04
「…また、みずタイプか。
…ローブシン、行くぞ!
“ビルドアップ”!!」
「だったらこっちは…“こわいかお”だ!!」
3体目もみずタイプのポケモンを繰り出したサトシにシューティーはバカの一つ覚えだと心中で呟きながらローブシンに技の指示をとばした。
攻撃力と防御力をあげるローブシンに対し、サトシは何か考えでもあるのか、ローブシンの素早さを下げる技を選び、ワニノコに指示をとばした。
「ローブシン!“ストーンエッジ”!!」
一気に決めにかかったシューティーは攻撃力をあげ、更に急所にあたりやすい“ストーンエッジ”でワニノコを戦闘不能に追い込もうと考えた。
「また攻撃技で相殺するのか?
そのポケモンが、どの程度の力があるのかも試させてもらうよ!」
「ワニノコ!お前なら避けられるよな!!」
「ワニィ!ワニワニワー♪」
「…なっ!?」
ゼニガメとブイゼルが技を放って攻撃を防いでいたため、今回も何かしらの技を指示してくるものとばかり思っていたシューティー。
攻撃が当たれば急所にあたる可能性もあり、仮に急所にあたらなくても攻撃力をあげているため、大きなダメージを与えられるだろうという考えのもと、指示を飛ばした。
攻撃が当たらなくとも、ワニノコがどんな攻撃技を覚えているのかを知ることが出来る。
どっちに転んでもこちらに悪いように転じることなどないだろうと思っていた。
しかし、サトシとワニノコはシューティーの予想をあっさり裏切った。
ワニノコは自分に迫ってくる複数の攻撃を踊りながら避けていた。
更に本人はとても楽しそうで、避けはいるもののどこか余裕さえ感じられる。
無数に迫ってくるローブシンの攻撃をくるくるとターンとステップを踏みながら避けているその様は攻撃を避けているというより、ダンスを踊っていると言った方がしっくりくる。
そして、最後の攻撃を避け終えたワニノコはくるくる回ってポーズを決め、更にその場でまだ楽しそうにステップをふんで踊っている。
「その余裕がいつまで続くか見物だね!
ローブシン!“がんせきふうじ”!」
「その攻撃に噛み付け!」
「はっ?」
「ワーニー♪」
攻撃の手を緩めないシューティー。
サトシはそれに全く動じることなく、予想外な指示をとばした。
しかし、ワニノコ自身もその指示に驚くことなく、ローブシンの“がんせきふうじ”にガブガブと噛みつき、粉々に砕いていく。
砕かれたローブシンの攻撃はワニノコの足元に砂利となって散らばった。
「いいぞ、ワニノコ!
“みずでっぽう”!!」
「ワニャー!!」
「ローブシン!避けるんだ!!」
「ローブッ!?」
「早い!?」
防戦しかしていなかったサトシは今度はこっちの番だと言わんばかりにワニノコに攻撃の指示をとばす。
慌ててすぐに避けるように言ったシューティー。
だが、ローブシンが防御するよりもワニノコの攻撃の方が断然早かった。
ワニノコの攻撃をくらったローブシンは飛ばされてしまった。
「くっ…!そのワニノコ、ずいぶんと素早さをあげているみたいだけど、まだ負けたわけじゃない!」
「ワニノコの素早さが高いんじゃない。
ローブシンの素早さが低いからだよ、シューティー。」
「…そ、そんなこと分かってる!!」
サトシに指摘され、かっとなるシューティー。
それを控え室で観戦していたキョウヘイはため息をつき、首を左右に振りながら言葉を発した。
「シューさんのあの様子だとローブシンの素早さが劣るからいけないんだって思い込んでるみたいですね。
サトシさんの作戦にハマってることに全く気付いてませんね。」
「えっ?ワニノコちゃんのスピードが早いんじゃないの?」
「ベル。
最初にサトシが指示した“こわいかお”は、素早さをガクッと下げてしまう技なんだ。
いくら攻撃力と防御力をあげても、素早さが落ちてしまっていれば攻撃のスピードも落ちる。
サトシは分かっていたんだろうね。
一度、素早さをガクッと下げてしまえばローブシンの攻撃にも対応出来るし、防御に備えることも出来るってことを。」
「えっ?そうなの?」
「…素早さを下げてしまえば攻撃に転じる時のスピードも落ちるし、もちろん防御する時も同じだ。
ローブシンもそんなに素早さの高いポケモンじゃないからな。
だけど、それもサトシがワニノコの素早さがどの程度のものなのかを、しっかり理解していなければ、どの程度素早さを下げればいいのかだって分からないはずだ。」
「サトシはあんなにポケモンがたくさんいるのに、それぞれの能力がどのくらいあるのかをしっかり把握しているんだね…。」
デントが説明するも、ベルはきょとんとしたまま首を傾げたが、デントの説明を補足するようにケニヤンも感心したように言葉を発した。
そしてルークも感嘆の声をもらした。
素早さが低ければ、攻撃も防御も反応が遅れてしまうのは当然のことだ。
にも関わらず、シューティーはその事実に気付いていない。
「サトシさんのペースに完全にのまれてますね。」
サトシさんをバカにするからそんなことになるんだとキョウヘイはシューティーに呆れた視線を向ける。
だが、のまれてしまうのも仕方のないことだろう。
予想をあっさり裏切るバトル構成を練って攻撃されれば、サトシ以上に柔軟な思考を持っていなければ対応もしづらくなる。
経験の差がここにきて表れ始めていた。
「…っ!ローブシン!“ばくれつパンチ”!!」
「ロブー!」
「踊れ、ワニノコ!」
「ワニィワニー♪」
「くっ!また…!!」
攻撃をしかけても、ステップをふんで楽しそうに躍りながら避けるワニノコ。
その攻撃の避け方にシューティーは苛立った。
「避けろじゃなくて、踊れだと?
