05
「お疲れ様、ルーク。」
「…バトルを終えたあとにみんなが言っていたから理解しているつもりだったけど…見ているのと、あの場所に立ってバトルするのとでは本当に全然違うね。
…でも、驚いたな…。
サトシも挫折したことがあるなんて、知らなかった。」
「サトシさんが言っていたのは、きっと最初のポケモンリーグの、セキエイ大会のことだと思います。」
「キョウヘイは知ってるの?」
「もちろん知ってます!
ポケモンリーグのサトシさんのバトルはしっかりばっちり観ましたから!」
何か知ってる様子のキョウヘイにアイリスが問いかけると、キョウヘイは力強く頷いた。
そして、そのあとに少し悲しそうな表情を浮かべた。
「セキエイ大会では…最後にリザードンを出して、負けてしまったんです。」
「あのリザードンを出して負けたの!?
ウソでしょ!?」
キョウヘイの言葉にラングレーが声をあげた。
あの強さで負けたと聞けば、驚くのも至極当然のことだ。
「…正確には、リザードンがバトル放棄したから負けたんです。」
「は?
バトル放棄…?」
「どういうこと…?」
「さっき、言っただろ?
ポケモンたちと絆をしっかり結べてないのに、一か八かに賭けたからだって。」
「あれ!?
サトシ!?」
リザードンがバトル放棄したから負けた。
キョウヘイの言葉の意味を理解出来ず、戸惑いに満ちた表情を誰もが浮かべる中、それに答えたのはキョウヘイではなく、サトシ本人だった。
まさか、サトシが選手の控え室に来るとは思っていなかったので驚きを隠しきれなかった。
「デントとルークとのバトルでフィールドが荒れたままだから、それを直すのに少し時間がほしいってエニシダさんに言われてさ。」
「そうだったの…。
でも、サトシ。
さっきのどういうこと?
あんなに互いに信頼しあってるカンジなのにバトル放棄で負けたって…!」
「今は、リザードンも俺のことをトレーナーとして認めてくれてるけど、あの時は…違ってたんだ。
ヒトカゲだった時は俺の指示も聞いてくれてた。
だけど、リザードに進化してからは聞いてくれなくなった。
それはリザードからリザードンに進化してからもだ。
結局、そのままポケモンリーグに挑んだんだ。
それまでのバトルはリザードンなしで戦ったんだけど…あのバトルの前にロケット団の罠にハマって…、言い方は悪いけど、他に出せるポケモンがいなかったんだ。
だから、一か八かに賭けてリザードンを出したけど…。」
そのあとは、苦笑を漏らすだけだった。
ポケモンだって生き物だ。
一か八かに賭けたところで変わるはずがない。
負けるのも当たり前だよな、とサトシは呟いた。
「あの時はただショックで、俺がこの程度で負けるはずがないって、ふてくされてさ。
…でも、それが間違いだって、俺とバトルして勝ったライバルの…ヒロシが気付かせてくれたんだ。
ヒロシもそのあとに負けたけど…、俺みたいにふてくされることなく、負けを認めて更に強くなろうとしてた。
ヒロシの言葉に、前向きなその姿に、俺は何をやってるんだろうって思ったんだ。
俺は負けるはずがないって、そればっかりでどうして負けたのかとか、それをどう活かすのかとか、何も考えようとしなかった。
…負けたことから逃げただけだった。
目を背けていただけだった。」
「でも、だったらどうしてリザードンはサトシくんの言うことを聞くようになったの?」
ベルの問いかけに対し、サトシは語った。
オレンジリーグ出場を目指して旅をしている時にニョロボンを連れたトレーナーとリザードンでバトルして負けたこと。
そして、そのバトルでリザードンの尻尾の炎が消えそうになってしまったこと。
近くにポケモンセンターもなかったので、リザードンの体をひたすらさすって体が冷えないように夜通し看病したこと。
「その時に、リザードンと話をしたんだ。
…話をしたって言っても俺が一方的に喋ってただけなんだけどさ。
リザードンが俺の言うことを聞いてくれないのは、俺のレベルが低いからだ。
だったら、俺はリザードンが認めてくれるようなトレーナーになるって。
元気になって、また俺に向かって炎をはいてくれよとか…。
話をしながら、俺はリザードンとまともに話したことがなかったなって思ったよ。
ヒトカゲだった時はしてたことだったけど、言うことを聞いてくれなくなってからはそれがなかった。
言うことを聞いてくれよ!とか、そんなことばっか言ってた気がする。
…そんな接し方で、リザードンが俺のことを認めてくれるはずがないんだ。
あの時にようやくそれに気付けたんだ。
だから今まで話せなかった分もたくさん喋った。
翌日には元気になったリザードンが、俺のことを認めてくれて、俺の指示にも応えてくれるようになったんだ。
あの時に俺はリザードンから教えてもらったんだ。
ポケモンたちと向き合うことの大切さ、絆をしっかり結ぶことの大切さを。」
「……サトシさん…。」
「ポケモンたちには、いろんなこと教えてもらってばっかだけど、俺もポケモンたちに何か返せたらいいなとは思うんだけどな。」
「サトシさん。
あの…僕…、サトシさんのただ直向きにポケモンたちと向き合うその姿が僕の理想なんです。
人とポケモンという種族の違いさえも感じさせないその絆の深さは、僕の目標なんです!
トレーナーとして旅立つ前に、たまたまサトシさんのポケモンリーグの映像を見て、驚きました。
見ているだけで、伝わってきたんです。
サトシさんとポケモンたちの深い信頼関係、絆の深さを。
あれから僕にとって、サトシさんは目標なんです。」
「誰かに目標にしてもらえるようなものが残せているなら、俺のやり方もムダじゃないのかもな!」
「はい!!」
「確かにサトシとポケモンたちの間には種族の違いとかあまり感じないよな!」
「フレンドリーなフレーバーを感じるよ!」
ケニヤンとデントの言葉にサトシは照れ臭そうに笑った。
「サトシ。
言っておくが、僕は負けるつもりはない。
基本がどれだけ大事なのかを君に教えてあげないといけないからね。
僕が正しいんだってことを証明してみせる。」
「カベルネとバトルのあとに、シューティーとバトルだったよな?
…俺はそのバトルで、今まで旅して学んだことが間違っていないんだってことを証明してみせる。」
「結果は勝敗がつけばハッキリすることだ。
彼は…、キョウヘイは僕は君に絶対に勝てないと断言したけど、彼にもそれが間違いだったんだって思い知らせてやらないといけないしね。」
「…真っ向から受けてたつぜ、シューティー!」
シューティーの挑発にも乗らず、自分のバトルスタイルを貫く意志を曲げないサトシ。
そして、カベルネとのバトルに控えないといけないから、部屋に戻ると言い、エニシダが用意しているフロンティア・ブレーンの部屋へ戻っていった。
「……シューさん。
サトシさんと、サトシさんのポケモンたちとの絆を甘く見てたら後で絶対に後悔しますよ。」
サトシが部屋から出ていったあと、キョウヘイはシューティーに向かってそう言った。
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