生まれ変わった君

世界とはなぜ、こんなにも残酷なのだろう…。



「ジュード。」
「ガイ…アス…、きて、くれた…んだ。」



忙しい合間を縫って、ガイアスはある部屋を訪れた。
その部屋には愛しい黒髪の少年がベッドに横たわっていた。

ガイアスは黒髪の少年…、ジュードの元に近付くと、近くにあった椅子をベッドの横に寄せた後、腰をおろした。



「具合はどうだ?」
「ん…、相変わらず…かな…。」
「そうか…。」



ジュードの言葉にガイアスはそっと頭を撫でた。

ジュードはクルスニクの鍵と呼ばれる存在だった。

同じように呼ばれている少女…、エルがタイムファクター化してしまうのを止めるほどの力を持っていた。

それはハーフであるからだとオリジンは言っていたが、大きな力だ。
もちろん代償も大きかった。

ジュードの力のおかげで、ルドガーやエルが消えてしまうことはなかったし、分史世界も消滅させることは出来た。

これだけならば何も問題はなかった。

だが、そのために無理に力を使ったジュードは、一気に衰弱し始めたのだ。

体力が落ち、抵抗力も落ち、そして今では起き上がることも出来なくなった。

今も話すことさえも辛そうな様子で日に日に悪化していることは火を見るよりも明らかだった。

少しずつ、だが確実に悪化していくジュード。

いつか落とす命。
けれど、ガイアスはジュードをそばにおくことを選んだ。
ルドガーやエル、他の仲間たちもジュードをそばにおきたいと言ったが、ガイアスはそれらの全てをはね除け、自分の近くにジュードをおいた。

そして忙しい仕事の合間を縫って、必ず会いにジュードのいる部屋を訪れる。

部屋を訪れる度に衰弱していくジュードにガイアスは何もできない自分の無力さを呪った。



「ガイ、アス…そんな顔…、しないで…、ぼくは…しあわせ、だった、から…。」
「おかしなことを言うな、ジュード。
まるでもう最期のような言い方だぞ。」
「聞いて…、ガイアス…。」



ジュードの様子に違和感を覚えたガイアスがジュードの言葉を遮るも、もう満足に動くことも出来ないはずなのに、ジュードは強い視線をガイアスに向けた。



「…………。」



その視線を見たガイアスは言葉を失った。

ああ、最期が近いのだと悟ってしまったからだ。



「ルドガーのおかげで、源黒匣の研究も…大きく…進んだ…から、ぼくは…もう思い残すこともな…」
「諦めるなど、お前らしくもない。
お人好しだが、諦めずにまっすぐ向き合ってきたお前が諦めるようなことを…」
「ガイアス…、自分のからだの…ことは…自分がいちばん…よくわかる…んだよ。
ぼく、みんなと出会えたこの世界が…だいすき…。
ガイアスと出会えたこの、せかいが…だいすき。
…だから…、いなくなっても…みんなのこと…、ガイアスのこと…みまもってる、から…、だから…今以上に…この世界をいい世界にして、ね…。
ガイアスなら…それが出来るって、ぼくは…信じてる…から。」
「…もういい、ジュード。」
「じかん…、ない…から…つたえたいこと、…つたえたい…んだ。」
「お前は…、俺に…お前のいない世界を生きろと言うのか…?
随分と残酷なことを言う。」
「ガイアスなら…できる、よ。」
「…最初にお前に会った時は…随分と頼りない子供だと思った。
だが、時が経つにつれ、お前は強くなり、マクスウェルの後をついて行くだけだったお前が自分の意思で決め、俺と戦うことを選び、勝ち取った。
そんなお前が…諦めるというのか?」
「…ガイアス、1人で頑張りすぎないで。
…誰かに頼ることも必要だよ。
ルドガーたちなら、力になってくれる。
だから、心を強く持って。」
「…ジュード…。」
「最期に…ガイアスと話、できて…本当に良かった…。
いなくなっても、…ガイアスの心にいつもいるから…。
だいすき、だよ…ガイ…アス…。」
「ジュード…?」



