ふにゃり


「どうだ?」
「…ダメね。
全く手をつけようとしないわ。」
「…そうか。」



ガイアスがジュードという子供を保護してから5日…。
ある問題が発生していた。



「つーか、どんだけ警戒されてるんだよ。
記憶ないからか?」
「ないからこそ、警戒してしまうというのもあるのかもしれんが…、あの子の場合は完全に記憶を失っているわけではないようだからのう。」
「白衣を着た人間には特に強く怯えてしまうようだわ。」
「……だが、5日も何も口にしないとなれば、精神的にだけでなく肉体的にも限界だろう。」
「どうしたらいいのかしら…?」



ガイアスが保護してきた子供は保護してから食べ物を全く口にしようとしなかった。
更に医者に様子を診てもらおうと呼べば、今まで以上に怯え、錯乱した。

どうしたものかと思考を巡らせていた、まさにそんな時だった。



『あの…、少しよろしいでしょうか?』



見知らぬ声がガイアスたちの耳を震わせたのは。



「何者だ!?」
「つーか、どうやって侵入しやがった!?」
『私は光を司る精霊、ルナと申します。』
「精霊だと…?」



ルナと名乗る女の言葉にガイアスは眉を寄せた。



「確か…、あの子供がルナとシャドウがどうとか口にしていたな?
その片割れのルナがお前か?」
『そうです。
あの子の…ジュードの言っていたルナは私のことです。
シャドウは闇を司る精霊。
私たちはあの子の力によって蘇った精霊です。』
「はあ?
精霊ってそんな簡単に蘇らせることなんて出来んのか?」
『普通は出来ません。
蘇らせることが出来るほどのマナをたった1人の人間が保持することなど本来ならばあり得ないことです。
……それ故にあの子は捕われ、ひどい実験に使われていました。
私とシャドウはその実験の際にあの子から漏れ出たマナを浴び、こうして蘇り…、研究所からあの子を逃がすために力を使いました。
…けれど、貴方がジュードを見つける少し前に私たちは具現化することが出来なくなりました。
蘇って間もなかったことと、私たちの力の源はジュードだと言っても過言ではないからです。
追われ、また恐ろしい実験に使われることになるのかもしれないという恐怖はまだ小さなあの子の心に強いストレスとなり、…ついには立ち上がる気力さえも失ってしまいました。』
「その後に俺が保護したというわけか。」
「つーか、なんで今まで具現化しなかったんだよ?
あいつが大事ならすぐにでも具現化して現状を伝えるべきじゃねぇの?」
『…そうですね。
…貴女のおっしゃる通りです。
…ジュードは普通の人間には有り得ない莫大なマナを保有し、更に奪われてもすぐに回復する特異体質です。
あの子を苦しめていた研究員たち以外にもあの子の力をよからぬことに使おうと企む者が現れないとも限りません。』
「つまり、そのよからぬことに使おうとするかどうか、俺たちを測っていたと?」
『はい。』



ガイアスの問いかけに対し、ルナは肯定を返した。
まさにその通りだからだ。
この5日間、具現化しないまま様子を見ていたが、彼らには研究所にいた者たちのようにジュードのことを道具として見ていないことが分かった。

ならばこちらも姿を見せ、ジュードのことを伝えても問題ないと判断したのだ。
そして、ジュードも肉体的にも精神的にも限界が近いこともあって、『我が別の方法を考えてジュードを回復させる』と言ったシャドウを渋々だが、納得させてガイアスたちの前に姿を現したのだ。



「なめられたものだな。
様子を伺って問題なかったから助けろと?
便利屋とでも思っているのなら、それはいい迷惑だ。」
『…そうですね…。
あなた方はジュードを救ってくれた恩人です。
そんなあなた方を試すような行動をとっていたことは否定のしようもない事実です。
けれど、…研究所での出来事はあまりに非情なものでした。
あの子はまだ子供です。
物心つく前から目の前でマナを奪われ、乖離していく人たちを毎日何十人も見てきました。
莫大なマナを保有し、すぐに回復するあの子はそんな地獄を何年も何年も味合わされ続けてきたのです。
…偶然とはいえ、あの子のマナを浴びて蘇った私たちはあまりに非人道なその実験と称した行いに言葉を失いました。
…それでもあの子は、私たちのことを初めて出来た友達だと言って笑いかけてくれました。
…一生あの場所で実験に使われるのだろうと思っていた子供を守りたかったのです。
…本当に、ごめんなさい。』
「…………。」



ルナの言葉にガイアスたちは何の言葉を返すことも出来なかった。

ひどい実験をされ続ける中で、ルナとそのシャドウという精霊に笑いかけたという子供。

絶望の中を何年も生き続けていたのに、純粋な心を失わずにいた奇跡のような子供。
否、絶望しかない毎日を生きてきたからこそ、当たり前に与えられるものに強い憧れや夢を抱いているのかもしれない。



