雪の花

気付いたときにはヒドイことばかりする人たちに僕はいつも道具のように扱われていた。

同じようにヒドイことをされる人たちもいたけど、みんな実験に耐えきれずに死んでしまった。

そして、僕はいつもそれを見て、ただ怖くて震えていた。

そんな時に出会ったのは大精霊のルナとシャドウ。
2人は僕を助けてくれた。

そして逃げる途中で疲れて意識を失った時に助けてくれたのはガイアスっていう男の人だった。

助けてくれた。
けれど、僕はずっと人にヒドイことをされていたから、人が怖くてたまらなかった。

もしかしたら、同じことをされるんじゃないかって。
また、怖い思いや、痛くて苦しい思いをしなきゃいけないのかもしれないって、僕は怖くていつも震えていた。

だけど、違った。
ガイアスさんも、ウィンガルさんも、ジャオさんも、アグリアさんも、プレザさんもみんな優しくしてくれた。

特にガイアスさんは、いつも僕の事を気にかけてくれた。
いつも朝から晩まで忙しいのに、調子はどうだとか、何かしてほしいことはあるかとか、1人が怖いときは俺に言えとか、いつも僕の事を気遣って、優しく頭を撫でてくれた。



「まるで…お兄ちゃんみたい…。」
『我のことか?』
『シャドウ。
貴方の場合、兄というよりは保護者といった方がいいのではないですか?
……ガイアスのことですね?』



ぽつりと呟いた僕の言葉に返答を返してきたのは僕の事を助けてくれたシャドウ、そしてルナ。
僕はルナとシャドウに頷きながら更に言葉を発した。



「…ガイアスさん、いつも僕の事を気にかけてくれて、…僕、ガイアスさんのこと大好きなんだ。
だからね、僕…ガイアスさんともっと仲良くなりたい…。」
『何か、考えでもあるのですか?』



照れ臭そうに頬を染めながらガイアスと仲良くなりたいと言ったジュードを穏やかに微笑みながら、ルナは問いかけた。



「うん…。
あのね、雪の結晶花っていうお花があるんだって。
別名でセルシウスの結晶って呼ばれてるお花なんだけど…、それを探して見つけたいんだ。」
『セルシウスの結晶…?
あの花は滅多に咲かない花だ。
そう簡単に見つかるものではないぞ。』
『ですが、ジュードがその花を彼にプレゼントしたい理由も分かります。
あの花は、プレゼントした者と受け取った者との絆を深める花と昔から言い伝えられていました。
それに、受け取った者に更なる幸せを与えるとも言われる花ですから。
…ですが、あの花は滅多にお目にかかれるものではないのですよ?』
「それでも、探したいんだ。
僕の事を助けてくれたガイアスさんにいっぱい幸せになってもらいたいから。」
『…確かに、あの時…あの男がジュードを救出してくれなければ研究所の人間に捕まっていた可能性も高かった。
…我とて感謝していないわけではない。
我も協力しよう。』
『もちろん、私も協力します。』
「……!ありがとう、シャドウ!ルナ!!」



協力すると言う2人にジュードは嬉しそうに顔を綻ばせた。



『それで、私たちはどのような協力をすれば?』
「あのね、ガイアスさんたちが帰ってきた時に、僕がいないときっと捜してくれると思うんだ。
ルナとシャドウには、ガイアスさんたちに僕の事を聞かれた時に何とか誤魔化してほしいんだ。」
『その程度の事ならば、我かルナのどちらか残れば1人で事足りる。』
「ダメだよ。
ガイアスさんもウィンガルさんたちもとっても勘が鋭いんだから。
どっちかがいないとすぐにバレちゃうでしょ?
でも、シャドウもルナも2人ともいたら僕が城の外に出たことに気付くのも時間がかかると思うんだ。」
『『…………。』』



ジュードの言葉にルナもシャドウも返す言葉がなかった。
確かに、ガイアスは若い人間だというのに精霊たるルナもシャドウも、その勘の鋭さには驚かされた。
そうなれば、ルナとシャドウのどちらかがいなければ、片方がジュードと共に何かをするために離れていて、片方が引き止め役であることがすぐにバレてしまうだろう。

