短編 | ナノ

 
 
※学パロで生徒会設定




 「図書委員から予算申請書・5分以内・ダッシュ!」
 「は?!」


 どうもこんにちは、私はポケット学園高等部の生徒会で会計をさせていただいているなまえという者。まだまだ経験は浅く、至らない点は多いものの、何とかかんとか生徒会として頑張っている。

さて、ところで皆さん、今の御命令が聞こえただろうか。
文節で区切ってわかりにくいが、要約すると「図書委員会の予算申請書が期限に遅れているから今すぐ行ってもぎ取って来い。何としてもだ。もし5分以内に戻れなかったらお前に責任取らせるぞ」という意味になる。まあ、普通に考えて無茶苦茶である。
まず、生徒会室は4階にあるのだ。そしてに図書委員会の活動場所である図書室は2階。往復するのも一苦労だということが安易に想像できる。

そんな無茶苦茶な命令、のたまいなすったのは我らが生徒会長・ファイア先輩。その命令に顔を青くしたのが私・なまえである。


 「わかったらさっさと行け」
 「え、あの、ちょっと」
 「行け」

そんな無茶な!と言った私の魂の叫びは「あと4分30秒」というファイア先輩の発した悪魔の呟きによって押さえ付けられてしまった。あんまりである。

 見兼ねたグリーン先輩(男子副会長)が「おいファイア」と咎めるような声を上げたが、ファイア先輩のひと睨みであっさりと黙ってしまう。
もうちょっと頑張ってほしいものだが、何せ相手が相手だ。そう簡単にいくはずもない。リーフ先輩(女子副会長)は苦笑いでこちらを見ているだけだし。他の役員に至っては目も合わさないようにと必死で視線を逸らしているし。・・・もう、これは諦めた方が良さそうだ。


 「あと4分な」
 「あああもうわかりました、わかりましたから!行ってきます!」

このまま粘っても無駄だと判断した私は、2階下にある図書室へと走り出した。





***





 それから。図書室に走り込んだ私はすぐさま委員長らしき人から予算申請書を奪い取るようにして受け取り、元来た道を駆け出した。この間3分30秒。図書委員長が申請書を探してカバンをゴソゴソしていた時間のせいである。

おかげでタイムリミットまであと30秒。私は体育の時間にも見せたことがないくらいの必死さで階段を1段飛ばしで駆け上がるはめになってしまった。脚を上げる度にスカートがめくれ上がってしまい、かなり危うい状態になっているだろうが、ファイア先輩の恐ろしさに比べれば些細な問題だ。

今はとにかく、走る、走る、走る・・・。



ガチャッ!

 「ただ今戻り、まし、たー!」

バン!と音が出るほどに慌てて生徒会室のドアを閉める。ファイア先輩には「煩い!」と叫ばれたけど、今の私にそんなことを気にする余裕はなかった。疲れきっているのだ。なのに、


 「あとそれ13秒遅刻」

手に持った書類を指差してファイア先輩。もはや鬼である。

 「、・・・って、ふ、ファイ、アせんっ、ぱい・・・っ、」
 「なまえちゃん、深呼吸深呼吸」

リーフ先輩が背中をさすってくれるのにジェスチャーでお礼を言い、私はファイア先輩をキッと見上げる。

 「だって、・・・私だって、頑張ったん、だから・・・!」

ファイア先輩が5分とか言うからスカートがめくれ上がるのも我慢して走り抜けてきたのに。と悪態をつく。

 「とりあえず渡せ」
 「・・・はい」

差し出された手に、先程受け取った書類を載せる。ファイア先輩はすぐさま書類をパラパラめくり、そのうちに「許可」の印であるハンコをぽんと押す。

 「ご苦労」

ついでに私の頭もぽんと軽く叩く。

 「・・・」
 「何だ」
 「何でもないです」
 「そうか」


相変わらず愛想も何もない仏頂面で書類に向き直るファイア先輩にため息。この人って、本当に読めない人だ。労うならもっと盛大にやって欲しいのだけど。私の疲労の割に合わないじゃないか、全く。


―――悔しいから、優しく触れたその手の暖かさに不覚にもときめいてしまったことは内緒にしておこう。

20110912

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

戻る