積み重なった思い


フォドラでの一件も落ち着き僕はその功績が評価されストラタ軍中佐に昇進を果たした。

大統領閣下のご息女との縁談は自分の評価が下がる覚悟で断りを申し入れたが大統領が「そうか、残念だ」と言うだけでそれ以上は何も言わなかった。

まず第一関門を越えたとヒューバートは思った。

だけど安心は出来ない。

何故なら第二の関門養父がいるから。


養父は自分と大統領閣下のご息女と結婚すれば、再びストラタ政界に還り咲けると言っていたから縁談が無くなったとなれば何を言われることやら…とため息をつきながらオズウェル家の門を潜る。


そして広間に行きソファに座っている養父は自分の姿を視界に入れると一目散にこちらに来た。


「ヒューバート!どういうことだ!大統領の縁談を断ったというのは本当か!?」

情報が早いなとヒューバートは何処か他人事のように考える。

「まったくせっかくのチャンスを無駄にしおって馬鹿者が!この縁談は私だけではなくお前にも悪い話ではない。もう一度考え直すつもりはないのか?」

「ありません」


養父の言葉にヒューバートははっきりと否定する。

その答えに養父は苦虫潰したような表情をする。

「…何か理由があるのか?」

そう聞かれてふと頭を描くのは共に旅をしたアンマルチア族の女性。

だけどそれを養父に伝えるつもりはない。

彼女とはまだ始まってもいない。

やっと呼び方が弟くんからヒュー君に変わっただけ。

ましてや彼女には自分に対して何の感情もない。

自分のただの片思いなんだから。

片思いのために縁談を断ったなど養父が納得するはずがない。

「お養父さん…僕はお養父さんが望んでいる地位には興味はないんです。僕は民主に近い立場でこの国を支えたいと思っています。そして…ストラタ、フェンデル、ウィンドルの橋渡しをしたいと旅を得て思いました。ですがそれは民主に近い立場でなくてはいけません…だから縁談を断りました」


「生意気な口を叩きおって…お前が一番に支えたいのは国ではなくウィンドル王国ラント領のラント卿ではないのか?」

養父の言葉にヒューバートはドキッとした。

見抜かれているような視線が嫌で思わず目を反らす。

そう…パスカルのことがあるから、国を支えたいから…それは後から出てきた理由だ。

自分の一番の願いは父の日記にもあったような兄さんと共にラントを支えること。

大統領に近い立場での上からの施しではなく対等な立場で兄を…生まれ故郷であるラントを支えたい。

「やはり…そうか…ラント卿とお前はやはり兄弟だな…」


「どういう意味ですか?」


ヒューバートが問いかけると養父は立ち上がり「着いてこい」と言って屋敷の奥に行く。

ヒューバートも無言で着いていく。

そしてたどり着いたのは養父の執務室だった。

部屋に着くと養父は執務机の引き出しから何やら年期のある箱を取り出して、手で誇りを払いそれをヒューバートに渡す。

「これは?」


「開けてみろ」


養父に言われるがまま年期があるせいか少し固くなった箱をヒューバートは開ける。

そして入っていたものに驚き目を見開く。

入っていたのはたくさんの手紙で宛先は全てヒューバート宛で筆跡にも見覚えがあった。

間違えるはずはない…兄アスベルの字だった。

年代順に置かれているのか一番下のは幼少時代に書いたもの。

字を間違ったり黒く塗り潰したりと昔の兄らしさが伝わってくる。

「お前の兄からこの七年間定期的に届いていた手紙だ」

「何故…捨てなかったんですか?」


そうそれがヒューバートは不思議だった。

養父の性格ならいらないものはすぐに処分するはずだ。

だけどこの手紙の束はご丁寧に箱にまでいれて大切に保管されている。

「捨てられなかったのだ。初めはお前を完全にラントとは切りはなそうとお前には手紙の存在は知らさずに捨てようと思った。だがあのときの私は彼はラントの嫡男だ、もしかしたらラント領を陥れることが出来る情報があるのではないのかと手紙を読ませてもらった。だが…結果としてラント領については何もわからなかったがお前のことはわかった。お前は泣き虫だが心の強さは誰よりも強いことや、常に周りを気遣えること、そしてオムライスが大好物だったということをな」

養父の言葉にヒューバートは顔が真っ赤になる。

『そんなことまで書いたんですか!兄さんは!!』

今はこの場にはいない兄を無性に殴りたくなった。


「お前とラント卿の繋がりを絶つことは出来ないよいだな。手紙を見ればわかるが先ほどのお前の言葉で確信した。縁談を断ることには了解した。お前の力を借りずとも私は自力で再び政界に還り咲く。さぁ、用は済んだ。出ていきなさい…その手紙はお前のものだ」

用意はそう言って椅子に腰をかけ反転してヒューバートに背を向ける。

ヒューバートも礼をして部屋を退出した。

とりあえず了解を貰えたことにほっとし、思わず兄からの読むことはなかった7年分の手紙が手に入りヒューバートは自室へと向かう。

自室に入りベッドに腰を降ろしてまずは一番下の古い手紙から読むことにした。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ヒューバートへ。


へへ!俺から手紙なんておどろいてるだろ。俺だって手紙ぐらいちゃんとかけるんだせ!…手紙っていう字あってるよな?
お前とちがってべんきょうあまりしてないからまちがってたらごめんな。あとお前がよう子に行くなんて知らなくて見おくれなくてごめんな。
ストラタってたしか暑い国だったよな?だいじょうか?
何かつらいことがあったらすぐに教えてくれよ。

あっそれとさ!俺は騎士学校に入ったんだ。この漢字だけはひっしに覚えたからまちがってないだろ?
だからもしも手紙出すなら騎士学校にたのむな!体に気をつけてな!

