短編 | ナノ

 
 
学パロ
 



 あの子は綺麗な子。
キレイ好きで、かわいい物が好きで、手先が器用で家庭科部で、だけど体育祭とかテストなんかでも目立つようなすごい子。
当然、一年の中での人気はトップクラスで、聞いた所によるとファンクラブなるものまで存在しているらしい。何から何までよく出来た子。

 そんな彼について、最近ではこんな噂が飛び交っている。
"実は好きな人がいるらしい"。

これは、大問題だ。少なくとも彼に憧れる女子にとっては。だって彼は入学してから数え切れないほど告白されているのに、その告白には一回も応えたことがないのだから。女の子に興味がないんじゃないかという憶測まで出ているのだ。その手強さは相当なもののはずだ。






 「先輩、」


 そして。
驚くことなかれ、何故か私は今、噂の彼―――ユウキくんに噂の正否を聞くため、家庭科室の彼の目の前の席に座っていたりするのだった。

というのも、私が実は家庭科部の部員だったりするからなのだが(ユウキくんファンの友人に頼まれたのだ)、同じ部活とはいえど特別親しい訳でもない私が尋ねるのは不自然なのではないだろうか。

確かに私も知りたいけれど、教えてと言って素直に教えてくれるような子にも思えないし(人懐こそうに見えてその実、自分のことはあまり話そうとしない子なのだ)。



 「先輩、そこらへんにマチ針落ちてませんか?一本足りなくて」
 「・・・」
 「なまえ先輩?」
 「え?!あ、あぁ、見てないよ」
 「そうですか」



 びっくりした。噂のことを考えていたら、いつの間にか本人がこちらを見ていた。


 「どこかなー。マチ針って結構危ないんですよね。踏んだら大変だ」


きょろきょろと机の上や床を見回すユウキくん。もし噂が本当だとしたら、彼の好きな人はどんな子なんだろう。同じクラスのハルカちゃんとか?仲良さそうだし。いやいや、もしかしたら私のクラスのコトネちゃんかもしれない。かわいいって有名だし。
・・・誰にしても、きっとかわいくて、優しくて、強い人、なんだろうな。私と、違って。



 ・・・だから思ってなんかない。期待してなんかない。この恋が上手く行くことだなんて、そんなの。
会話だってちょっとしかしたことないし、先輩らしいことは何もしてあげられてないし。好きになってもらえるようなことは何もしてない。そんな私の密かな恋が、彼にばれているとも思えない。
だからずっと、平行線のまま。それでいいの。それ以上なんて望まない。

今から聞くことは友達が聞いてほしいこと。私は知っても仕方ないこと。だから仕方なく聞くのだ。知りたい訳ではない。




 「・・・ね、ユウキくんってモテるでしょう」
 「何ですか急に・・・」

 床を眺めていたユウキくんが少し顔を上げて言う。


 「何か、ユウキくんに好きな人がいるってこと全校生の間で噂になってるよ?それってモテるってことでしょ」
 「ああ・・・あれか」

納得顔で頷く。

 「あれか、ってことは本当なんだ、噂」
 「ええ、まあ」
 「えー誰、誰?私の知ってる人?」


どうか気付きませんように。私の気持ちに、彼が。お願い。わざと出した明るい声は上手くいったのかしら。




 「秘密、です」
 「そっか」

 気付いているのかいないのか、彼は微笑む。


 「それに、別に皆本気じゃないですよ。騒いでるだけ。どうして家庭科部なんかに入ってるんだってよく聞かれますし、ね」
 「え、そうなの?なんで?ユウキくんって何でも上手く作るし、すごいと思うけど」
 「・・・ありがとうございます」

そう言ってくれる人、実はなかなかいないんですよねー。体育の後とかにはすごいすごいって言われるんですけど、実は運動ってそんなに好きじゃなくて。

うーん・・・私から見たら贅沢な悩みだけど、でも本人にとっては悲しいんだろうな。ユウキくん、もの作りがすごく好きだし。


 「先輩のその、"男のくせに家庭科部なんて"って、バカにしない所、結構好きですよ」
 「え、あ、・・・」


好きだなんて。言わないで、そんなこと。
このままでいいっておもえなくなるから。



欲張りリミット


(好きと言いそうになる爆弾(くち)を押さえつけた)

02110110

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