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ルーク視点。

薄暗い牢屋。 ここが唯一の自分の居場所だ。

自分の名前はルーク・フォン・ファブレ。 皇室とも深い関わりがある公爵家の次男だ が、その存在は既に無くなっている。

いや…存在しないことになっている。

恐らく兄であるアッシュ・フォン・ファブレ も自分のことは知らないだろう。

自分の半身に自分のことを知られていないの は悲しいと思うが、アッシュはファブレ嫡子 としてやることをやっていると聞いている。

なら自分も…名前は消されたとはいえ、ファ ブレの男児だ。

自分の持つ2つの不思議な力が国の為に役に 立つのなら、どんな辛い実験もやり遂げるこ とが出来た。

しかし…先ほど自分の役目はここで生涯を生 きることだと思ったが、本当は夢がある。

よく自分を気遣ってくれる騎士フレンは『外 に出たくないか?』と自分の身を案じて言っ てくれた。

外の世界に行き、結界の外に行き広い世界を 見てみたいと思っているのは確かだ。

しかしそれは自分1人ではなく仲間と一緒 に…喜びや悲しみを共に分かち合えるような 人たちと共に。

そんな叶うはずもない願いを胸にルークは笑 顔になる。

そんな時に狭い牢屋だ。

先ほど連れて来られた人の声だろうか?

声は微かにしか聞こえないが、少しでも彼の 声が聞けてルークは嬉しく思う。

先ほど実験が終わり牢に戻される時にすれ 違った、先ほどの声の人。

綺麗で長い黒髪に整った顔…そしてその表情 にはいろんなことを経験したと感じられる面 影があった。

いろんな経験をしているといえばフレンもそ うだが、フレンとはまた違った存在…まるで 光と闇だとルークは思った。

だけどこんな彼と一緒に外に出られたら、旅 が出来たらきっと楽しいんだろうな。てルー クは思った。

その願いが数日後に叶うとは思わなかった。

数日後に彼が入っている独房の扉が開き彼も いなくなるのかと思ったが、青年は前科あり なので鍵を開けた騎士も「さっさと出てい け!」と言いその場をいなくなった。

これでお別れだと落ち込んでいると、何と牢 屋の入り口に向かう足音はこちらに…自分の いる部屋に向かって来ていた。

会って話がして見たいなぁと思ってはいた が、いざ相手が側まで来ると何を話して良い か解らず、「えっと…」とか「あの…」とか と挙動不審な動きをしてしまう。

「アハハハ!お前面白いな!!」

そんな姿も青年にはツボにハマったのか大笑 いをする。

笑われたことにルークは顔を赤くする。 ひとしきり笑った後にユーリはルークに手を 指し伸ばした。

「一緒に外に行こうぜ!!」

まさか自分が望んでいたことが現実になると は思っていなかったので、ルークはどう反応 すれば良いかわからなかった。

手を握り返して「うん」と傾けば、願いは叶 うのに、ルークにはそれがなかなか出来な かった。

だってこの場所にいることは、唯一自分がこ の国の為に出来ることだ。

自分がいなくなれば、存在は消されていると はいえファブレの父や兄にも迷惑がかかるだ ろう。

名前は消されたとはいえ皇室に連なる家の者 が私情でそんなことをしてもいいのだろう か?

ルークが自分の手を握らずごちゃごちゃとい ろいろ考えているのはユーリもわかる。

それにしても長すぎるだろうとユーリは思う が、親友のフレンからは「君はもっと考える ことをするべきだと言われるので、もしかし て普通がこれぐらいなのかと思ったユーリだ が、やはり考えるのは己には合わず「だ 〜!!」と叫びながら綺麗な黒髪をぐしゃぐ しゃにする。

