―4―
『…ここは…どこだ…?』
その頃、サトシは不思議な空間の中にいた。
自分の足は地についておらず、ふわふわと頼りなく浮かんでいた。
周りを見回しても自分以外誰も存在していないのか、何の気配も感じられなかった。
『ピカチュウ…?
タケシ…?ヒカリ…?
みんなー!!
どこにいるんだ!?
返事をしてくれよ?!』
必死に声を張り上げて仲間の名前を呼ぶが、辺りに響くのは自分の声だけ。
それが自分以外の誰もいないのだと思い知らされる要因になり、サトシは不安そうな表情を浮かべながら仲間の名前を呼び続けた。
『なんで…誰もいないんだろう…?
俺は…独り…なのか?』
《…人間よ…。》
『…!!
だ、誰だ!?』
孤独に怯えるサトシは自分の耳に自分以外の声を聞き、俯いていた顔を勢いよくあげ、声のした方を見た。
その視線の先にいたのは虹色に輝く光だった。
その光に神々しいものを感じて、サトシは固まった。
そんなサトシを気にする様子もなく、虹色の光を纏うそれは静かに口を開いた。
《…お前は生命の危機に瀕している。》
『…え?』
《……現実世界のお前の体は…、傷つき、いつ意識を取り戻すかも分からない状態だ。》
『なんで…?』
光が発した言葉にサトシは何故そうなったのか、必死に記憶をたぐりよせた。
『…あ…、そっか…俺…。
ピカチュウを助けようとして…。
ピカチュウは…無事なのか…?』
思い浮かんだのは、ロケット団に捕まり、必死に助けを求めるピカチュウと、それを追いかける自分。
そこまで思い出してサトシが一番最初に頭に浮かんだのは大切な相棒の安否だった。
《……己の心配はしないのか?》
自分のことはそっちのけでピカチュウを心配するサトシに虹色の光はぽつりとそう呟いた。
その呟きにサトシはふっ、と目を細めながら口を開いた。
『……俺…、ピカチュウが大切なんだ。
かけがえのない仲間で、相棒なんだ。
いつも…一緒だった。
だから大切な仲間を、友達を、親友を守れたのか、無事なのか考えるのは当たり前のことだろ?』
さらりと言ってのけるサトシに虹色の光は揺れた。
サトシはそれが何となく驚いているように感じた。
《…お前のような人間がいたとは…。
……まだ人間も捨てたものではないのかもしれない…。
………サトシよ、耳を澄ませ。
お前を必死に呼ぶ声が聞こえるはず。
その声のする方へ進め。
振り返るな。ただ…前へ進め。》
『…俺を呼ぶ声…?』
虹色の光に言われ、耳を澄ましたサトシ。
―――……ピ、…ピ…カ…!
『…ピカチュウ…?』
遠すぎてはっきりとは聞こえないが、それは聞き間違えるはずもなく、大切なパートナーの声。
サトシはふらりとその声のした方に足を進めた。
―――……カピ!…ピカピ…!
先へ進めば進むほど声は少しずつはっきり聞こえてくる。
“ピカチュウが自分を呼び戻そうとしてくれている。”
サトシはそう直感で感じた。
『あ…、』
ピカチュウの声のする方へ足を進めている途中、サトシはふと虹色の光のことが気になり、振り返ろうとした。
《――振り返るな!!
…相棒の元に帰りたくば…一度も振り返るな。
…そのまま先に進め。》
振り返ろうとしたサトシは虹色の光の声にそれを強く制止された。
サトシはその時に察した。
きっと、振り返ってしまったらピカチュウや仲間の元には二度と戻れなくなる…と。
虹色の光はそれを止めてくれたのだと。
根拠はないが漠然とそう感じた。
『…ありがとう。
俺…、戻るよ。
ピカチュウの元に…みんなの元に。』
背を向けたまま、サトシは虹色の光に向かってそう言葉を返した。
『ピカチュウ、みんな。
ゴメン。今…行くよ』
そう言いながらサトシはそっと手を伸ばした。
―――――…ピカピッ!!
最後にピカチュウが自分を強く呼ぶ声がして、サトシはそのまま意識を手放した。
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