「え?」
私の言葉に、少年は目を丸くして聞き返した。何て?と更に付け加える。信じたくないのかただ聞こえなかっただけなのか、表情からすれば恐らくは前者だろうが。
「だから、チョコ。あげるよ」
私が平然と繰り返せば、やっぱり。さあっと筆をすべらせたかのように頬が赤く染まる。まるで漫画のよう。頬だけ見ればリベザルくんの鮮やかな髪にも負けないくらい赤い・・・とはさすがに言い過ぎだけれど。丸くなっていた目はそのままの大きさで私の差し出す小さな紙袋へ向けられた。
「な、何で?」 「何でって・・・」
私がむしろ、キミに聞きたい。柚之助、キミはどうしてそんな目で私のチョコを見るのですか。まるで爆弾でも差し出されているかのような目じゃないですか。そんなにも私のチョコが怖い・・・の、かな。よくわからない。味が心配なのかしら。別に私は料理音痴というわけではないのだけれど。
「・・・私が柚之助にあげたい、じゃ駄目なの?」 「だ、駄目っていうか・・・なまえ、」
真っ赤な顔であやふやと言葉を濁す。しかし視線だけは変わらず、チョコを見つめ続けている。あまりに手元だけを見つめるものだから、私とは全く目が合わない。
・・・駄目っていうか?何なの?じっと返答を待つ。彼の台詞の続きは、しばらく経ってから恐る恐るやってきた。
「・・・あの、なまえ」 「なに?」 「これ、そういう意味でいいの?」 「え?」
そういう意味、とは。
「そういう意味、以外に何か意味、あるの?」 「・・・ええと、いつもお世話になってます、とか」 「柚之助にお世話になってないもん」 「いや・・・まあそう・・・なんだけどさ」
煮え切らない様子だ。
「もう・・・言いたいことがあるならちゃんと言うの」
責めるようにそう言えば、しばし逡巡。それから、決心したようにぱっと顔を上げた。やっと、目が合う。意思の強い目がしっかりと私を捕らえる。
「じゃあ言うよ。・・・ボクに何、させたいの」
真剣な顔で飛び出したのはそんな言葉。彼があまり真っすぐ私を見つめるから、私は逆に、できるだけおちゃらけた顔で答えてみせる。
「―――・・・肩たたき?」 「えぇ、また?!もー、なまえていっつもボクをそんなどうでもいいことに使うんだから!」
答えた瞬間、真剣な目を吊り上げて噛み付いてくる柚之助。ある程度予想は出来ていたようで、怒ったような口調にも諦めが少し滲んでいた。私の言動には慣れっこということか。 ああ、でもそのぶん、これからの展開も分かりきってるんじゃないかな?だってほら、柚之助は結局いつもその、"どうでもいいこと"をやらされるもの。
「どうでもいいことじゃないよ、大切なことだよ」 「・・・肩たたきくらい誰でもできるでしょ」 「柚之助の絶妙な力加減がいいんだって」 「・・・はあ」
もういいよ。わかった。ため息と一緒に私の手のチョコを引ったくった。
20110214
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