君を中心にまわる世界

ジュードが、ガイアスに引き取られてから1年ほど経った。

幼い頃から、苦痛を伴う経験しかしていない影響か、ジュードは1人で眠ることを極端に怖がった。

記憶がないはずなのに、1人で眠ると真っ暗な空間でたくさんの人の悲鳴に襲われる夢を見るようで、眠れない日々を過ごすことが多かった。

だが、誰かと一緒に眠ると、不思議とそんな夢を見ることがない。

それを知ってからガイアスたちの誰かがジュードと一緒に眠ることが自然と当たり前のこととなっていた。



「譲れ、ウィンガル。
お前は一週間前にジュードと一緒に寝たばかりだろう。」
「そう言う、お前は3日前にジュードと共に眠ったばかりだろう。」
「俺はジュードの兄だ。
本来なら、毎日でも共に眠りたいくらいだ。」



そしてガイアスとウィンガルのこういった言い争いが行われるのも同時期に城の至るところで目撃されるようになった。



「ジュードと一緒に眠るとお前は執務がいつもの時間と比べても大幅に遅れる。
それを考えればジュードと共に眠ることを了承出来ない。」
「兄の特権だ。
笑って許せ、ウィンガル。」
「誰が許すか!」



平行線を辿る無意味な2人の言い争いを呆れたように見つめる3人…アグリアとプレザとジャオは深いため息をついた。



「おい、ババア。
アレ、何とかしろよ。」
「面倒くさいわ、お断りよ。」
「今、割って入れば…とばっちりを受けることは容易に想像できるからのう。」
「でも、何とかしないともうすぐ就寝時間よ?」
「ジュードの奴、また気を遣って1人で眠ろうとするんじゃねぇの?」
「様子でも見に行こうかのう。」



目の前で(プレザたちからすれば)子供のように駄々をこねるような言い争いをするガイアスとウィンガルを放置して、3人はジュードの部屋へと向かった。



「ジュード、入るぜ。」



アグリアが部屋の扉をノックし、3人はゾロゾロと部屋へ入室した。



「…ど、どうしたの…?」
「どうしたの?じゃねぇよ!
眠るつもりなら一言くらい声かけろよ!」
「…え…?」
「悪夢に魘されることが怖くて眠れないんでしょう?
一緒に寝ましょう?」
「は?待てよ、ババア!
先に声かけたのは、あたしだっての!」
「みんなで一緒に寝る、というのはどうだ?」
「あら、それもいいわね。」



枕を抱えて部屋のすみに座り込んでいたジュードがぽかんとしている中で目の前で交わされる会話。
ジュードが何の話をしているのかを理解する頃にはアグリアとプレザ、ジャオはジュードと一緒に眠ることを決めてしまっていた。
その証拠にアグリアとプレザは枕まで持参してジュードのベッドの上に腰かけていて、彼女たちの中でジュードと一緒に眠ることは決定事項らしい。



「さっさと来いよ!」
「…でも…ぼく…。」
『ジュード。
せっかくの好意を無下にするものではありませんよ。』
『3人とも、乗り気のようだ。
遠慮する理由などあるまい。』
「ルナ…シャドウ…。」
「仕方ないのう…。」
「ひゃあっ!?」



ルナとシャドウにも一緒に眠ることをすすめられ、それでも戸惑ったように、視線をさ迷わせるジュードを見かねたジャオはその小さな体を軽々と持ち上げ、ベッドの上に降ろした。



「いらっしゃい、ジュード。」
「プレザさん…。」
「あら?私のことは姉として見てくれてもいいのよ?
そんな他人行儀だと悲しいわ。」
「プ、プレザ…姉…。」
「ふふっ。
本当に可愛いわね…!」
「わっぷ!」



プレザに微笑みかけられ、照れ臭そうに“プレザ姉”と呼んだジュードに母性本能でもくすぐられたのか、プレザはジュードを思いっきり抱き締めた。



「ババアにも母性本能なんて大層なものが備わってたんだな。」
「あら、アグリアもジュードに姉と慕ってほしいのかしら?」
「べ、別に…あ、あたしはそんなことカケラも思ってねぇよ!」
「ならば、ジュード。
これからはジャオ兄と…」
「…無理があると思うわ…。」
「年と顔を見て、考えろっての!」
「……ギリギリいけそうな気がしたんだがの…」
「ジャオ兄…?」
「……!!
本当に、素直なええ子じゃ!」
「ひゃあっ!?」


どさくさに紛れてジャオまでも便乗してきたが、プレザとアグリアは白い目でないないと否定的な発言をした。
しかし、ジュードはきょとんとしつつも、ジャオのことを兄と呼んでみせた。
それが嬉しくて、ジャオはジュードの頭をわしわしと撫でまわした。

