短編 | ナノ

 
 
※学パロ




 机の上に90度に広げた携帯を置いて、エコモードで真っ暗になった画面を見つめて、そしてぼんやり。
面積約30平方センチメートルの、その黒の四角の奥に並ぶ文字はたったの7行しかなくて、それなのにとてつもなく私を考えさせる。厄介なやつだ、と小さく嘆息した。


 「――何してんの」
 「あれ、ユウキ」

 そうしてぼうっとしていたら突然話し掛けられるから驚いた。クラスメイトのユウキだ。彼とは席が近くて、男子の中では割と仲がいい。部活の合間に抜けて来たのか、練習着のジャージ姿。確かどこかの運動部、だったはずだ。どうしたんだろ。忘れ物でもしたのだろうか。

そんなことを思いながら彼の質問に答えて、これがね、と机の上の携帯を取り上げ、ボタンを押してエコモード画面からメールへと切り替える。それをユウキの方へ向けた。彼の視線が画面に注がれる。


 「何、クリスマス会のお知らせ?」
 「そんな感じ。中学の時のメンバーで男女5人ずつ10人で、だって。男子はもう決まってて、あとは女子を集めるだけみたい」

7行のメールを要約してそう話せばユウキは軽く頷いて先を促した。

 「へえ。それで、何でなまえはそんなに考え込んでいるわけ?」

それだ。そう、それだけならばこんなに考え込まない。よくある普通のお誘いメールである。現にメールは返信済みで、幹事の女の子には参加する旨を伝えてある。しかし。


 「……誘われたメンバー、なんだけど」
 「メンバー?」
 「うん。参加する男子の面々と、中学の時何もなかった人だけを誘ってるんだって」
 「何もって?」

ユウキが首を傾げるから、私は吐き捨てるようにその答えを明かす。

 「恋愛感情」
 「……ああ」

納得顔で彼も頷いた。


 中学の時、クラスにはいくつかのカップルが存在した。いや、いくつかというよりむしろ"かなりの数"かもしれない。夏ごろに告白ブームなるものが訪れたからだ。
私はその波には乗らなかったのだが、友人で便乗した子は結構いたはずだ。そしてその中で今回の男子メンバー5人に告白したりされたりしていた子は皆クリスマス会に誘われなかった。顔を合わすといろいろと面倒臭いことになるから、らしい。


 「せっかく楽しいことがあるのにさ、一度でも告白してたら気まずくなっちゃうんだよ。それなら一生友達でいた方が幸せでしょう。友達ならずっと仲良くしていられるし、卒業してからも一緒に遊べる」

壊れないでずっと恋人として付き合っていけるケースなんて特例中の特例であることは、私も知っているのだ。だから一番幸せなのは、ずっと友達でいること。そう思ったら何だかいろんなものがばからしく感じられた。


 「…なまえはずっと友達がいいの?」

ユウキが尋ねる。私は答えた。

 「そうだよ」

恋なんて大人になってから、結婚までにすればいい。今の私には煩わしいだけのものに思えるのだ。なのにユウキはそんな私を哀れむように目を細める、のだ。


 「でもそれじゃあ、ずっとキスできないね」


その顔が、声が、何だか無性に腹が立つものだったから、私も平静を装って言い返す。

 「できるよ、キスは。友達でも」

そしたらユウキは「本当に?」と少し驚いていた。してやったり、と何となく嬉しくなりつつ、私は迷わず「うん」と頷く。
第一、キスなんてただ口と口を合わせるだけの話。その気になれば初めて会う見ず知らずの人にもできるものだ。込める気持ちに意味はあるのかもしれないけれど、その行為自体に意味などない。そう言えばユウキは「そうかな」と首を捻る。納得のいかないご様子だ。…なんだ、ユウキってば案外ロマンチストだったのね。

 「――行動から気持ちが生まれる、なんてこともあるかもよ」
 「ないよ」
 「…言い切るね」
 「だって、私はその根拠を知らないもの」
 「ふーん?」


 じゃ、試してみよっか?
彼がそう言ったかと思うと、返事もさせてもらえずに私の口は塞がれた。驚きのあまり僅かに開いた唇の隙間から舌が捩じ込まれ、頭の中が真っ白になって、そして。


私は、数分前までの友達を1人失ったのだ。




ともだち崩壊




行為から気持ちが生まれるなんて、そんなことも、あるらしい。
20111224

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