学パロ
「あ、なまえ先輩」
お昼を食べ終わってすぐの昼休み。私は友達と靴箱の方へと歩いているところだった。学食帰りの生徒や、あたふたと次の授業をするために走り回る先生たちと共に廊下を歩き、玄関まであともう少し、というところで声を掛けられたのだ。掛けてきたのはユウキくん。部活の後輩だ。
彼は一緒にいた友達にちょっとごめん、と片手を上げ、いつもの人好きする笑顔でこちらへと駆けてくる。腕まくりした長袖シャツの衿元からグリーンのTシャツを覗かせ、爽やかに問い掛けてきた。
「先輩次、体育ですか?」 「うん、そうなのー。ご飯の後に、困っちゃうよね」
次の4時間目の体育。私はテニスを選択しているから、外だ。この暑い中太陽のさんさんと照り付けるテニスコートでテニスなんて。しかも昼食後すぐ。ほとんど自殺行為だと思うのは私だけだろうか。私ってば、何でテニスなんて取っちゃったんだろ。バドミントンとかにすれば体育館だったのに。
靴下焼けとか、なったらやだなあ。格好悪い。とりあえず、着替えた時に日焼け止めだけはこれでもかというほど塗りたくってやったけれど。
「この時期に外はキツイですね・・・。頑張ってください」 「うん、ありがとう!頑張るよー」
後輩からのささやかなエールにいい気分でいると、廊下の時計を見ながら友達が声をかけてきた。
「なまえ、そろそろ時間やばいかも」 「え?!あ、じゃあ、ユウキくん。私行くね」
その言葉に慌てて身を翻し、慌ただしく駆けだそうとすると。
「なまえ先輩!」
突然腕を引かれる。つんのめりそうになるのを何とか堪えた私は、引っ張った主を振り返った。
「何、ユウキく・・・っ?!」
その頬に指が触れる。細くて、だけど固くて大きな男の子の手だ。ゆっくりと頬骨のあたりから目元までを優しくなぞる、それがユウキくんのものだと理解した途端、背中がぞくりと粟立った。あまりの展開に、目を逸らすことも出来ず、彼の顔を凝視したままうろたえる。
「な、ななな何?!」
問い掛けた声は思い切りひっくり返ってしまった。目をぱちくり、口はぱくぱくと間抜けに開閉して、今の私の顔ったら、最強に不細工だ。もしここに鏡があったなら、その馬鹿面に泣きたくなっていたことだろう。・・・いや、なんかもう既に泣きたいや。そんな顔をユウキくんにバッチリ見られているんだもん。
羞恥と戸惑いとで真っ赤に染まった私の頬からこれまたゆっくりと手を離し、ユウキくんはゆるく微笑んだ。
「・・・日焼け止め、白くなってましたよ?」
取れた、と、日焼け止めを拭って少し白くなった指先を見せ付けてくる。
「え、あ・・・あ、あり、がとう・・・」 「どういたしまして。先輩、ほっぺ、赤くなってますけど大丈夫ですか?」
絶対に分かっていて聞いてくる意地悪な後輩の言葉に、「ひ、日焼けだよ!!」と苦しい言い訳をたたき付け、私は慌てて先へ行く友人の背中を追い掛けた。
その友人が実は会話を聞いていて、ユウキくんのことで散々からかわれたのはまた別の話、だ。
20110716
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