あなたのそばで。



「マウリッツさん!お兄ちゃんは!?」
「どうなんだ!?」
「詳しく説明してくださいますよね?」



マウリッツと和解し、陸の民と水の民が共存できる未来を創るために日夜問わず奔走していたワルターたちは、マウリッツから聞かされたある話を聞いて慌ただしくマウリッツの元に現れた。



「落ち着きなさい、3人とも。」
「これが、落ち着いていられるか!だから俺はセネルのそばを離れるのが嫌だったんだ!
俺はセネルの親衛隊長だぞ!」
「やっぱり私が残るべきだったわ…!」
「こんなときほど、私はメルネスであることを疎ましく思っちゃうよ…!」
「落ち着きなさいと言っているだろう。
セネルの容態を悪化させたいのか?」
「「「…………っ!!」」」



マウリッツに諌められ、3人はぐっと堪えた。



「セネルが倒れたと聞いたが…容態は?」
「過労と…少し栄養失調もあるようだ。
…本当にあの子は無理を無理とも思っていなかったようだ。
寝ているのか、食事はとったのか何度か訊ねたが、ちゃんととっているからと笑っていてね。
あのこの言葉を鵜呑みにした結果がこれだ。」
「それで…今は…?」



ため息まじりにマウリッツが言う。
その言葉にシャーリィは心配そうに胸の前で手を組みながら今はどうなのかを問いかけた。



「今は眠っている。
最低でも1週間はゆっくり体を休めて、しっかり栄養もとって、無理はしないようにと医者から念をおされたところだ。」
「そう…。」



大事には至らなかったようで、3人は安堵の息を吐いた。
ワルターたちはそれぞれが大陸にある別の水の民の里へと赴いていた。

大陸の方には複数存在している水の民の里にシェルフェス、メルネスの意向、滄我やマウリッツの意思もセネルとシャーリィと同じことを伝えるために必要だったのだ。

それも共存の道を選んだ以上、必要なことだったのだが、何せそれが1ヶ月という長い時間がかかってしまった。

セネルたちが共存の道を選んだと言ってもそう簡単には納得してくれるものではなかったために、それを説得するためにどうしても時間がとられてしまったのだ。

本来ならセネルも大陸にある水の民の里に赴くはずだったのだが、遺跡船にある水の民たちの中にもまだ反対の声が色濃く残されていたために、セネルはまず遺跡船に住む水の民たちの説得をするべきだとマウリッツやワルターから言われていたために、大陸の方の水の民たちのことはワルターたちに託したのだ。

だが、セネルが倒れたとマウリッツから報せを受け、ワルターたちは何よりも優先して遺跡船へ戻ってきた。

そして冒頭に至る、というわけだ。



「…君たちが戻って来る頃には他の水の民たちを説得して、納得してもらいたいと思ったようでね…。
睡眠も食事もほとんど取らずに奔走していた結果…、倒れてしまったのだよ。」
「お兄ちゃん…。」
「君たちが戻ってきてくれて良かった。
これから私はウェルテスの街の方に出掛けなくてはならなくてね。
ミュゼットさんとこれからのことについて話し合わねはわならんのだよ。
セネルのこと、任せたよ。」
「はい!!」
「もちろんです!」
「そんなこと、言われるまでもない。」



マウリッツにセネルの看病を任され、ワルターたちは力強く頷いた。
そしてそのまま、マウリッツは出掛けていった。

それを見送ったあと、ワルターたちはそっとセネルの部屋に足を踏み入れた。
そっと伺ってみると、寝息をたてて眠るセネルがいた。
栄養失調もあると言っていたからだろうが、その顔色は芳しくない。



「…本当に無理ばっかりするんだから…。」
「少し離れただけでもこれでは、心配でそばを離れることも出来ん。」
「あ、じゃあ私がついているからワルターたちは大陸の方に戻ってもいいわよ?」



深いため息と共に呟けば、ステラがにっこり笑って大陸に戻るように諭してきた。
その言葉にワルターもシャーリィも不満そうに眉を寄せた。



「何を言っている?」
「お兄ちゃんを、独り占めしようって魂胆がみえみえだよ、お姉ちゃん!」
「私が訪れた里のみんなはほとんどがセネルの意向に従うって言ってくれたから戻らなくてもそんなに支障はないの。」
「わ、私だって!メルネス様がそうするとおっしゃるならってほとんどの人が納得してくれたよ!!」
「俺も同じだ。
…どさくさに紛れて、セネルと2人っきりになろうなどと…。解せん!!」



ステラの言葉に噛みつくシャーリィとワルター。
看病をするという名目でセネルのそばにいられるという素敵特典を目の前に3人は一歩も譲ろうとはしなかった。



「…私は回復術が使えるわ。」
「私だって使えるよ!」
「体調不良に回復術は関係ないだろう!!」
「わからない人ね…。」
「わかってないのはお前たちだ!」
「私は分かってるもん!!」
「分かってるなら大陸にもどれ!」
「そういうワルターが、戻ればいいでしょ!?」
「俺の方は落ち着いたと言っている!」
「完全に落ち着いたわけじゃないでしょ!?」
「それはステラ!お前もだろう!」
「ワルターや、シャーリィもでしょ!」

「やめんか!馬鹿者ども!!」



互いに一歩も引かない言い争いに終止符をうったのは、予想だにしない男だった。
問答無用でげんこつをお見舞いした男の姿に3人は頭を押さえながら驚いたように男を見た。



「ウィルさん?」
「何故、貴様がここにいる!?」
「初めてのげんこつだわ…。
確かにウィルさんの、げんこつは効くわね…。」



そこにいたのは、腕を組みながらワルターたちを見るウィルだった。
ウィルが水の民の里にいることに驚くワルターとシャーリィ。
しかし、ステラだけは注目する観点が完全に間違っていたが、それにツッコミを入れる者はいなかった。



