短編 | ナノ

 
 
 あ、そういえば僕今日誕生日だ。私がめくる手帳をみて、秋がぽつんとそう言った。

1月11日。冬休みが終わり、嫌々ながらの終業式から解放された後のことだった。
私はいつものように薬屋に来ていて、そして、その言葉を聴いた。



 「え」
 「ん?」

もちろん、私は初耳なわけで。


 「き、今日誕生日、」
 「んー、まあね。戸籍上の、だけど」
 「へー、なるほど・・・」

この男・深山木秋。この場で説明するまでもなく妖怪なのだが、日本の戸籍を持っている。今日はその戸籍の上での誕生日なのだそうだ。



 「ってかさ、先に言っといてよー。お祝いできないじゃない」
 「なまえから?勘弁してよ」
 「ちょっとそれどういう意味デスカ秋サン」

人がせっかく今から祝う方法を考えていたのに。そんな言い方ないじゃない。私から祝われたくないのか!屈辱だってか!


 「そのまま、ミルクも砂糖も入れずにストレートでどうぞ」
 「性格わるっ」
 「お褒めにアズカリ光栄デス、っと!」


 完成ー。彼は満足げに手元のビーカーを持ち上げてみせた。そう、ビーカー、なのだ。しかもなんかすごい色の液体入りの。見ているだけで吐き気がする類の液体。
それなのにあろうことか、彼はその液体をティーカップに注ぎ込んだ!!当然の如く広がる異臭。

そんなモノを「はい」なんて渡されても、もちろん私は困る訳で。


 「何の嫌がらせよ・・・っ」
 「やだなあ、歓迎のお茶だよ」
 「どこが・・・って、ちょっ、それこっちに向けないでよ!」


これをお茶などと呼んだら、お茶っ葉を作っている農家の人は悲鳴を上げて卒倒するのではないだろうか。形容し難い濁った色、撒き散らすのは生ゴミすらかわいらしく思えるくらい強烈な臭い。
あ、やばい。結構本気でキツイかも。


 堪えられなくなった私に気付いたのか気まぐれか(おそらく後者だ)。秋はふいにいつものように指を鳴らし、その液体をカップごと消してしまった。


 「まあいいや。なまえ、お茶入れて来て」
 「・・・了解」



あんなものを飲まされるくらいなら、と私がそれを断るはずもない。


 そうだ、お祝い。今からでは何も出来ないから、せめて気持ちだけは。今日は誕生日だから、特別おいしく入れてあげよう。そしておめでとうって、言ってみよう。

よーし、と意気込み、私はキッチンへと続く階段を駆け上がった。



20110111 秋おめでとう!

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