だが、いつもジュードと一緒にいるルナとシャドウが城にいれば、それだけで目眩ましにもなる。



「4時間探しても見つからなかったら戻ってくるから…。
お願い、ルナ、シャドウ!」
『だが、どこで研究所の人間に出くわすか分からぬ状況で1人にするわけにはいかぬ。』
「ワシが一緒に行こう。」



ジュードの特殊な力を研究所の人間がそうやすやすと諦めるとは思えない。
だからこそ、ジュードを1人にすることを躊躇ったシャドウの言葉に同行を申し出る声が聞こえてきた。



「ジャオさん!ガイアスさんたちと一緒にお仕事で出てたんじゃ…?」
「ワシの役目は途中で終わったから戻ってきたんじゃ。
話は聞いとった。
その花とやらを探すのをワシが手伝う。
これで問題はないはずじゃ。」
「で、でも…そんなの悪いよ…。」
「このままここで見送ったら、あとでワシが怒られることになる。
遠慮せんでええ。」
「ジャオさん…。
…ありがとう、ございます…。」



わっしゃわしゃと頭を撫でながら、自分のワガママに付き合ってくれるジャオに、ジュードは胸がいっぱいになった。




***



「ジュード。
そろそろ戻らんと気付かれる。
もう諦めて戻ろう。」
「もうちょっと…もうちょっとだけ…!!」



ジャオ付き添いのもと、ジュードは雪の結晶花を必死に探していた。
手袋もつけずに草の根を掻き分けて探すジュードの手は冷えきっていて、赤くなっていた。

約束では4時間だと言っていたが、これ以上探させれば、ジュードの手は凍傷になってしまう。
すでに、その小さな手は霜焼けになっていた。
それを止めようとジャオが声をかけてもジュードは諦めようとしなかった。

そして、ジュードが必死になる理由も理解できるからこそ、ジャオも強く止めることが出来なかった。

ジュードには研究所にいた以前の記憶はない。
だからこそ、家族のことも分からない。
どこにいるのかも、生きているのかも、何も分からない。

そんなジュードにとって、いつも気にかけてくれるガイアスの存在はとても大きいのではないかと思う。
現にジュードはガイアスのことを兄のようだと思っている。
ヒドイ目にばかりあってきたからこそ、他人の優しさが恋しくてたまらないのだと思う。

ガイアスと同じようにジュードのことを見てきたジャオもそれは痛いほどに感じた。

だが…。



「ジュード。
その気持ちだけでも十分あの人なら喜んでくれるはず…」
「そんなの…それじゃダメなんだっ!!
だって!僕…、ガイアスさんには幸せになってもらいたいから…!だから!」
「ジュード…。」



気持ちだけでも喜んでくれるというジャオの言葉を遮り、ジュードは頭を振った。

自分の気持ちをきちんと形にしたいのだろう。



「…あっ…!!」



そんなジュードの気持ちを汲み取るしかないだろうとジャオが考えたその瞬間、ジュードは大きな声をあげた。




***



「ジュード。
今までどこに行っていた?」



それから少ししてジャオと共にこっそり城に戻ったジュードを待っていたのは仁王立ちでジュードを圧倒するオーラを放つガイアスだった。



「あ、あの…。」
「どこにいっていた?」
「…お城の外の教会あたりに…。」
「なにをしにそんなところへ行った?
……っ、ジュード!お前…その手はどうした!?
何者かに襲われたのか!?」



ガイアスに圧倒されながらもジュードはびくつきながらも、問いかけに答えていった。
その途中でジュードの手を見たガイアスは目を見開き、その手をとった。



「霜焼けになっているじゃない!」
「しかも凍傷になりかけているぞ。」
「何したらこうなんだよ?」



ガイアスの後ろにいたプレザ、ウィンガル、アグリアも多少の反応の違いはあれど、驚いた表情を浮かべていた。



「…さがしもの…してて…。」
「探し物?俺に言えばすぐに用意させたものを…。」
「それじゃ、ダメ!!」
「…何故だ?
ルナやシャドウに何を問いかけても知らないとしか言わない上に、凍傷間近になってまで何を探していた?」
「これ…。」



意味が分からないと声をあげたガイアスにジュードは恐る恐る自分が必死に探し求めていたものを、差し出した。



『…本当に見つけてきたのか…。』
『まさか、本当に見つかるとは…思いもしませんでした。』
「…これは?」



ジュードの手に握られていたのは、見たことのない花。
それを見るなり、驚いたように声をあげるルナとシャドウの言葉からもそう簡単に手にはいるものではないことは理解できるが、それがどういった花なのかが分からないガイアスは説明を求めてきた。