「ウェルテスに来たマウリッツさんから話を聞いてな。
おおかた、セネルの看病の取り合いで病人がいることも忘れて口論しているだろうから、様子を見に行ってくれないかと頼まれてな。
…ものの見事にマウリッツさんの予想通りだったな。」
「「「……………。」」」



ウィルの言葉に3人は返す言葉を失った。

興奮して周りが見えなくなってたとはいえ、ウィルが部屋に入ってきたことにも気付かないほど口論に夢中になっていたとあっては返す言葉もない。



「お前たちは何をしにここにきた?
セネルの部屋で口論し、容態を悪化させるためか?」
「お兄ちゃんが心配で…」
「看病しに…。」
「……俺としたことが…。」



ウィルの言葉に3人は反省した。
セネルのことが本当に大切だからこそ、そばにいたかっただけなのだが…、これではいない方がマシだと思えてしまう。
こんなことをするためなら戻るべきではなかったのかもしれないが…。



「…大陸に戻ったところでセネルのことが気になって何も手につかん。」
「そうね…。
それならセネルが回復するまでそばにいて、ここに残った方が心にゆとりもできるわ。」
「…だけど、言い争いなんてするべきじゃなかったよね…。」



しゅんとする3人にウィルはため息をついたあと、3人の頭を優しくぽんと叩いた。

暴走してしまったこと自体、褒められるべきことではないが、それも3人が本当にセネルのことを大切に思っているからこそしてしまったことだ。



「…セネルにも説教してやれねばならんな。
…ワルターたちをここまで心配させるほど無理して倒れるとは…。」
「…セネルへの説教なら俺がする。
昔からその役目は俺だったからな。
…まあ、何度言ったことか分からないがな。」
「だったら、私はお兄ちゃんに栄養のある食事を作るよ!」
「シャーリィ、私も手伝うわ。
ワルター、セネルの看病を頼むわね。」
「ああ。」



突然、役割分担を始めるワルターたち。
手慣れているのか、それとも幼馴染みだからなのか、その動きにムダがない。

セネルに気を遣って静かに部屋を出ていったステラとシャーリィ。



「…ずいぶん手慣れているな。」
「…こうして倒れることが多いからな。
…その度に俺たちはいつも、肝を冷やす。」
「……心配するのも、当然というわけか…。」
「う…、あ…れ?」
「目を覚ましたか、セネル。」
「ワル…ター…。」



ぼんやりとした視線を向けるセネルにワルターはてきぱきと動き回り、セネルの額に乗るタオルを替え、崩れたふとんを直し、状況を簡潔に説明していた。



「そうか…、俺はまた倒れたのか…。
悪かったな…。」
「そのセリフはもう聞きあきた。
休むということをお前はいつになったら覚えるんだ?
俺たちが、そばにいないと休むことすら忘れるというのか?」
「う…、ごめん…。」
「それも前に倒れた時に聞いた。
今回は食事もほとんど取らずにいたようだな?」
「…これが、終わったら…とか思ってると…次も同じことを思って…。」
「そのまま忘れると?
…いい加減に無理をしているという自覚くらい覚えろ。
今、お前1人で動いているわけじゃない。
共存の道を選んだとはいえ、この問題は一朝一夕に変わるような簡単な問題でもないだろう。
時間もかかる分、無理をして倒れては元も子もない。」
「うん…。
ワルターたちが戻ってくる頃には少しでも良くしておきたいと思って…焦ってたみたいだ。
…本当にごめん。」
「本当に心配ばっかりさせるんだから。」
「もう誰か1人はお兄ちゃんのそばにいて見張ってないとダメだよね。」
「…その方がいいだろうな。」
「…ステラ!シャーリィ!
あれ?ウィルもいたのか?」



横になっていたためにウィルの姿はワルターの体で隠されていて、気付かなかったセネル。
だが、ステラとシャーリィが部屋に入ってきたことで、ワルターが振り返った時にウィルの姿を見、声も聞いたことでようやくウィルの存在に気付いたようだ。

…だが裏を返せば、人の気配に気付くことが出来ないほど疲弊しているということになる。

それに気付いたからこそ、ウィルはシャーリィの言葉に同意を示した。



「まずは栄養をしっかり取って、たくさん休むこと。
いいわね、セネル?」
「お兄ちゃんが、元気になったら大陸に戻るけど、私たちが交代でお兄ちゃんのそばにいて無理をしないように見張ろうってことになったから。
ワルターもそれでいいよね?」
「ああ。」
「え、あ…いや…、でも…。」
「セネルの意見はきかないわ。」
「こんな方法をとらざるをえない状況を作ったのはお前だ、セネル。
否は聞き入れるつもりはない。」
「お兄ちゃんの意見は全て却下するから、そのつもりでいてね?」
「あ…、は、はい…。」



にーっこりと笑いながらセネルの意見は却下する3人。
その笑顔にセネルは顔をひきつらせながら頷くことしか出来なかった。

それから、ワルターたちの見事とも言える連係プレーを前にセネルは少しでも眠る時間や食事をとる時間が遅れることが許されなくなったのだった。


End

※※※


久々に希望の蒼設定で書かせていただきましたが、こうして書いてみるとワルターたちは本当にセネルバカな方々ですね…
(* ̄∇ ̄*)

今回はマウリッツさんは何だかんだ言いつつも、セネルたちのことを心から応援してるんだってことも書きたかったのです。

応援してるからこそ、陸の民であるウィルさんに頼んだというわけでございます。

こんなものでよろしければお受け取りくださいませ!
リクエスト、ありがとうございました…!!

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