短編 | ナノ

 
 
 あのヒトはなんてわかりやすいんだろう。



最近、校内で僕の噂が飛び交っているのは知っていた。"好きな人がいるらしい"というソレは、この間告白して来た女の子が広めたものらしい。あんまりしつこかったからそう言って断ったのだ。


そしてそれは、あながち間違っていない。



 「先輩、」


 家庭科室。作業をする(今日作っているのはコースターだ)僕の目の前の席に座っているなまえ先輩に声をかける。

 「先輩、そこらへんにマチ針落ちてませんか?一本足りなくて」 「・・・」

先輩からの返事は、ない。視線だけは僕に向いているが、どうせぼんやりとくだらない考え事でもしているんだろう。手に取るようにわかる。


―――――例えば、とある少年の噂のこととか、ね?


 「なまえ先輩?」
 「え?!あ、あぁ、見てないよ」
 「そうですか」

おかしいなー、ともう一度机の上やら床やらを眺める。見える所には見当たらないから、どこかスキマにでも挟まったのかもしれない。



 「どこかなー。マチ針って結構危ないんですよね。踏んだら大変だ」


床を見るふりをして一瞬なまえ先輩を見ると、案の定。先輩はほのかに赤い顔をしてじっと考え込んでいた。きっとさっきまでの続きを。



 「・・・ね、ユウキくんってモテるでしょう」
 「何ですか急に・・・」
 「何か、ユウキくんに好きな人がいるってこと全校生の間で噂になってるよ?それってモテるってことでしょ」
 「ああ・・・あれか」

なんて、今までそのことを考えてたんですけどね。我ながらわざとらしい。まあ、必死のなまえ先輩には気付かれないだろう。


 「あれか、ってことは本当なんだ、噂」
 「ええ、まあ」
 「えー誰、誰?私の知ってる人?」


 そんな強がった声出しちゃって。知ってるんですよ、僕。先輩が僕を好きなことくらい。ほんっと、バカみたいですよね。


 「秘密、です」
 「そっか」

あ、複雑そうな顔。残念だけどほっとしているような顔。・・・こんなにわかりやすいと、逆に心配だ。このヒトはもう少し感情を隠すことを覚えるべきだと思う。


 「それに、別に皆本気じゃないですよ。騒いでるだけ。どうして家庭科部なんかに入ってるんだってよく聞かれますし、ね」


じゃあこれは?こう言ったらどうします?


 「え、そうなの?なんで?ユウキくんって何でも上手く作るし、すごいと思うけど」
 「・・・ありがとうございます。そう言ってくれる人、実はなかなかいないんですよねー。体育の後とかにはすごいすごいって言われるんですけど、実は運動ってそんなに好きじゃなくて」

なんて、語ってみたり。
本当のことだけど。
なまえ先輩には嘘なんかつく必要ないから。


 「先輩のその、"男のくせに家庭科部なんて"って、バカにしない所、結構好きですよ」
 「え、あ、・・・」


なんてわかりやすい顔!耳まで真っ赤で、目も潤んでる。口をぎゅっと押さえて、そんなので隠してるつもりですか、もう。バカだなあ。



 「先輩、顔、どうかしました?」
 「う、な、なんでもないっ」


ガタン!!


 真っ赤な顔をからかって、その頬に伸ばした僕ね手を避けようと、先輩は大きくのけぞって・・・そして、後ろにこけた!!


 「ちょっ、なまえ先輩?!」

何してるんだこの人は!
急いで机の向こうに回り込んでしゃがみ込むと、彼女は真っ赤な顔のまま俯いて尻餅をついていた(下着が丸見えだ)。


 「大丈夫ですか?」
 「ったー・・・」

呻きながらそっと床についていた片手を持ち上げる。その指には赤い線が長く引かれていて。

 「・・・あ」

その線の犯人は、先程僕が無くしていた。

 「先輩、すみません。僕のマチ針が・・・」
 「あ、あったの?よかった」

・・・痛そうな顔しながら、何言ってんだか。もっとさ、自分の心配してくださいよ。


 「先輩、手」
 「え、な、ひゃっ」

あんまり痛々しいから、なまえ先輩の怪我をした方の片手を取り、その血を舐めとってやった。

 「や、やめ、ユウキくんっ」

先輩の制止の声なんか聞こえないフリだ。だって、珍しく裁縫以外のことでこんなに楽しいんだから。止めないでくださいよね。


 「ユ、ウ、・・・っ」


 あらら。
そうは言っても、先輩はもう要領オーバーみたいだ。仕方ない。やめてあげるか。


ゆっくり口を開いて解放してやると、真っ赤な顔と目が合う。ほんっと、なまえ先輩ってさ、


 「あ、わたし、」
 「・・・黙って?」
 「な、っんっ?!」




かわいすぎて、ついいじめたくなっちゃうんですよね!




強欲アウトサイド


(押しあてた爆弾(くち)から、弾ける熱)



20110110

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