バカにしてるのか!?」
「そのポケモンに合った指示することの何がいけないんだ?
ワニノコはいつも楽しそうに踊ってて、本当に踊るのが好きみたいだし、バトルだってそのポケモンに合った楽しみ方も必要だと思わないか?」
「楽しむ?僕にはバカにしてるようにしか見えないね!
そんなふざけたポケモンなんかに負けてたまるか!」
「ワニノコは俺の大切な仲間だ!
ワニノコをバカにするなよ!
ワニノコがふざけたポケモンなんかじゃないってこと、見せてやるよ!
ワニノコ!“ずつき”!」
「ローブシン!柱で防御するんだ!」
「だったら、ワニノコ!そのまま突っ込め!!」
「ワーニ!!」
コンクリートの柱で防御するよう、指示するシューティー。
やはりサトシはそれに動じず、“ずつき”を止めようとはしなかった。
“ずつき”でコンクリートの柱を破壊しようと思っているのだと感じたシューティーはため息をついた。
「いくら攻撃力が高くてもコンクリートの柱を“ずつき”で壊せるはずがないだろ?」
「俺の狙いは柱を破壊することじゃない!」
「なに?」
「ワニノコ!ローブシンの柱周辺に“みずでっぽう”!!」
「…!?何をするつもりだ?」
サトシの狙いが分からないシューティーは眉を寄せた。
柱に攻撃したところでコンクリートの柱だ。
壊れるはずもない。
そしてサトシも柱を壊すことが狙いではないと言った。
壊すつもりでないのなら、何を狙っているのかがシューティーには分からなかった。
「ローブッ!?」
「…なっ!!」
「俺の狙いは柱のバランスを崩すこと!
足場のバランスが崩れればコンクリートの柱も同じようにバランスが崩れるだろ!?」
サトシの狙いは破壊ではなく、柱のバランスを崩すことだった。
いかに柱が丈夫でも柱を支える足場が平らに保たれていなければ、思ったように柱を使うことは出来なくなる。
“ずつき”の勢いまでも利用した“みずでっぽう”に、コンクリートの柱はワニノコの攻撃で斜めに傾いた。
足場も不安定で、水のフィールド内にある数少ない足場を崩され、ローブシンは水の中に落ちた。
コンクリートの柱はかろうじて足場の上に乗っているような状態で、いつ水の中に落ちてもおかしくない。
「ワニノコ!そのまま“ロケットずつき”!!」
「ワーニーっ!!」
「ロブッ!?ロブォ!!」
水の中に落ちたローブシンは柱を防御に使うことも出来ず、更に素早さががた落ちしているため、咄嗟に防御に転じるも…間に合うはずもなく…、ワニノコの攻撃をまともに受けた。
ワニノコの攻撃をまともにくらったローブシンは思いっきり吹き飛んだ。
そして水の中に沈み…浮かんできた時にはすでに戦闘不能になっていた。
そしてワニノコはといえば足場の1つに華麗に着地し、楽しそうに踊っていた。
『ローブシン、戦闘不能!
ワニノコの勝ち!!』
『ワアアアアァーーーーッ!!』
すぐにエニシダがコールすれば観客の歓声がわきあがった。
「…くっ!!
…戻れ、ローブシン!
なんなんだ!あのふざけたバトルは!!
あんなふざけたバトルで負けただと!?
…このまま負けるなんて…絶対に許されない…!!
…ケンホロウ!行ってくれ!!」
「ワニノコ、よく頑張ってくれたな。
ありがとう、ゆっくり休んでくれ。」
「ワニワニワー♪」
「次は…ヘイガニ!君に決めた!」
「ヘイヘヘーイッ!!」
第4戦目はヘイガニVSケンホロウとなった。
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