君はキミ、僕はボク。

「エル!!」
「おっと、動くなよ。
このガキの命が惜しいならな。」



借金返済のためにクエストを終え、宿屋へと向かう道中、それは起こった。

クエストを終えて、エルがルルと共に楽しそうに先を駆けていき、ジュードたちがそれを微笑みながら見守っていた、そんな時…エルは突然、行く手を遮るように立つ複数の男たちに捕まってしまった。

エルの名前を呼んだルドガーと、ジュードたちもルドガーと同じようにエルの元へ駆け出そうとすると、男の1人が脅しつきで制止をかけてきた。



「…何が狙いだ?」
「こちらの要求はただ、1つ。
ジュード・マティス、素直に俺たちに捕まれ。」
「……っ!?」



エルの身柄はジュードと交換だと言われ、ルドガーたちは目を見開いた。



「源霊匣の研究をやめさせようってか。
お前たち、アルクノアだな?」
「…何を勘違いしているかは知らないが、俺たちの目的は源霊匣の研究をやめさせるためじゃない。
アルクノアだという点は否定はしないがな。」
「だったらなんだっていうんだ!?」
「カギ。」
「……っ!!?」



男の言葉にルドガーたちは眉間にシワを寄せ、意味がわからないと言わんばかりの表情を浮かべていたが、ジュードだけは違った。
その言葉を聞くなり、びくりと体を震わせた。



「な、なんの話ですか?」
「俺たちがなにも知らないとでも思ってるのか?
お前さえいれば大精霊クラスも簡単に従えることもできる。
…話はここまでだ。
どうする?ジュード・マティス。
己の身か、このガキの身か、どちらを選ぶ?」
「ジュード!こんなヤツラの言うこと聞く必要ないし!
エルならダイジョーブだから!」
「お前には聞いてないんだよ!!」
「いたっ!!」
「やめてくださいっ!!
…分かりました。
あなたたちと一緒に行きます。
だから、エルは離してあげてください。」



要求に応える必要なんてないと声をあげたエルに、苛立った男の1人が拘束していたエルを強引に地面に押さえつけた。
小さな体は男の力に逆らうことも出来ず、エルは痛みに顔を歪めた。

そして、ジュードは男たちの要求に従う意思を見せ、男たちの元に近付いていった。



「待て。
武器はおいていってもらおう。
要求に従うフリをして、攻撃されちゃたまらねぇからな。」
「分かりました。」
「ジュード!!」
「さっきの…カギって何!?
なんの話!?」
「…ごめんね、みんな。
…こんな形で話したくはなかったけど…。僕も…ルドガーや、ユリウスさんと同じ…クルスニク一族の1人だったみたいなんだ。
…僕の力はとりわけ強かったみたいで…。
精霊を生み出すことも蘇らせることも出来る。
…まだ力のコントロールがうまくいかなかったから、…コントロール出来るまでは自分の胸の中に閉まっておこうって思ってたから…だから言えなかった。
本当にごめんね。」
「えっ?」
「ジュードが…?」



悲しそうな表情を浮かべながらジュードが語ったのは、予想もしていなかった話だった。



「おしゃべりはそこまでだ。
━━…おい!」
「ああ。」
「うぐっ!?」
「ジュード!!」



ルドガーたちの話が終わるのを待つような生易しい相手ではなく、ジュードな強引に腕を掴まれ、引かれると口にハンカチを押し当てられた。
ハンカチには薬品が染み込ませてあって、不意打ちともとれるその行動にジュードはなす術もなく…そのままブラックアウトした。

そして男の1人が、ぐったりしたジュードを担ぎ上げた。



「約束通り、このガキは解放してやる。」
「ジュードをどうするつもり!?」
「なにって、有効活用させていただくだけだ。」

━━━ドオンッ!



レイアの怒りの声に男たちはニヤリと不吉な笑みを浮かべた。
そして次の瞬間、辺りは爆発し…辺りはパニックに陥った。

そして、その混乱に乗じて、男たちは手際よくその場から姿を消した。




***



「ジュード!…っくそ!!」
「落ち着け、アルヴィン!」
「落ち着いてられるかよ!!
あいつら…、ジュードに何かしたらタダじゃすまさねぇ!!」
「落ち着けと言っている!!
…エルの立場も考えろ。」
「…っ!!」



ジュードが拐われてしまい、苛立つアルヴィンにミラが声を荒げた。
ミラに言われ、エルへと視線を向けると、エルはルドガーにしがみつきながら、かたかたと震えていた。

「エルのせいで、ジュードが…!」と自分を責め続けている。
エルにとっては精神的ショックが相当大きいことだろう。



「今、シルフに探らせている。
直にジュードの監禁されている場所も見つけるだろう。」
「そうか…。
悪いな、ミラ様。
年甲斐もなく取り乱しちまった。」
「アルヴィンにとってジュードは大切なハニーというやつなんだろう。
取り乱すのも仕方のないことだ。
…かくいう私もあの男どもを生きては帰さんと剣を抜いたところをローエンにたしなめられた。
…お互い様だな。」
「…ハニーって…。
…だが、そうだな。
ジュードは俺が絶対に助ける…!」
「当然だ。」