アスベルより


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
一枚目の手紙は騎士学校に入ってすぐに出してくれたやつらしく自分を案じることたくさん書いていた。

幼い兄らしくひらがなばかりだが兄の思いは伝わってきてヒューバートは涙がこぼれそうになる。


それから二枚目へと視線を移す。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

拝見ヒューバートへ。

暖かい気候が続くウィンドルですがそちらはいかがでしょうか?


何か手紙を書くならきちんと書けってヴィクトリア教官に言われたけど、何か兄弟でこんな感じなのは変な感じだしいつも通りにいくな。

ヒューバート、元気にしてるか?
騎士学校に入って一年たっていろいろ忙しくてなかなか手紙だせなくてごめんな。
俺もやっと騎士学校の生活に慣れてきたよ。

この前さ食堂で久しぶりにオムライスを食べたんだ。
お前大好物だったよな。
食堂のおばちゃんが俺がカレーばかり食べて体に悪いってオムライスとサラダを特別に作ってくれたんだ。
オムライス食べてたらお前のことを思い出すよ。
オムライス食べているときのお前って本当に幸せそうな表情だったよな?
向こうではオムライス以外に好きな食べ物は出来たか?
ストラタだったらカレーの本場だしきっと美味しいだろうな。
話は変わるけどオズウェルの人とは上手くやっているか?
苛められていないか心配た。
でもお前は心が強いからきっと大丈夫だよな。
お前の兄の名に恥じないように俺も訓練頑張るよ!
じゃあ、また手紙書くからな。

お前の兄アスベルより


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
二枚目の手紙も近況ではあったがやはり自分を思う手紙。 

先ほどまで我慢していた涙がポタリポタリと零れ手紙に滲みになる。

だけどそんなこと気にしている余裕はなかった。

それからの手紙も兄が自分の身を案じている手紙ばかりだった。

そして返事がないことに怒るわけでもなく体調が悪いのか?と記されていた。

胸が傷んだ。

自分は兄に一度手紙を出して返事が返ってこなかったらすぐに兄を憎んだのに。

養父が裏で自分の手紙を捨てたなんて関係ない。

自分はたった一回で諦め兄を憎んだのだ。

手紙だって養父に託すだけで自分から動いてなどいない。


なのに兄は自分を憎むどころか返事がない自分を案じてくれていた。


そして最後の手紙。

日付からしてシェリアと共に騎士学校を出る前の実地任務に向かう前に書いたのだろ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
拝見ヒューバートへ

兄弟なんだし堅苦しい挨拶はなしな。
ヒューバート元気にしてるか?
俺も騎士学校へ入って7年。
やっと騎士になれるチャンスが来たんだ。
これから教官と共に実地任務に向かうんだ。
上手くいけば騎士になれるかもしれない。
もしも俺が騎士になれたら真っ先にヒューバートに連絡をする。
ヒューバートもストラタできっとすごく頑張っているんだな。
俺が騎士になれたらお前と一緒にラントを支えたいって思うんだ。
国同士の問題だからそう簡単にはいかないと思うけどお前と二人なら良い関係を築けると思うんだ。
俺はお前の兄に恥じない立派な騎士になって迎えに行くからな。
お前も身体気をつけてな!

アスベルより


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

最後の手紙を読んでふと養父の言葉を思い出す。

ラント卿とお前はやはり兄弟だな。

まったく同じことを先ほど養父に言ったのだ。

俺とお前なら。

僕と兄さんなら。

兄弟なんだから。


兄さんも思ってくれていたんだ。

自分とラントの地を支えたいと。


ラムダやフォドラのこといろいろあったが僕は兄さんと和解出来たと思っていた。

だけどそれは兄さんから歩み寄ってくれたのであって僕は差しのべられた手を握っただけ。

僕は兄さんの七年間を知っているようで知らなかったのだ。

だけどこの手にある手紙の重みが兄さんの七年間を伝えてくれた。

兄さんがどれだけ騎士学校で頑張っていたのか。

どけだけ僕を大切に思ってくれていたのか。

この七年間の手紙を得て僕は兄さんへの複雑な思いを雪解け出来たと思います。

さて手紙を書きますか…とりあえず一番初めの手紙のひらがなを漢字に直して一緒に同封しましょう。


END


※※※


ムーン様が私の私生活がバタバタしてて落ち着かなかったのを気遣ってわざわざお話を書いてプレゼントしてくださいました。

ほのぼのとしたお話で心がほんわかしました。

実際にアスベルはヒューバートにこんな感じの手紙を送ってるんだろうなと思いますね
(^^)


ムーン様、素敵な小説をありがとうございました♪

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