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「…兄ちゃん…、元気にしてるかな…。」



ぽつりと呟かれた言葉。
その言葉にタケシやヒカリはサトシの方を見た。



「サトシ、また?」
「あれからまだ1ヶ月しか経ってないぞ?」
「ピーカ。」
「ポチャー。」



サトシの呟きにタケシもヒカリも苦笑した。


サトシがレッドに抱いていた強いコンプレックスが解消され、それぞれが旅に出てから1ヶ月の時が流れた。

あれから変わったことといえば、サトシがふとした時にレッドのことを思い出すように呟くようになったこと。


最初はタケシたちもまた近いうちに会えると励ましていたが、こうも何回も呟かれては、苦笑するしかない。



「サトシって、本当にレッドさんのことが好きなのね…。」
「レッドさんと比べられることを恐れて今まで避けていた分、和解できた今、会いたいと思うのは仕方ないことなんだろうな…。」
「でも、今のままのサトシじゃ言えないわね…。」
「ああ、“あのこと”か…。」



ぼんやりと空を見上げるサトシを少し離れたところから見ていたタケシとヒカリはそんな言葉を呟いた。





***



サトシがレッドと別れる前、タケシとヒカリはレッドに呼び出されていた。



『レッドさん、話って何でしょうか?』
『タケシ、ヒカリ。
2人には悪いんだけど、頼みがあるんだ。』
『頼み…ですか?』
『サトシは知っての通り、相当無茶をする奴だ。
ポケモンのためならなりふりかまわず体を張るのはサトシのいいところなんだろうけど…、俺は心配でたまらないんだ。』
『私も同じです。
サトシったら、いっつも無茶ばかりで心配がつきないんですよー。』



ヒカリの言葉にレッドは苦笑した。
確かにヒカリの言う通りなのだから。
レッドは困ったように笑いながら再び口を開いた。



『今、サトシはポケモンマスターを目指して頑張ってる。
俺は今までサトシのことを悩ませて苦しませた分、何かあったら助けに、支えになりたいって思うんだ。』
『それは…、サトシに言ったらいいんじゃないですか?』



タケシの言葉にレッドは首を横に振りながら口を開いた。



『サトシは俺と比べられるのを嫌がっていただろ?
サトシは自分の力で努力して、夢を叶えるために頑張ってる。
俺は支えにはなりたいけど、いつでも連絡を取れるような状態だと、心のどこかで甘えが出ると思うんだ。』
『…そういう…ものなんですか?』
『……俺がそうだったから。』
『…え?』
『サトシはいつも俺が帰って来ると変わらない笑顔で迎えてくれた。
俺の話をいつも嬉しそうに聞いてくれた。
いつしか、俺はサトシの元に帰ることで甘えてたんだ。
……だから、そんな自分を戒めるために、サトシが旅に出るまではマサラタウンに帰る回数を減らして、…甘えないようにしてきた。
だけど…それが原因でサトシと俺の間に溝ができてしまった。
サトシが俺に対して強いコンプレックスを抱いていることにも気づけなかった。』
『レッドさん…。』



少し悲しげな表情を浮かべながら自分の思いを語るレッドにタケシもヒカリもかける言葉を見つけることができなかった。

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