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「この辺で少し休憩にしよう。」
ザオ遺跡でルークに熱があると気付いた一行はルークを休ませるために元来た道を戻っていた。
そんな中、ヒスイが突然休憩をとると言い出した。
その言葉にアッシュは眉間にシワを刻みながらヒスイに向かって口を開いた。
「ルークを休ませた方がいいのは素人の目から見ても明らかなことだろうが!
途中で休憩なんかしてる暇はねぇ!」
「あ、あのさアッシュ、俺もヒスイの言う通り、ルークの熱がさっきより上がってるみたいだから…少し休ませて体力を回復させた方がいいと思うよ。」
「…チッ!」
「決まり、だな。
アッシュはルークを看ててくれ。
他のメンバーは魔物が襲い掛かってきた時、ルークが襲われてケガをする前に守ってくれ。
ルークの体力が少し回復したらまた動きだそう。」
ヒスイの言葉に全員が頷いた。
ヒスイに言われ、アッシュはルークに負担がかからないようにそっと抱えると、ルークはすぐに眠りについた。
いくら疲れや体調を崩していることに気付かないとしても、体が休息を欲していないわけではない。
ルークの体は休むことを望んでいたのか、本人の意志とは関係なく強烈に迫ってきた睡魔にルークは身を委ねるように眠った。
そんなルークを見つめるアッシュを見ていたシングは、口を開いた。
「…アッシュ、ルークのことをどう思ってる?
…今でも…、憎いと思ってる?」
「なんだ、いきなり?」
「あ、ううん。
ただ、今のアッシュはルークのことをすごく心配しているように見えたから…。」
「………わからん。
俺が今、こいつにどんな感情を抱いているのか…、複雑な思いもまだ俺の心の中にある今は分からないと言った方が正しいだろうな。
だが…、お前の言う通り、心配はしている。」
「そっか…。」
アッシュの言葉にシングは嬉しそうに微笑んだ。
アッシュ自身も自分の中にある闇と必死に戦っているのだろう。
ルークの苦しみや痛みを知り、理解していくうちにアッシュは自分の中にあった闇が少しずつ浄化されていくように感じていた。
だが、人間の心はうつろいやすいもの。
だからシングは思った。
アッシュも強いスピリアを育ててほしいと。
…かつて、自分の祖父のゼクスと交わした最後の約束をシングはアッシュを見ているうちに思い返していた。
***
「少し休息をとるつもりだったのに…こいつまで寝てたら世話ねぇな。」
数十分後、シングはヒスイの肩に頭を預けながら眠っていた。
爆睡しているシングにヒスイは困ったように眉を寄せながら、少し呆れたような声をあげた。
「ヒスイ。」
「あ?
なんだ、アッシュ。」
「……お前は最初に会った時に言っていたな。
最初はシングのことを嫌っていたと。」
「あ、あー…そんなこと言ってたな…。」
「…だが、今のお前はシングに対して逆の感情を抱いているように見える。
何がお前を変えた?」
アッシュの問いかけにヒスイはため息を1つこぼした後、シングの顔を見つめながら静かに語りはじめた。
「俺がこいつと…シングと会ったのは…シングの故郷だった。
俺と妹のコハクはある目的のためにシングの祖父…、ゼクスってじいさんに会うために旅をしていた。
シングに会ったのも敵に襲われて海岸に打ち上げられていた俺と妹をシングが発見したからだったんだが…、いろいろあってシングは妹の…コハクのスピルーンをバラバラにしやがった。
そう、今の…ルークのようにコハクのスピルーンは世界中に飛び散った。
それが原因で妹はスピリアがほとんど空っぽの状態になった。
唯一残ってたのは“優しさ”だけだった。」
「……。」
「普通は自分の妹のスピルーンをバラバラにした奴に好意を抱くはずはないだろ?
二度と会いたくないとさえ思った。
そんな中、こいつはコハクのスピルーンを取り戻すために旅に同行したいなんて言い出しやがった。
あの時は腹の立つことばかりだった。」
「…そうか…。
だが、お前は何がきっかけでシングを大切に思うようになった?」
ヒスイの言葉にアッシュは再び、嫌悪感を抱いていたシングへの思いを変えたきっかけが何か、問うた。
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