短編 | ナノ

 
 
学パロ

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 告白しました。つい昨日のことです。話したこともない、憧れみたいな恋でした。もちろん結果は惨敗で、もののみごとにふられました。…まともに関わったこともないんだから当然です。うまくいく方がおかしいのです。だけど分かってはいても傷付くものは傷付くもので。思い出すたびにぼろぼろと目にしみる液体がこぼれ落ちてしまうのも仕方のないことでした。
だけどそんなこと、とても言えません。友達にも打ち明けなかった気持ちだから、それが破れた事実を誰にも伝えることができないのです。


***



 それを尋ねてきたのは友達でも、部活の先輩でも担任の先生でさえない、ただのクラスメイトの男の子だった。
彼は別に隣の席だとか、そういうわけでもない。ただ単に私の席の近くを通りかかって、ただ単にふっとその言葉を投げ掛けてきただけであったのだ。


「お前最近なんかあった?」
「え?」


いや、なんか今日元気ないから、なんてベタなセリフを口にしながら、「や、ないならいいんだけど」と若干引いて付け加える。トウヤという名前の彼と、話したのはこれが初めてのことである。当然ながら相談なんてできるはずもなく。


「別に、なんでもないけど」

当たり障りなく口にしたらこんなときに限って昨日の、ふられた時のことなんかを思い出したりするのだ。じわりと湿り出す眦を必死に堪え、私は微笑んでみせる。隠さなければ。隠して、ちゃんと笑っていなければならないのだ。


「嘘」


 対する彼は大層きっぱりと、簡潔にそうつき出した。何の弁解を挟む余地のない、短くてシンプルな返事だった。そしてトドメの一撃をばさり。


「実は見てたんだよね、昨日」
「は?」


見ていた、とはおそらく例の告白からふられるシーンだろう。それならば彼は私がふられたことを知っていたわけで、私が落ち込んでいる理由も初めから分かっていたということで。
…実に回りくどい。それなら初めからそう言えばよかったじゃないか。何でこんな、わざわざ騙すみたいなことをしなくちゃいけないの。


「だったら何。私が誰にふられようとトウヤくんには関係ないでしょ」

得意げな様子が気にくわなくてすこしイラついた口調でそう答えると、彼はにやりと口元を歪ませてこちらを見る。そのまま笑顔で「大当たり」。…一体何が言いたいのか。


「見てたってのは嘘。はぐらかされそうだったからカマかけてみた」
「は、」

そんなことを言われればもう、私も開いた口が塞がらない。完全に騙された自分と、こんなデリケートな問題で引っ掛けるようなことをした彼にも腹が立った。


「何なの、何でそんな、」

 問い掛ける声も動揺で歪む。何で何で何で、トウヤくんに昨日ふられただなんて事実を見破られたのがこんなにも悔しい。悲しい。恥ずかしい。一番強い感情はどれか、よくわからないけれど。


「うん、何でかって言われたら…なまえのこと好きだからかな」
「は?」

今度の返事には先程とは違うタイプの動揺が滲んだ。一体何を言っているのだこの男は。この流れで、どうして今それを言うのか。


「ふられたならさ、俺で妥協しとかない?」


控えめに告げられた提案に、傷心中の弱い心が揺さぶられる。彼ほど顔のいい男がそんなふうに自分を下げる言い方をするのは新鮮で、なんとなくギャップにときめいたりもした。


「妥協とか、自分で言うんだ」
「まあね。でもそのうち本命にしてみせるから」


……前言撤回。清々しいほど自信に満ち溢れたコメントをくださった。さすがイケメンは言うことが違う。腹立つな。


「……恥ずかしくないの、そんなの言って」
「まあ、…多少はね」




ずるいなあ。
初めて話した私はこっぴどくフラれてるというのに、トウヤくんはまんまと成功してるってどういうことなんだろうね。少し照れたような響きに釣られて熱くなる頬を押さえつけ、気に入らないなとため息をついた。


「私も恥ずかしかったよ」



20120811

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