『……衰弱しきったあの子を守りきる力はまだ私たちにはありません。
…勝手な願いだとは承知の上でお願いします。
あの子が回復するまでこの場所に匿っていただけないでしょうか?』
「……俺があの子供…、ジュードを保護した。
ならば、責任は俺にある。
もとより、お前に頼まれなくとも衰弱しきった子供を放り出すような真似はせん。
回復するまではここで保護するつもりだった。
だが、あそこまで頑なままではどうしようもない。
食事さえ口にしない状態では手の打ちようがない。」
『…匿ってほしいと頼み、更に不躾なことを頼みたいのですが…、よろしいでしょうか?』
「なんだ?」
『食事を…あの子と一緒にとっていただけないでしょうか?』
「一緒に?」



ルナの言葉にプレザが目を瞬かせた。
確かに食事はもっていくが、それもジュードのいる部屋にもっていって、食べるように言ったあと、そのまま部屋を退出していた。

見ず知らずの人間がそばにいては食べづらいだろうと思ってのことだった。



『…あの子は私たちと会うまではずっと独りでした。
だからこそ、誰かと何かをすることに憧れのような念を抱いています。
…研究所以前の記憶が全くないからこそ、あの子には“誰かと何かをする”という経験がありません。
私たちは精霊。
食事を口にすることはありません。
だからこそ、あなた方に頼みたいのです。
あの子と一緒に食事をとっていただけませんか?』
「そんなことでええんか?」



ルナの言葉にジャオが目を剥いた。
この5日間、全く口に入れなかった子供がその程度のことで食事を取るものだろうか?
そんな疑問が自然に浮かんだからだった。

ガイアスたちも同じことを思ったようで訝しげな視線をルナに送った。


……けれど、実際に行動に移してみればあっさりその疑問は打ち砕かれた。




***



「べっ、別に…今日はたまたまこの部屋で食べてもいいかって思ったから、ここにいるだけだからな!
勘違いすんなよ!
つーか、小せえなぁ、お前!
筋肉ついてんのか?
うっわ!細ぇっ!!
女を敵に回しかねない細さだぜ!」
「アグリア、少しはその汚い言葉遣いを何とかしなさい。
同じ女として恥ずかしくなるわ。」
「うっせぇ!テメェは無駄に多いその露出を何とかしろ!この露出狂!!」
「あなたには露出できるほどのものはないから、ひがみたくなるのも分かるわよ?」
「ババァ…!!テメェ!貧乳だって言いたいのか!?ああ!?」
「ほとんど男ばかりのこの状況下で貧乳だなんて躊躇いなく声にだすことなんて、とても私には出来そうにないわ。」
「おい!ババァ!表に出ろ!」
「お断りするわ。」
「二人とも、少しは静かに食事せんか。」
「…バカバカしい。」
「…………。」
「どうした?食べんのか?」



突然、ジュードの部屋にやってきてギャーギャー騒ぎながら食事を始めたガイアスたち。
もっとも騒いでいるのはほとんど、アグリアだったが、先程までルナとシャドウしかいなかった空間が突然がらりと変わり、固まっていたジュードは、ガイアスに食べないのかと問われ、少し視線をさ迷わせたあと、目の前に置かれていたスプーンを手に取り、胃に優しいものの方がいいだろうと、置かれていたお粥をスプーンで掬うと、おずおずとそれを口に運んだ。



「……!!…おいしい、です。」



そしてふにゃりと笑った。



「「「「「………!!」」」」」



不意打ちとも言えるその可愛らしい笑顔にガイアスたちは言葉を失った。



「…ぼく…、こんなにたのしい、ごはん、はじめて、です。」



そう言って戸惑いながらもうれしそうにまた、ふにゃり。



「そう?
それなら、毎日私と一緒にご飯を食べましょう?」
「え、…いいんです、か…?」
「ええ。
私はプレザ。
よろしくね、ジュード。」
「は、はいっ!!」
「ワシは、ジャオ。
よろしくな、坊主。」
「よろしく、です。」
「…ウィンガルだ。」
「アグリア。」
「はいっ!!
プレザさん、ジャオさん、ウィンガルさん、アグリアさん。
ぼく、ジュードです。」



そう言ってまた、ふにゃり。

なにこれ、この子…!!
超可愛い!!

初めてプレザたちの心が一つになった瞬間だった。

そして…余談だが、ガイアスはこの時すでにジュードを義弟として、そばにおこうと思考を巡らせていたのだった。


…これは、ジュードとガイアスたちが心を通わせるきっかけとなったお話…。

End

※※※

導きの光設定でジュードがまだガイアスの所にいた時の話というリクエストだったので、ジュードくんがガイアスさんたちに心を開くきっかけの最初のお話を書かせていただきました。

ちまジュードくん、絶対に可愛いと思うだよね!
だってゲームでもあんな天使なのよ!?
それがちまくなったなら…可愛いに決まってる!!……という願望からこんなお話が出来上がりました。

波音様、こんな駄作でよろしければお受け取りください。
リクエスト、ありがとうございましたっ!!

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