最初こそ、得体の知れないジュードに警戒をして、明らかに距離を取っていたプレザたちだったが、人間不信に陥っているその小さな子供の姿に同情し、気にかけるようになった。
そして時が経つにつれ、いつしかそれは同情から親愛へと変わった。
少しずつではあったが、心を開いてくれたジュードは周りの人を気遣う優しさを見せるようになった。

気付けば、ジュードの周りには自然に人が集まるようになり、あのガイアスでさえ“ブラコン”と呼ばれるほどにジュードのことを慈しむようになった。

だが、ジュードは人を気遣いすぎるために、こうして1人で眠ることが出来ない環境の中でも誰かに頼ることを躊躇う。

ガイアスとウィンガルが添い寝をするのは自分だと子供のように言い争いを繰り返していることなど知らないジュード。
それもガイアスとウィンガルがジュードに格好悪い人間だと思われるのが嫌だからというまた子供のような理由でジュードには知らされていないのだ。

人の感情には敏感なこの少年は、自分に向けられる好意にはとかく、鈍い傾向にある。

それもこの子供を放ってはおけないとガイアスたちがジュードに対して過保護になってしまう要因の1つとなっているだろう。



「ジュード、今日はみんなで一緒に寝ましょう。」
「感謝しろよ、ジュード!
こういうのを両手に花って言うんだからな!なかなか味わえない体験だぜ。」
「…妖艶な花と野性的な花じゃのう。」
「うるせー!」
「それなら、貴方はその辺に生える雑草かしら?」
「雑草!?
その例えは失礼じゃろう。」
「あながち間違ってないんじゃねーの?
つーか、ずいぶんデケー雑草だな。」
「おなごは敵にまわすと怖いのう…。」
「ふふっ…。」



ジュードを真ん中に寝かせ、その両隣をアグリアとプレザが陣取り、居場所のないジャオはベッドにもたれかかるように座りながら会話を交わしていた。

そして、それを黙って聞いていたジュードは途中で小さく笑った。



「ジュード…?」
「何がおかしいんだよ?」
「どうした?」



クスクスと笑うジュードを3人は不思議そうに見つめていた。



「みんな、仲がいいんだなって思ったら…微笑ましくなって…。」
「その中に貴方も含まれているのよ?」
「むしろ、お前を中心にまわってるって言っても過言じゃねえんだからな。」
「…特にあの2人はのう…。」
「…ぼくが?中心?
兄上じゃなくて?」



きょとんとした表情を浮かべながら言ったジュードのその言葉にやっぱりこの子供は自分に向けられる好意にはとことん鈍いんだと改めて思い知らされた。



「…でも…、ありがとう…。」
「え?」
「わざわざ僕のことを気にして来てくれたんだよね?
本当にありがとう。」
「私たちがしたくて勝手にしてることよ?」
「嫌だったらわざわざ来ねーよ。」
「何も気にせんでええ。」
「それでも、ありがとう。
…あったかい…。」



ギュッと手を握ってくれるプレザとアグリア。
そしてベッドにもたれかかっているジャオのおおらかな雰囲気にジュードの心は次第にほぐれていった。
プレザたちが来る前は眠るのが怖くて、ルナとシャドウに話し相手となってもらうことで一晩を明かそうと思っていたのだが、こうして他人の温もりを感じると強い安堵感に包まれた。

ジュードは強い安心感を感じながらそのすぐあとに穏やかな眠りについた。

…余談だが、ガイアスとウィンガルの言い争いは翌日の早朝、早急に終わらせなければならない仕事があって早起きしたプレザが部屋に訪れた時も続いていて、プレザはその無駄な力を別のことに使えばいいのにと呆れ果てながら、強引に止めに入ることで強制的に終わらせたのだった。

そしてガイアスと四象刃たちの“ジュードと添い寝用MY枕(替えも含めて計10個)”がジュードの部屋に常備されるようになったことを城中の誰もが知ることとなった。


End

※※※

大好きな黒鳥様のサイトが5万打を迎えられたことの御祝いに捧げます。

導きの光設定でガイアスとウィンガルのジュードの取り合いで、美味しいところはアグリアとプレザの女性陣+ジャオ(常識人)がGETなほのぼのギャグ…なんていう素敵リクエストをいただきましたが…ガイアスとウィンガル、ほぼ空気やん!!

というか、ジャオさんの口調がいまいち掴めないっ!
あんなんで大丈夫かしら…?

書いててめちゃくちゃ楽しかったー♪
書いてる本人だけが楽しいだけのものですいません…!
黒鳥様…!私の足りない頭で浮かんだのはこんなしょうもない話です…!
黒鳥様の記念すべき捧げ物には役不足もいいとこですが、これからも黒鳥様へ愛を捧げていきたいと思っております!!

黒鳥様!本当におめでとうございます!
これからもストーキング(現在進行形で)させていただきますので、よろしくお願いいたしますです!

最後に…黒鳥様!大好きです!愛してます!


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