短編 | ナノ

 
 
 あのね、ひとつだけ聞いてもいい?聞きたいことがあるの。へへ、急に改まるからびっくりした?え?ううん、簡単な質問。すぐ答えられると思うよ。ひとつだけだもの・・・あ、ごめん、やっぱりふたつでもいい?今思い出したの。え?ポケモン?ううん、違うよ。ポケモンの話じゃないの。あ!何でそんなあからさまに面倒くさそうな顔になるの!失礼でしょう!たまにはポケモン以外の話もさせてよ。・・・はいはい、バトルも後でするから。わかってるよ、絶対!約束ね。大丈夫、私約束は破らないの。え?この間?えーと、記憶にゴザイマセン。あはは、嘘、嘘!ごめんて!今日は絶対守るよ。何だったら何か賭けてもいいから。何か・・・そうだな、例えばミックスオレとか。え、嫌い?ミックスオレよりサイコサイダー派なの?へ、へぇー。・・・ち、ちなみに、甘いものは?あ、好きなの?!ミックスオレの味が苦手なだけ?あぁ、そうなんだー!!ん?嬉しそうって?気のせいだよ!普通普通!何でもない!そっかあ、甘いもの好きなんだ。なるほどなるほど。あ、これで聞きたいことひとつ終わっちゃったや。あとひとつ。えーと。え?何でそんなこと聞くのかって?それはー、うーんと、内緒、かな!強いて言うなら必要だから。答えになってない?うんと、じゃあ答えはもうひとつの質問の後で。・・・ちょっと、待ってよ急かさないで。私にも心の準備ってものがあるの。そうよ、準備が必要なの。質問するだけだろってそんな、その質問考えるのに私がどれだけ時間かけたと・・・。プロポーズでもあるまいし、って・・・。・・・おしい。




 「・・・は?」
 「は?、じゃないわよ。私の一世一代の告白よ」



 長々としゃべっていたなまえは、そう言うと微かな上目遣いで俺を睨みつけた。その瞼の際に、光るものを見てぎょっとする。・・・そんな顔をされても困る。俺は何かしたのか?!こいつの訳のわからない質問に答えただけじゃないか。そっけない返事をしたのは自覚しているが、意味を掴みかねたのだから仕方ないではないか。

プロポーズだなんて、例えで出したのに。まさかそのまま一世一代の・・・こ、告白に繋がるだなんて、考えてもみなかった、し。相変わらずこちらを睨みつけてくるなまえに、なんだか恥ずかしくなってしまう。こいつ、睨んでも全然怖くないんだな。むしろかわい・・・ってなんだこれ、どこから沸いて来たあんな言葉!



 「・・・好き。アホだけど。鈍感だけど。バトル狂でポケモン馬鹿だけど。・・・そんなシルバーが、好き」



 ああ。俺がヒビキかマツバか、あるいはワタルか・・・とにかく、別の男だったなら、ここでスマートに対応できるだろう。ありがとう、僕も君が好きだよ、なんて。

だが、自分はなまえの言う通りアホで鈍感で、バトル狂のポケモン馬鹿だからそんなふうにはなれない。うまく対応できない。もしかしたら修業が足りないのかもしれない。りゅうのほこらでまた明日から修業しなくては。精神が弱いのだきっと。だから返事が出てこないのだ。ああ、でもなまえはどんどん悲しそうな顔になってしまう。釣り上がった目尻が段々に下がって、目の端の雫が落ちてしまいそうだ。何とかしなくては。でも口は役立たずだ。
仕方がないから彼女の手を掻っ攫って、握りしめることにする。



甘くない



(・・・ところで、甘いものと告白に何か関係はあったのか)
(シルバー、バレンタインって知ってる?)

(・・・!)
(もう!鈍感!はい、あげる!)


20110214

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