勝しているから、多少は警戒はしているだろうが、シューティーの中でサトシは“基本も知らないトレーナー”という考えが抜けきっていない。
まだ、自分の力の方が上だと信じて疑っていない。
だが、サトシは違う。
バトルはどんな展開を見せるか分からないと、バトル構成をきちんと練って挑んでいる。
考え方の違いはもうすでに結果として現れているのに、シューティーはまるで気付いていない。
これも経験の差ということか。
キョウヘイはそう考えた。
シューティー戦が始まる前にも言ったがサトシはとても有名なトレーナーだ。
イッシュ地方は他の地方とあまり交流がない分、サトシについての情報はほとんど伝わってこない。
キョウヘイもサトシのことを偶然知る機会があって知ったくらいだ。
スズラン大会のバトル映像を見て、こんな素敵なトレーナーがいるのかと興奮をおさえきれなくなったくらいだ。
サトシの存在を知ってからキョウヘイは必死にサトシのことを調べた。
そして調べれば調べるほど驚かされた。
各地でいろんな功績をあげているだけでなく、危機を救っていたのだ。
もちろんそれらの全てが知られている訳ではない。
その場にいた人達から話を聞いたからこそ、取り上げられているだけなので、知られざる活躍もきっと多々あることだろうと思う。
そんなサトシは今、マスコミから最も注目されているトレーナーだ。
だからこそ雑誌などでは頻繁にサトシについて取り上げられていて、密かにファンクラブなるものまで存在しているのだから。
「(まあ…、サトシさんのあの様子だと自分が実は有名なんだってことを本当に知らないみたいだけど…。)」
キョウヘイが心の底からサトシを尊敬しているのはいろんなメディアに取り上げられているから、サトシがバトル大会などで好成績を残しているから、というだけではない。
彼はいろんなところで、事件を解決したり、それに貢献したり…困ってる人を助けたりと…、そんなことを当たり前のようにやってのけてきた。
体だって張ってきている。
誰にでも出来ることではない、否…それが出来る人はそう滅多にいるものではない。
だからこそ、サトシのことを下に見るシューティーが許せなかったのだ。
「(他のみんなも実際にバトルして、サトシさんのスゴさを理解されたみたいだし、あの人も身をもってサトシさんのスゴさを知ればいい。)」
悔しそうにサトシを見るシューティーを見つめながら、キョウヘイはそんなことを思った。
「…くっ、いい気になるなよ!
ケンホロウ!“いばる”!!」
「ホローウ!」
「ヘヘヘーイ!」
『おおーっと!ここでシューティー選手、“いばる”を指示しました!
攻撃力が大幅にあがる代わりに混乱させる技にフロンティア・ブレーンはどう対応するのか!?』
「ヘイガニ!
水の中に潜るんだ!!」
混乱するヘイガニにサトシは水の中に潜るように指示した。
すると、ヘイガニはふらふらしながらも水の中に身を潜めた。
しかし、サトシの指示で水中に身を潜めたヘイガニにシューティーは攻撃の手を緩めようとはしなかった。
「混乱がとけるまで待つつもりはない!
ケンホロウ!連続“エアカッター”であぶり出せ!!」
「ホロ!」
シューティーの指示でケンホロウは連続で水中に“エアカッター”を放つ。
その衝撃で大きな水飛沫がいくつも飛んだ。
シューティーは、ヘイガニを水の中からあぶり出し、サトシを焦らせて確実に攻撃を当てていこうと考えた。
「………。」
「混乱させられて打つ手がなくなって言葉もでないようだね?
確かに混乱状態で下手に指示すれば自滅を誘うことになる。
だけど、何も言わなかったとしてもヘイガニが自滅するのも、時間の問題だ。」
「別に言葉が出ない訳じゃないんだけどな…。」
「なに!?」
シューティーの言葉にサトシは苦笑した。
サトシの言葉の意味をまるで理解出来ず、シューティーは眉間にシワを寄せてサトシを睨み付けた…まさにそんな時だった。
ケンホロウの攻撃が水面に激しく打ち付けられる中、ヘイガニが水中から勢いよく飛び出すのと同時に、逃げる暇も与えないほどのスピードでケンホロウの翼をはさむと、そのまま水面へと叩きつけた。
「なっ!?」
「ヘーイ♪へへヘヘヘーイ♪
ヘイヘイヘーイ♪」
そして更にヘイガニは水面に叩き付けられ、その衝撃で満足に動けないケンホロウの翼を再びはさむとそのまま、左右に振り回し始めた。
更に水面にばしばしと叩きつける、というオマケ付きだ。
まるで小さな子供がお気に入りのおもちゃを振り回して遊んでいるような光景だが、これはポケモン同士のバトルである。
…そのはずなのだが、シューティーたちからしたら、なんじゃこりゃな光景だ。
「そ、そんなバカな…!!
混乱させられて、こんなに連続で攻撃することが出来るはずがない!!」
混乱して自らを攻撃することなく、上機嫌にケンホロウに攻撃し続けるヘイガニにシューティーは信じられないものを観るような視線を向けた。
「あれって…混乱してるって言うより…。」
「ただの酔っ払いにしか見えないよな…。」
アイリスの呟きにケニヤンがかわいた笑いを浮かべながらそう返した。
「…くっ!!
ケ、ケンホロウ!
何とか抜け出すんだ!!」
シューティーが慌ててそう指示するも、ケンホロウを掴むヘイガニの力が予想以上に強く、足掻いてはみるものの、その程度で逃がすようなヘイガニではない。
無駄な足掻きとなり、ケンホロウは体力を大幅に消費した。
「ヘイガニ!とどめの“クラブハンマー”!!」
「ヘヘヘーイ♪」
強い衝撃を連続で受けて動けずにいるケンホロウにヘイガニはとどめの攻撃をお見舞いした。
その攻撃に耐えられず、ケンホロウは戦闘不能に陥った。
「酔っ払いにケンホロウが負けた…。」
「攻撃力をあげてしまう“いばる”を使ってしまったことが裏目に出たね…。」
「…あんなポケモン、初めて見た…。
シューティーじゃないけど、本当に基本じゃ測れないな…。」
「混乱が効かないサトシくんのヘイガニちゃんもスゴーイ!!」
「サトシのポケモンって本当に一筋縄ではいかないポケモンばっかりよね…。」
混乱させられ、自滅する可能性もあり、更に攻撃力が大幅に上がってしまっているために、一歩間違えれば大きなピンチとなるはずだったというのに全くピンチらしさも迎えることもないまま、あっさり勝利したヘイガニVSケンホロウのバトルに誰もがぽかんとした。
- 45 -
[
*前
] | [
次#
]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -