今だけは




「ルーク。
1つ聞いていいか?」



スピルーンを集めるために旅を続ける中、アッシュは滞在している宿屋の部屋で休むルークにそんな言葉をかけた。



「アッシュ?」
「…お前は…今でも思っているのか?」
「なにを?」



脈絡のない問いかけにルークは首を傾げた。
そんなルークの反応にアッシュは少し視線をさ迷わせたあと、口を開いた。



「自分はいらない存在だと、…人ですらないと思っていたんだろう?
生きる価値もないと、感情もいらないと、…何も残ってないと…そう思っていた。
それは今でもそうか?」
「なん…で…。」



アッシュの言葉にルークは強い戸惑いを覚えた。

アクゼリュスでの出来事はルークの心に深く突き刺さって離れずにいる。

自分のせいで犠牲になってしまった命を思うと声をあげて叫びたくなる。

不安や後悔、罪悪感…。
そういった思いは今でも拭い去ることはできない。


そして、アクゼリュスを崩落させ、たくさんの命を奪ってしまった自分が人間ではなくレプリカだったのだと知った時に強く思ったのだ。


自分はいらない存在だと。
幾多の命を奪った自分に生きる価値もないと。
感情を捨てたいと強く思った。


だが、それはあくまで思っただけで誰かに言ったわけではない。
それなのに何故、アッシュがそれを知っているのだろうと不思議に思った。



「…シングとヒスイがこの世界に来る前に悲しそうなお前の声を聞いたと言っていた。」
「そう…だったのか…。」
「ルーク。
お前は…今でもそう思っているのか?」



再度、問われ…ルークは俯いた。
そんなルークを見たアッシュは小さく息をはいたあと、口を開いた。



「俺たちはお前をいらない存在だとは思っていない。
お前は人間だ。
生きる価値もないはずがない。
お前は人の心を救ったんだ。」
「…でも、俺は命を奪った。
レプリカなのに…人を殺したんだ。
あんなにたくさんの人を殺した俺に…生きる価値なんて…ないんじゃないか…?」
「…アクゼリュスのことはお前だけが悪いわけじゃない。
あの時…アクゼリュスにいた奴等全員に非があるんだ。」
「…みんなは命を奪ったわけじゃないけど、俺は違う。」
「…そうだな。
俺たちは命を奪ったわけじゃない。
だが、非がないわけじゃない。」
「アッシュにも…みんなにも分からない!
アクゼリュスの人たちの憎しみが…、怒りが…、頭から離れない!
抜けないんだ!ぜんぶ…っ、俺が悪いんだ!
なのに…、怖いって感じるなんて…俺は最低だ!」
「怖いと感じて何が悪い?」
「俺は…殺したんだ!
…怖いって感じる資格はないだろ!?」
「…なにかを感じるのに資格は必要ない。
俺たちはお前が必要だ。
お前が背負うものを一緒に背負う。
…独りで抱え込むな。」



ルークの悲鳴にも似た叫びを聞いたアッシュはそっと抱き寄せた。
いきなり抱き寄せられたルークは驚きに目を見開き、固まった。



「…お前の苦しみも痛みも俺は何も知らずにいた。
だが、俺は知った。
知った以上、知らないフリをするつもりはねぇ。」
「でも…、」
「ルーク。
生きたいと望んでいい。」
「……っ!」



アッシュの言葉にルークは体を震わせた。
アッシュの声が優しくて、不安とか、苦しみとか、全部包み込んでくれそうな感覚に陥った。



「生きてくれ、ルーク。
そう望んでいい。」
「おれ…たくさん…いのち…うばったんだ…。」
「それなら奪った命も俺が一緒に背負う。」
「アッシュは…なんで…そんなこと…いってくれるんだ…?」
「お前と共に生きていきたいからだ。
他に理由はない。」



きっぱりと言い切ったアッシュにルークはふるふると体を震わせて声をあげることなく泣いた。

せめて…今だけは…、生きていて良かったと喜びを感じさせてください。
感情があって良かったと感じさせてください。


今だけは…。
せめて…今だけは…。



END

※※※


未来へ繋がる心設定でアシュルクシリアスというリクエストを承りましたが、不完全燃焼なカンジになってしまいましたorz

もも様、こんな駄作でよろしければお受け取りください。

[*←前] | [次→#]








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -