あなたという存在
障気中和のために、一万人ものレプリカと心中する道を選んだ貴方は、いったいどんな気持ちでいたのでしょうか―――?
もしかすると………いや、もしかしなくても、貴方が消えてしまうことを一番恐れていたのは、他でもない私なのでしょう………。
ベルケンドの医療施設で検査を受けたルークは、宿で待っていた仲間たちに笑いかけた。
「ちょっと、血中音素が減ってるけど、問題はないってさ」
安心する仲間たちとは対照的に、彼らがロビーをでた後ジェイドは眼鏡のブリッジを押し上げると息をついた。
「………ルーク」
「っ……!な、んだよ…?」
びくりと肩を震わせ、ルークは振り返らずに問う。
「嘘を、つきましたね」
疑問ではなく、断言された。
思わずジェイドを振り返ると、ルークは目をそらした。
なにもかもを見透かしたような瞳。
一緒に行動するようになって大分経ったが、今でもこの瞳は苦手だった。
「ルーク」
反射的に、ルークは怒られると思い目をぎゅっと閉じた。
しかし、向けられたら言葉は思いにもしなかったことで。
「あなたの嘘に、乗せられてあげますよ」
「ジェイド………」
その顔には、本当に偶にしか見ることのない、ジェイドの穏やかな笑顔が浮かんでいた。
だがそれも次の瞬間には真剣な顔に戻る。
「今のあなたの体は音素が乖離し易い。………力を使えば、いつ消滅しても可笑しくない」
「分かってる……」
そう返した言葉は、自分でも驚くくらい震えていた。
レムの塔で障気を中和した後、透けて見えた自分の手。
それが、いやでも乖離は現実に起こっていると自覚してしまう。
死にたくない…
ようやく生きていていたいと思えたのに
どうして、俺が消えなきゃならない……!?
それが、俺の本音。
この世界は、レプリカに………ルークに、あまりに辛い選択を迫る。
そればかりか、まるで…いや、実際そうなのかもしれないが、被験者の世界を守るために死ね。そう言っているようだ。
現に障気の中和をするために、レプリカたちと心中しろ、と言われ、実行した。
生まれて七年。
まだ七年しか生きていない幼い子供。
あまりにも酷すぎる。とジェイドは考えていた。
気付いたときには、18にしては少し小さな、ルークの身体を抱きしめていた。
「なっ、おい!ジェイド!?」
突然のことに戸惑い、顔を赤くしてじたばたもがくルークを抱きしめる手に力を入れると、離して貰えないことを悟り大人しくなった。
おずおずとジェイドの背中に手を回し自分からも抱きつくと、仄かに香る香水の匂いに目を閉じた。
無意識に、背中に回した手に力が入ってしまうのは、消えることが怖いからだろう。
「ジェイドっ……俺…………死にたくない…!」
アクゼリュスでは、預言の成就の為に死にに行かされ。
レプリカだからと差別を受けて。
世界のためという名目で死ねと宣言され。
生を実感した彼に下されたのは消滅という最期―――――
「当たり前でしょう。あなたは生きているんですから」
今ここに生きて、呼吸をし、普通の人間と何一つ変わらない姿でここに存在している。
生きていることに喜びを感じることができた彼にはあまりに辛すぎる死の宣告。
「なぁ、ジェイド。俺が消えた後も、俺のこと……」
「その先はいってはいけませんよルーク」
ルークの唇に指を当てたジェイドは静かにそう言うと目を伏せた。
「ジェイド…………」
愛してる
たった一言なのに、とても重く響く言葉。
ジェイドは返事の代わりに、彼に優しく口付けた。
「私も……ですよ」
Fin
※※※
いつもあたたかいお言葉をくださるcocoa様宅から素敵小説をいただいてきました!
私がジェイルクは他のCPと比べて書くのに苦労するので、こんな素敵なお話が書けるcocoa様がスゴイなと本気で思いました。
私の場合はジェイルクだとギャグの方が書きやすいんですよね(笑)
こんなに切ないお話をいただけるとは思っていなかったので、めちゃめちゃ嬉しかったです!
cocoa様…!
素敵な作品をありがとうございます…!
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