真夜中の体温






深夜、おそらく今日最後の電車だろうそれに駆け込み乗車した俺はかすかな視線を感じて列車を移動した。
本来ならば気にせずにそこにいたかもしれないが、酒の臭いが酷く、そこに居られないほどだった。

酒の臭いが鼻から離れない。一気に気分が悪くなった。…ああ、それは前からか。
それから俺は年寄りの席ではないところの隅っこを選んで腰を下ろした。
かたんことんと揺れる動きが心地よくて、ゆっくりと目を閉じれば俺の意識はゆるやかに闇へと落ちていった。



がしゃんっ
音がして目を覚ました。意識が一気に覚醒する。電車の振動で体が揺れる。
目の前には誰もいない、どうやら列車が違うようだ。

「っ…にっ、するんです!」

絞り出したような声。聞き覚えがある。まさかここにいるはずないが、妙に期待してしまう。がらりと列車の扉を開けると、そこにはさっきの酔っ払った男とあいつがいた。

「し、しんじ…?」
「お前、何をしている」

首もとを締められて、苦しそうにしているこいつに俺はただ目を見開いた。
こいつの首には太くて汚い酔っ払った男の腕。今すぐにでもこの男をぶっ飛ばしたい衝動に駆られたが、あいつの視線が俺から離れることがなかったのでそれは叶わなかった。

「…おい、そいつを離せ」

こいつの首を締め続ける男を睨みつけるが、男は平然としている。これだから酔っ払いは嫌いだ。

「ああん?坊主が何のようだ?」
「……離せと言っている」

無視をして男の腕を掴む。すると男の額に青筋が浮かび上がり、こいつから手を放すとそれを拳に変えて殴りかかってきた。

「ふざけやがって餓鬼が!」
「っ…シンジ!」

それなりに喧嘩をやっていたのだろうか、拳がごうと音がした。すんでで身をかわし、体制を変える。同時にごぉんと鈍い音がした。
向き直ればそこには鉄の壁に顔を突っ込んだ姿。哀れな。
男はずるずると足を折って、その場に倒れ込んだ。顔が鉄の壁に衝突したことと、酒が原因だろう。
ふんと鼻を鳴らして男からサトシへと視線を移せば、視線が合った。
電車が止まり、車掌の声がサトシの声と重なった。




重い腰を折り曲げながら背中にあるものを、小さく跳ねて上へとあげた。

「ごめんな、シンジ」
「……そう思うならもう謝るな」

後ろでこくんと首を振った気配がした。背中が暖かい。子供体温なのだろうか(子供だからな。)

「シンジ、さっきはホントにありがとな」
「…ふん。放っておけなかっただけだ」
「ちぇっ。可愛くないな」

お前が可愛いんだろう、とは言えず。下を向いて明かりが灯る道を歩いた。
どうやらこいつは酔っ払いの男に絡まれた時に足を捻ったようで、歩けない、ということだった。
おぶってやる、と俺が言ったときこいつは全力で首を振った。それをねじ伏せて今この状態だ。

「な、シンジ」
「……なんだ」
「ありがとな!」
「…………もういいといっただろう」
「言いたかっただけだよ」

きちんと謝らないとなんか嫌だしとサトシは続けた。こういうところが真っ直ぐでうざい。
それでも俺の口元が歪んでいるのは多分。

「…これだから馬鹿は困る」
「なんだと!下ろせ、今すぐ下ろせー!」
「わっこら、暴れるな!!」

背中の体温が寒い夜空には丁度良い。暴れながらもサトシを押さえ込むとサトシは静かに俺の背中にひっついた。
普段なら気持ち悪いと感じるこの体温も今はただ暖かいと感じた。



※※※

天ちゃん宅のフリリク企画に応募していただいた作品だったのですが、予想外な設定にによによしながら読みました♪

いいとこどりなシンジさんも可愛いサトシも私の心をがっちり掴んでくださいましたVvv


シンジにおんぶしてもらうなんて、どんだけ萌える話だよ!

天ちゃん!
ありがとうございました♪

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