短編 | ナノ

 
 
 「ねえ」
 「うん?」
 「何」


 いつもの午後、サンヨウのカフェでおしゃべりをしていたら、ふとトウコが切り出した。私は普通に、隣に座るトウヤは無関心に返事をする。
この場にいるのはトウコと私、それからトウヤの3人。トウヤとトウコは双子の姉弟で、私はトウコとは仲のよい友人。トウヤとは・・・一応、付き合っている。そんな関係。

 だからこんな時、トウコが話題とするのは大抵ふたりのその関係にまつわることなのだ。


 「なまえ達はさ、お互いのどこが好きなの?」
 「「顔」」

間髪入れずに見事にハモった返事。見も蓋もないような本音の回答に質問を投げかけたトウコはひくりと頬を引き攣らせた。苦笑い。

 「顔って・・・他にも、あるでしょ?」

仮にも付き合ってんだから、と。まあ普通はそうだろう。顔だけで好きになって、あまつさえ付き合うだなんて。正直私もどうかと思うよ。真面目に恋してる子達に言ったら引かれてしまうかもしれないね。

だけどねトウコ。双子のトウコに言うのはすごく申し訳ないのだけど、トウヤの好きなところ、と言われたとき、私は顔以外のものが何一つ思い浮かばないんだよ。だから顔だけとしか言えないの。


 「顔以外かあ・・・うーん、トウヤの顔以外のどこかに惚れる要素があったら良かったんだけど」
 「は?ふざけんなよお前。俺はお前と違って取り柄だらけだし」
 「え、ふざけてないし」

その流れで、「むしろ私の方がトウヤよりもいい所いっぱいあるし」、なんて続ければ、わかりやすく歪む顔。それが唯一の美点なんだからあまり崩さないでいただきたいのだけど。


 「それは俺のセリフだろ」
 「は、意味わかんない。トウヤにいいとこなんてあるの?」
 「ほら俺やさしーし」
 「嘘言いなさい、この間あんた私に何て言ったか覚えてる?"なまえってほんとぶさいく"よ?!優しい人はそんなこと言いません!」
 「優しい俺の忠告じゃんか」
 「ってかそれ実は私の顔好きじゃないでしょ!」
 「え?あ、間違った間違った。好き好き」

 適当に言い直してふふんと鼻を鳴らす。
意味わかんない。そのどや顔が意味わかんない。優しい人間のする顔じゃないよそれ。せっかく顔はかっこいいんだから黙ってればいいのに。そうだ黙ってろ。


 「・・・なまえ、トウヤ、ちょっと、」
 「ほら見てみろよトウコ、こいつ全然いいとこないっしょ」
 「あーもう、うざいよその顔!取り柄なくなった!トウヤ今いいとこゼロだよゼロ!ね、トウコ!」
 「お前は顔すら取り柄になれないけどな」
 「はい、また顔好きじゃない発言したー。ってことは、私はトウヤと違って顔以外に美点があるってことね!トウコ聞いた?今言ったよね!」
 「どうしてそこで美点ゼロの可能性に気付かない」
 「へー。そんな美点ゼロと付き合ってるのは誰でーすーかー」
 「うわうざい。別れるわこれ」
 「あははは」


 そんなこんなで付き合って3年になる私たち。つまりは欠点まで含めて愛してるということ・・・に、なるんだろうか。でもやっぱりトウヤの人を馬鹿にしたような顔には腹が立つし、好きなところは未だに見つからない。


 「ほんとに別れたら泣くくせに。素直じゃないななまえちゃーん」
 「うん?あー、泣く泣く。捨てないでトウヤくーんって泣きわめくね」
 「はは、そらうっぜえわ。しゃーないから拾ってやるよ」


 「・・・好きなだけやってなさいな」

巻き込まれて呆れ果てたトウコのため息と共に、今日のお茶会はお開きになった。



無宇宙論の魅せる愛は、



20111023

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