その姿にルークはせっかくの綺麗な髪が勿体 ないなぁと場違いなことを考えた。

「細かいことを考えるのは後!今は早くここ を出るぞ!!」

ユーリはそう言ってルークの腕を掴み、外に 出ようとする。

ずっと一緒に旅をしてみたいなぁと思ってい た彼からの力強い誘いにルークは今度は逆ら うことはしなかった。

確かにこの人の言う通りに今考えても仕方な いこと。

それに外にいても自分なりに何か出来ること があるかもしれない。

ルークは強く握られた手を握り返した。

それはルークなりの了解の答えだった。

その答えに満足したのかユーリは自分の自己 紹介を始める。

「俺はユーリ、ユーリ・ローウェルだ」

ユーリ…何処かで聞いた名前だな?とルーク は思う。

あぁそういえば、いつも自分を気にかけて独 房まで来てくれるフレンからよく聞いていた 名前だ。

同じ名前の人は何人もいるかもしれないが、 フレンが言っていたユーリと、今自分の目の 前にいるユーリは印象や雰囲気がまったく一 緒なので、今目の前にいる彼がフレンの言っ ていた問題がよく起こすが、正義感が強い大 切な親友なんだろう。

確信はしていたが、念のためと自分の自己紹 介も含めて、ユーリのことを尋ねることにし た。

「俺はルーク、ルーク・フォン・ファブレで す。あのユーリさんってフレンさんがよく話 してくれた親友のユーリさんで間違いないで すよね?」

ルークの言葉にユーリはフレンもルークのこ とを気にかけていたなぁと思い出す。

そんな彼がルークがいなくなれば、どんな反 応をするのだろうと、今正に連れ去ろうとし ているのは自分なのにユーリは背筋に寒気が 走った。

「親友ね…まぁ付き合いの長い昔馴染みって だけさ」

ユーリはそう言って耳が赤くなるのを感じ た。

同じ騎士団にいたばかりのことは幼なじみで あることも嫌だったというのに、今しかも出 会ってそんなに経っていないルークにフレン のことを説明すると嫌な気持ちにはならな かったが、顔が赤くなるのを感じて、そんな 表情を見られたくなくてユーリは独房を出て いった。

その姿にルークは慌ててユーリの後を追い独 房を出る。

独房を出て真っ直ぐと城に繋がる階段を目指 そうとしたが、ユーリのいた独房の隣から声 が聞こえた。

「ちょっとちょっと!お二人で良い雰囲気出 してのはわかるけどさ、オッサンも仲間に入 れてよ」

独房から声をかけてきたのはボサボサ髪を無 理に1つに纏めた、いかにも不審者だと思わ れる男だった。

まぁ自分も検査着なので似たようなものかも しれないが。

「悪いがオッサンはお断りだ。もう定員一杯 なんだよ」

「酷い!オッサン差別はいかんよ!まぁ良い や。どうせあと少しオッサンも出られるし、 今から城を脱出しようとしている二人に大切 なことを教えよう。きっと城を出る手助けに なると思うよ」

オッサンの言葉にユーリとルークはどうすれ ば良いか顔を見合わす。

確かに怪しいオッサンだが、地理もわからな い城を無理矢理脱出するより、一か八かこの オッサンのいうことを信じるのも良いだろ う。

「それで何を教えてくれるんだ?オッサン」

「オッサンは酷いでしょ!オッサンは!これ でも年齢気にしてんだよ!まぁオッサンは心 優しいから特別に無礼な若人達にヒントを教 えてあげようじゃないの。ヒントは『女神像 の下』だ。

たったそれだけかと思ったがユーリ達は宛が ないので、とにかくこのオッサンの言う通り に女神像を目指すのだった。

だから気がつかなかった。

ユーリ達が独房から離れ、姿が見えなくなっ た時に牢屋にいるオッサン、もといレイヴン がニヤッときな臭い笑みを浮かべたことを。

「精々アレクセイ閣下の道具として使われる その日まで自由を満喫することね、ルーク 様。…まぁ…それは俺様も同じか…」

レイヴンはそう言って自分の左胸を押さえる のだった。

アレクセイによって道具でしか生きることが 出来ない自分。

アレクセイに道具にされていると気がついて ないルーク。

はたしてどんな運命が彼を待っているのか。

レイヴンは固いベッドに横になりながら考え ていた。

昔のアレクセイの道具になったばかりの頃の 夢を見ながら。

第二話 END

※※※

ムーン様がわざわざ第二話目まで書いてくださいました!

やはりアッシュはルークの存在を知らないのか…。
このあと、エステルと出会って旅に出るんですね!

なんかおっさんが悪役っぽかった(´∇`)

ムーン様、ありがとうございました!!

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