▽お供え
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いつもの定位置に座る忍様に
諒が帰ってくるなり
ハイ!と包みを差し出す。

「大家のおばあちゃんが帰りに持たせてくれたので有り難く頂戴しました。」

俺がおいしいおいしいって食べるもんだから"お土産です"と付け足す。
いつも大家さんには受けがいい。
それが彼の人柄なのだろうが。
絶品おはぎでーす、と話すそんな二人のやり取りを見て急須にお湯を注ぐ。
諒が来ると忍様はいつも楽しそうに
見える。二人が笑う微笑ましい光景。

普段は緊張で険しく
なっていたりする表情も
こんな緩やかな時間は
柔らかい笑顔になる。
そんな横顔を黙って
見ているのが大好きだ。

毎日過ごす中に常に困惑や、
不安、焦燥感、悲しい出来事ばかりに溢れていて、なかなか順応する術を知らなくて、
ふと足を止め小さな幸せに気付く余裕なんてなかなかないけれど。
こんな幸せがずっと続けばいい。
そんな幸せな時間ばかりが
進む訳ではない事はわかっているが。

「お前はもっとこういう愛情と
栄養のある物を食べたほうがいいんだ。
もっと太ってしまえ」と、
ウンウン一人納得している様子。

「ご苦労だったね。」と
忍様が包みを受け取ると、
二度ほどパンパンと手を打ち鳴らし
掌を合わせ一礼。

それはおはぎをくれた
おばあちゃんへの物か、
目の前の人物へなのか。

何にしてもその流れは
お土産と言うよりお供えよね。

2011/03/01


 

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