13
フカマルが“りゅうせいぐん”を放ったあと、その場はシーンと静まり返っていた。
まるで時が止まってしまったかのような、そんな錯覚をしてしまうほどだった。
フカマルの“りゅうせいぐん”を受けて、ツンベアーもそしてコマタナも戦闘不能となってしまっていた。
驚くべきは、いまだ進化もしていないというのに、技の威力がとても強かったこと。
そして、無差別に降り注ぐ“りゅうせいぐん”をリザードンは無駄な動きもなく、全てかわしたこと。
一歩間違えれば、リザードンも大ダメージとなってしまうというのに、サトシは迷うことなく、指示をとばしたのだ。
今回のフカマルの“りゅうせいぐん”は、サトシがリザードンなら無差別に降り注ぐ“りゅうせいぐん”も避けると信じていたこと。
フカマルが、味方であるリザードンがいる状態で、“りゅうせいぐん”を放ってもサトシの指示だから技を放ってしまっても問題ないとサトシのことを信頼していたからこそツンベアーとコマタナを戦闘不能に追い込んだのだ。
サトシとリザードンとフカマルの間に信頼関係がなければ、このバトルはここまでの展開を見せなかったはず。
もちろん、リザードンとフカマルはこのバトルで初めて会ったのだが、初対面でもこれほどまでのダブルバトルができたのは、リザードンとフカマルがサトシのことを信じているから。
そういった諸々の事情を知っている者はいないが、それでも衝撃を与えるには十分なバトルだった。
『……、ツンベアー、コマタナ、戦闘不能!
フロンティアブレーン、サトシの勝ち!』
エニシダでさえも呆気にとられていたが、すぐに我に返ったエニシダがサトシの勝ちを伝えた。
『今のバトルで、前半戦が終了です!
後半戦は2時間後から始まります!
それまで休憩してください!』
そして、エニシダから少しの間、休憩時間を設ける旨を伝えられ、観客たちはぞろぞろと会場を後にした。
「…サトシ、どうしてよ?」
「ラングレー?」
試合も終わり、休憩となり、サトシが立ち尽くすラングレーの元に近付けば、ラングレーは俯いたまま、声を震わせた。
デントたちがぞろぞろとサトシとラングレーの元に近付いてきているのを感じていたが、ラングレーは心の内に渦巻く複雑な思いを言葉にしなければ気がすまなかった。
「そんな…強いポケモンがいるなら、どうして今までのバトルで戦わせなかったのよ!?」
「俺は新しい地では新しく出会った仲間と強くなりたいって思ってるからさ。」
「弱いポケモンを連れて旅をすることに何の意味があるって言うのよ!?」
「ラングレー。
それ以上、言うつもりなら許さないぜ。」
「…な、なんでよ!?」
「じゃあ、聞くけど強いってなんだ?
バトルで勝ち続けていられれば強いのか?
ステータスをチェックしてそれが高ければ強くて、低ければ強くなれないのか?」
「才能があるかないかも基準の1つじゃない!」
「……。
リザードン、お前のこと…ラングレーに話してもいいか?」
ラングレーの言葉にサトシは目を伏せたあと、背後に立つリザードンに問いかけた。
その問いかけにリザードンは無言で頷いた。
「じゃあ、ラングレー。
リザードンは強いって思うか?」
「当たり前じゃない!この私が負けたんだから!」
「…リザードンは、ヒトカゲだった時に別のトレーナーに捨てられてるんだ。
理由は“弱いから”。
ただ、それだけの理由でリザードンは嘘をつかれて置き去りにされたんだ。」
「ウソ…。」
サトシの言葉にラングレーは、驚いた表情を浮かべた。
驚いているのは、ラングレーの後ろにいるデントたちも同じようで、信じられないとでも言わんばかりにリザードンを見つめた。
あれだけ柔軟に対応し、パワーもスピードも相当な強さをもつ、リザードンが弱いからという理由で捨てられたという過去をもっているなんて、誰が聞いても信じがたいこと。
「どうしてリザードンがこんなに強くなれたか…、それはステータスが高かったからとかじゃなくて、リザードンが強くなるためにたくさん努力してきたからだ。
今だって、強くなるために、リザフィックバレーっていうところで修行してる。
なあ、ラングレー。
最初から強い奴なんていないんだよ。
もちろん、ポケモンにも得意なことや不得意なこともある。
だけど、俺はそれもポケモンたちと一緒に乗り越えていきたいんだ。
そうしたら、いろんな発見もあるし、体験もできる。」
そう言ってリザードンの体をそっと撫でるサトシ。
今まで、きょとんとしていたフカマルはサトシの頭にかぶりつき、満足そうに笑っている。
「そう。それが、サトシ。
あなたの強さってわけね。」
「バカバカしい。
そのリザードンが強いのは進化したからだろう。
努力で強くなるよりも進化して強くなった方がよっぽど効率がいい。
そんなことも知らないのか、君は?」
「サトシさんのこと、何も知らないくせにバカにするな!!」
サトシの言葉に何か感じるものがあったのか、ふっきれたように笑うラングレーに対し、シューティーはサトシの努力で強くなったんだという言葉を真っ向から否定した。
その言葉に反論したのはサトシ本人ではない別の人のものだった。
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