アルヴィンはギュッと拳を握りしめた。




***



「うっ、ここは…?」
「ようやくお目覚めか。」
「…僕をどうするつもりなんですか?」
「お前の力について調べさせてもらった。
…精霊の化石さえあれば、化石となった大精霊も簡単に蘇らせることができる上に精霊さえも生み出す。
更に、この世界に存在する精霊もお前には逆らえないという素敵な特典まである。
調べあげるのは大変だったぜ。」
「何が言いたいんですか?」
「つまり、お前の力さえあれば大精霊を使ってテロだろうが何だろうが何でもやりたい放題できるってことだろ?
俺たちのために役立ってもらう。」
「イヤだと言ったら?」
「YESというまで痛め付けるだけだ。
…お前なら知ってるよな?
俺たちはどんな手段も厭わないってことを…。」
「あなたたちの言う通りしたら、世界は混乱に包まれます。
何があっても僕はあなたたちに力を貸すつもりはありません。」
「だったら、こっちも好きにさせてもらうだけだ。
もともと源霊匣の研究の第一人者であるお前と言う存在も目障りだったからな。
最悪、お前を殺すことになったとしても問題はない。
…死ぬかもしれない状況に追い込まれても、まだ同じことが言えるか、見物だな。」



そう言うとリーダー格の男はニヤリと笑った。
ジュードを取り囲む5人のアルクノア。

だが、ジュードは気丈にも男たちを睨み付けた。



「(負けない…!きっとみんなが…、アルヴィンが助けに来てくれる…。
それまで僕は…僕に出来ることをするだけだ…!)」



拘束された状態では満足に抵抗することも出来ない。
そんな状況で不吉な笑みを浮かべ、拳を鳴らしながら近付いてくる複数の男たちの姿に怖いと思う自分もいる。震えを必死に抑えることしか出来ない。

だが、こんなことで挫けてなんていられないとジュードはきゅっと唇を噛み締めた。



「ずいぶんと、強情だな。
ジュード・マティス。」
「…ぐっ!!」
「俺たちに従うと一言いえば済む話なのにな!!」
「あぐっ!!」



どのくらいの、時間が経っただろう。
時間の感覚など、ジュードはとうに麻痺していた。
止まることのない暴力にジュードはもう、声をあげることも出来なくなった。

蹴りあげられ、殴られ、気絶すれば冷たい水をぶっかけられて強制的に覚醒され、また蹴られ殴られの、繰り返し。

本当に協力すると言わない限り、死ぬまでこの暴力は止まらないだろう。

だが、それでもジュードは協力すると言うつもりなどなかった。
例え、この命散らすことになろうとも。



「ちっ!!
そんなに、死にたいなら死ねよ!この化け物が!!」



どんなにボロボロになっても首を縦にふらないジュードに苛立ったアルクノアの1人がジュードの米神に黒匣…銃をつきつけた。



「(ここまで、か…。
ごめんね、みんな…。
ごめんね、アルヴィン…。)」



ジュードが、覚悟を決めたその時だった。

━━ドゴン!ドガン!



大きな爆発音と揺れが襲い掛かってきた。
ジュードもアルクノアも、突然の衝撃に驚いた。



「な、なんだ!?」
「なんの騒ぎだ!?」
「よう。」
「お前は…!!」



アルクノアの面々が動揺する中、知り合いに会って挨拶するような気軽な様子で現れた1人の男がいた。



「ぐおっ!!」
「ジュードくん、生きてるか?」
「アル、ヴィン…。」
「こんなにボロボロになって…。
…ジュード、あとは俺に任せろ。」
「アルヴィ…、………。」



ジュードの米神に黒匣を突き付けていた男を蹴り飛ばし、ジュードの傍らに膝をついたアルヴィンが、傷だらけで満身創痍のジュードの頭を撫でると、安心したのか、そのまま糸の切れた人形のように意識を失った。



「それは、俺たちの道具だ!!」
「化け物を庇うなんて…!
貴様も化け物の1人に成り下がったか!!」
「…ジュードをこんなにボロボロにしやがって…。
ただですむと思うなよ。」
「ひっ!!」
「く、来るな!!」



ジュードの小さな身体を片手で抱えあげたあと、アルヴィンは残りのアルクノアを感情を抑えることなく睨み付けた。
その迫力にアルクノアたちは腰を抜かし、ガタガタと震わせた。



「少し凄んだくらいで、腰を抜かすような覚悟もねぇ奴がジュードのことを化け物呼ばわりするんじゃねぇよ。
こいつの苦労も苦悩も知らないくせに…!」



アルヴィンは怒りのまま、アルクノアに攻撃を加えた。
ジュードを助けるために単身で先に乗り込んだアルヴィンを追いかけてきたミラたちに止められるまでアルヴィンは止まらなかった。

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