朝の布団というのはどうしてかくも離れ難いのだろうか。止めよう、起きようと思うのに目が開かない。開いたら開いたで起き上がれないのだ。魔力でもあるんじゃないか。私は軽い目眩を覚えて、起きかけたベッドにまた倒れ込んだ。
ああ、ダメダメ、今もう一回寝たら確実にお昼過ぎる。でも布団気持ちいいしな・・・なんて。そんなことを考えながら布団の中でうだうだするうちに、部屋にある窓のカーテンがばっと開かれていた。差し込んでくる朝日。そのあまりの眩しさに目を少しだけ開くと、見慣れた黒髪が窓の傍に立っている。ああ、柚之助、だ。柚之助が起こしに来たのか。
少し不機嫌なその少年は、私と目が合うとため息をつきながら近付いて来た。起きない私に腹が立ったのだろう。ベッドの横に立って私の肩あたりを布団ごしに掴み、軽く揺する。
「起きなよ」 「うー・・・あと、5時間・・・」 「5?!・・・昼になるよ」
まだはっきりしない意識で答えれば、柚之助は呆れたようにそう言いながら私を揺する手の力を強めた。
ゆさゆさゆさ。
これは、寝起きの頭には少々きつい。揺られ酔いしちゃいそうな感じだ。あまりの不快感に、私は身体を揺すってその手を振り払おうとする。
「やめてよー頭いたいー・・・」 「なまえが起きないからでしょ?!」
しかし柚之助の手は止まらない。それどころか、揺さぶる手は更に勢いを増した。酔う。これ絶対酔うって。乗り物にも乗ってないのに酔うとか悲しすぎるよ。
この手から解放されるにはどうしたらいいのだろう。手っ取り早いのは彼の言う通りに起き上がることだが、この布団の心地よさを手放してしまうのは惜しい気もした。何しろすごく気持ちいいのだ。このまま起きてしまうのはもったいない。もう少し味わいたい。 そう思って口を開く。
「じゃあ・・・ちゅーしてくれたら、起きる・・・」 「はあ?!」
さすがの彼も、その言葉には手を止めた。やった、やっと解放された。ほっとして息をつく。安心して、ゆっくり目を閉じて心地よさにリターンだ。作戦成功。
そんなまどろみを楽しんでいると、ベッドの横で柚之助が少し身じろぐ気配がした。彼のものらしい呼吸の音が近くなる。・・・え、あれ?今の冗談だよ?作戦だよ?まさか、本当にするなんてことは・・・あれ? 心臓が落ち着かなくなった。再びさよなら、心地よさ。怖くて目が開けない。
「なまえ、」
あれ、あれあれ?! 柚之助の声は私の顔の真上から聞こえた。息がかかるくらいの距離。歯磨き粉のメロンのにおい。 閉じているまぶたにぎゅっと力を込めた。
「・・・はい、どー、ぞっ」
そのままの距離で声が聞こえたかと思うと、頬に鈍い痛み! 急いで目を開けてみると、彼の手は私の頬に伸びている。つまり、これは抓られている痛みなのか。ぎゅうう・・・と摘まれた頬が悲鳴を上げた。痛い。 さすがに我慢出来ず、飛び起きる。もちろん眠気は一気に消え去っていた。
「柚之助っ!!いたい!それちゅーじゃない!ぎゅー!!」
やっと手を離した少年に叫べば、きっと睨み返される。・・・かなり、怒ってるかも。
「起きないなまえが悪いんだよ!」
ボクが優しく起こしてるうちに起きないから!・・・って、初めのも優しくはなかったよ。 抓られたらヤだから言わないけどさ。
20110410
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