ルナとシャドウが説明すると、ガイアスは目を見開き、フリーズしながらジュードを見つめた。
普段、表情の変化があまり見られないはずのガイアスの無防備な表情に、ジュードも不思議そうに見上げた。



「ガイアス…さん?」
「…お前は、俺ともっと親睦を深めたいと思っていたのか?」
「それも、あるけど…僕、ガイアスさんにはたくさん幸せになってもらいたくて…。
僕を研究所から助けてくれたのはルナとシャドウだけど、そのあとの僕を助けてくれて支えてくれて、…いっぱい優しくしてくれたガイアスさんのこと、僕…大好きだから…。
だから、僕はガイアスさんにいっぱい、いっぱい幸せになってほしかったんだ。」
「…そうか。
…ジュード。ルナとシャドウから聞いた。
俺のことを兄のように思っていると。」
「…あっ…、ご、ごめんなさい…!」
「何故謝る?」
「迷惑じゃ…ない?」
「…迷惑なものか。
…この書類を読んでみろ。」



不安そうにガイアスを見上げたジュード。
そんなジュードにガイアスは一枚の紙を手渡してきた。
その書面に目を通したジュードはその内容を理解した途端、大きく目を見開き、ばっと顔をあげてガイアスを見た。



「あ、あの…これって?」
「そのままだ。
お前はすでに俺の弟だ。
戸籍も俺の義弟として登録した。
つい先日のことだがな。」
「ジュードの気持ちがもう少し落ち着くまでは秘密にしておこうってことだったけど、もっと早く伝えておけばよかったかしら。」
「…これ…、ぼく…ガイアスさんのおとうと?」
「不服か?」
「……っ!!」



今にも泣き出しそうに表情を歪めたジュードはガイアスの言葉に無言で頭を振ることしか出来なかった。
言葉にしてしまったら、一緒に涙も流れてしまいそうだった。

研究所での記憶しかないジュードにとって、家族との繋がりには人一倍憧れがあった。
いつも気にかけてくれるガイアスが兄だったら良かったのにと考えていたジュードの気持ちを汲んでくれたかのように弟にしてくれたガイアスの優しさにジュードは嬉しくて体を震わせて俯いた。

そして、そんなジュードの頭を優しく撫でながらガイアスは言った。



「これからは俺のことを兄上と呼べ。
弟が、兄をガイアスさんなどと他人行儀で呼ぶのはおかしいだろう。」
「あにっうえ…!」
「もう呼んでくれるか?
この雪の結晶花とやらの言い伝えは本当らしいな。」



そう言いながら頭を優しく撫でるガイアスは、弟を慈しむ穏やかな笑顔を浮かべていた。

兄が弟を慈しむように。

ガイアスの手の温もりにジュードは照れ臭そうに、けれど幸せそうに微笑んだ。

その笑顔がガイアスや他の者たちに安らぎを与えていることを彼は知らない。

仲睦まじく手を繋いで歩くガイアスとジュードの背中を四象刃たちが微笑ましそうに見つめていた。

その後、ジュードがプレゼントしてくれた花をガイアスは常に持ち歩き、「どうだ?キレイだろう?ジュードが俺のために必死に探し見つけ出した花だ。滅多に見つかるものではないというのに、俺のために見つけ出してきたようだ。どうだ?キレイだろう?もっとよく見るがいい。だが、触れるな。これに触れていいのは俺だけだ。」と会う兵士たちに自慢して回るガイアスの姿が度々目撃されることになる。

そして、これがきっかけでガイアスはブラコンへと変貌していく。

……これは、ジュードがガイアスを兄と呼ぶきっかけとなった物語である。


End

※※※


黒鳥様とクリスマスのプレゼント交換をしようという話になりまして、書かせていただきました。
書き始めたら止まらなくなって長くなってしまいました…。

だってとても萌える設定だったんだもの!!

というか、いまだにジャオさんの口調がよく分からない…!
違和感あったらごめんなさい…!!
もちろん雪の結晶花なんてものは私の捏造でございます。

黒鳥様…こんなんで大丈夫でしたかね?
もしイメージと違ってたらおっしゃってください!!

黒鳥様、私のわがままに応えていただき、ありがとうございましたっ!!

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