それからジュードは二度と目を開けることはなかった。




***




ジュードの訃報を聞き、仲間や家族がジュードを見送った後、ガイアスはジュードの故郷…ル・ロンドのベンチに腰掛け、空を見上げていた。

そんなガイアスの元に、一つの影が近付いた。



「……ガイアス。」
「ルドガーか。
お前たちにはすまぬことをした。
ジュードを、俺が独り占めした。」
「……ガイアス。」
「…分かっている。
そんな言葉を聞きたいわけではないことくらいな。
……あいつは、最期の最期まで他人のことばかり気にかけていた。」
「でも、一番に気にかけていたのはガイアスのことだ。」
「……。」
「…ガイアス、生まれ変わりって信じるか?」
「…何を突然…。」
「……ミラから伝言だ。
『二・アケリアに行けば望む者と会える』。」
「………!?」



ルドガーの言葉にガイアスは大きく目を見開いた。
ガイアスらしからぬその表情にルドガーは苦笑した。



「ずっとジュードを独り占めしてたガイアスが一番に会うのも…正直、納得いかないんだけど、きっと…一番に会いたいと望むのはガイアスだと思うから。」
「…感謝する。」



ルドガーの言葉にガイアスはすぐさま二・アケリアに向かった。

どんな形でもいい。
愛しい存在に会えるのなら。



***



「王様、おそーい!!
あんまりおそいから、エルがさきに会いにいっちゃおうかとおもった!」



二・アケリアに着くと、そこにはルドガーの相棒のエルがいた。
腰に手を当て、ぷくーと頬を膨らませるエルにガイアスは何故ここに?と思いつつも、口を開いた。



「ジュードは?」
「ジュードにあいたいなら、二・アケリア霊山にいけばあえるって、ミラがいってたよ!!
…王様、ジュードがかえってきたら、エルもヒトリジメさせてね!」
「……考えておく。」



そう言うと、ガイアスは再び駆け出した。

早く、早くとガラにもなく焦る心を必死に落ち着かせながらガイアスは山頂へ辿り着いた。

だが、そこにジュードの姿はどこにもなく。
ガイアスは辺りを見回した。



「ジュード、どこだ?」



ガイアスがそう呟いた途端だった。


山頂を覆い尽くす光が辺りを照らしたのは。
思わず目を細めたガイアスだったが、その光の中心に人のようなシルエットが浮かび上がり、思わず凝視した。



「ジュード…。」



そう、光の中心にいたのはジュードだった。

光が徐々に薄れていき、そして消えて行った。
光が消えると、目を閉じていたジュードがゆっくりと目を開いた。



「ジュード。」
『じゅーど?
ぼくは、じゅーどじゃないよ?』
「……では、お前は何だ?」
『ぼく…、ぼくは…心の精霊、“ヴェリウス”。』
「精霊…?
……そうか、お前は精霊として生まれ変わったのか。」
『……どうしてかな?』
「む?」
『あなたとあうの、初めてなのに…初めてじゃない、気がする。
あなたを見てると…、心があったかくなる。』
「……!」
『ねえ、あなたの名前、おしえて?』
「俺の名は、ガイアスだ。」
『がい…あす。
……ガイアス!!』



ガイアスの名前を嬉しそうに笑いながら呼ぶ心の精霊、ヴェリウス。

その笑顔はジュードと同じ、全く変わらない慈愛に満ちたもので、ガイアスはその体を抱き締めた。


…そして、ヴェリウスとして生まれ変わったジュードに契約してくれと真顔で告げ、ジュードの顔を真っ赤に染め上げたのは言うまでもない。


end

※※※



ジュードくん、カギ設定のガイジュでシリアスからほのぼのというリクエストだったのですが、気付いたら生まれ変わり話かいてました。

こういう生まれ変わり話、好きなんですよね。

癒しの精霊とかいたら、間違いなくジュードくんにピッタリでしょ!とか思ったのですが、いないので心の精霊ヴェリウスにしました。




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