短編 | ナノ

 
 
 放課後友達を迎えに行ったグラウンドでショッキングな光景を目にした。そこでは大好きな友達の茜ちゃんと、その茜ちゃんの大好きな神童くん、そして、

「え、誰あれ…」

ジャージ姿の超絶美少女、の3人がおしゃべりしていたのだ。先ほどのセリフで察していただけたとは思うが私は彼女を知らない。一瞬マネージャーさん仲間かと思ったけれど、茜ちゃんに聞いた他のマネージャーさんは1年生の空野さんて子と、同じクラスの水鳥ちゃんの2人だけだ。しかも空野さんはこの間紹介してもらったけれどあんな子じゃなかった。確かに空野さんも超絶に可愛かったけれど、髪の毛の色は名前の通りに深いブルーだったのだ。しかし見ろ、今茜ちゃんと神童くんと話してる彼女はピンク色の二つ結びだ。空野さんじゃない。もちろん同じクラスで毎日顔を合わせている水鳥ちゃんでもないことは分かる。じゃあ誰なんだ。

 私は茜ちゃんの友達なのであって水鳥ちゃんみたいにサッカー部の応援団という訳ではないから構わないのだが、いや茜ちゃんの応援なら喜んでするけど、問題はそこじゃない。とにかく、私は茜ちゃんに神童くんを紹介してもらったことがないのだ。茜ちゃんのシンさまトークを聞くうちにどんな人なのか気になったのだが、茜ちゃんには「憧れてるだけで、そこまで仲良くないから…」と断られた。それどころかシンさまがどの人なのかを教えてくれるまでにもかなりの時間を費やしたのだ。いやまあそのこと自体は先ほども言ったように構わないのだが、問題はあのピンク美少女だ。彼女は普通に2人と話している。つまり茜ちゃんとも神童くんとも結構な仲良しさんということだ。ちょっとこれ悔しくないか。
それを言ったら空野さんや水鳥ちゃんもそうなんだけど、彼女らは茜ちゃんが紹介してくれたし、マネージャーさんだから仕方ない。しかしあの子は…ジャージ的に多分選手の方なんだろうけど、私には紹介されていない。なのにあの子は神童くんを知っていて、茜ちゃんともお話している。これはどういうことなの茜ちゃん。私に内緒でそんな超絶美少女と仲良くなっていたなんて初耳だよ!いや見たから初目?そんなのどっちでもいいけど!セルフツッコミをしながら悔しさで手が震える。…ま、まさか茜ちゃん、私というものがありながら浮気?!だめだめ、茜ちゃんの親友の座はあんなパッと出の美少女なんかに譲らないんだからね!

打倒美少女、とこぶしを握った私は茜ちゃんとの約束を忘れて帰りかけ、気付いた後に慌ててサッカー部の方へ戻った。先ほどの美少女(と神童くん)とは別れたらしい茜ちゃんと一緒に帰る道中、それとなく美少女のことを尋ねてみたが反応は薄かった。あれ、これ本気で親友の座危ういんじゃない?


***



 次の日、私は美少女探しに躍起になっていた。あれから一晩中考えてみたが打倒美少女のいい案が浮かばなかった為、とりあえず宣戦布告だけでもしてやるのである。茜ちゃんは私の親友なんだってことを思い知らせてやる。

さて、あの美少女は何組なんだろう。名前も知らないから他人に聞くこともできないし、とりあえず教室をひとつひとつ当たってみようかな。
でもおかしいよね、あんな美少女がいたら噂話のネットワークで広まって有名になってると思うんだけど、そんな話は今まで一度も聞いたことがない。サッカー部のナントカくんがすてきー!みたいな話ならよく聞くけど、全員くん付けされていたから美少女とは関係ないだろうし。ちなみにそのナントカに入るのは例の神童くんだったり聞き慣れない名前だったり、まあいろいろである。うーん。

疑問に思っていたが、その謎は2年のクラスを回っている途中にあっさりと解けた。廊下の反対側から歩いて来た、例の美少女の姿によって。正確には着ているもの、によってだ。
なるほど、学ラン…神童くんの方のお友達でしたか。いやでもそんな顔してそんな髪されたら普通間違うよ。そんな顔してるなら短髪にしてよ紛らわしいから。なんて失礼なことを考えつつガン見していたら目が合って、不意打ちに驚いたけれど向こうは更に激しく驚いていた。びくっ!って効果音がつきそうなくらい大袈裟に驚いていた。私どんだけ怖い顔で凝視してたんだ。軽く自分に引いたが、とりあえず謝っておくことにする。

「嫉妬してすいませんでした」
「…は?」

訳が分からない、という様子で聞き返す美少女…いや美少年さん。そりゃあそうだ。かのじ…じゃない、彼は私が昨日の光景にジェラシーを感じたなんて知りもしないのだから。
初対面の人に電波ちゃんだと思われたくはないからひとまず状況を軽く説明してもう一度頭を下げておく。

「あんたみたいなパッと出の美少女に茜ちゃんの親友の座は渡さないんだからとか思ってすいませんでした誤解してました」
「……ああ」


そっちか、とため息をつく美少年さん。心なしかほっとしているようにも見える。そんなに怖かったのかな私の視線。何だか申し訳ないことをした。
それにしても何なんだろう、「そっちか」って。そっちもどっちも、私は基本的に茜ちゃんのことしか考えてないぞ。いや嘘だけど。本当は他のこと考えてる時の方が多いけど。そこまで思って、そういえばまだ名乗っていないことに気付いた。今さらすぎる。


「あ、私水鳥ちゃんと同じクラスの…」
「知ってる」
「え、知ってるの?」

彼から返ってきた意外な返事に目を丸くした。え、何で知ってるし。意外すぎる。私は知らなかったのに。

「…いや、やっぱり知らない。見たこともない」
「えっ、ちょっと今知ってるって言ったじゃんか」
「知らない。前に山菜といるの見たことあるだけだ」
「見たこともないって言ったのに?!」

えええ何なんだこの人。天然系なの?あ、でも茜ちゃんもちょっと天然入ってるしな。まあそこがかわいいんだけども。そういえばこの美少年も本当にきれいだし、茜ちゃんの憧れの神童くんもきれいだし、水鳥ちゃんも空野さんもかわいい。女の子の間で騒がれてるし、他の人達もきっとすてきなんだろう。何だこれサッカー部美形の集まりか。羨ましいぞサッカー部。特に茜ちゃんがいるってあたりが。


「あ、サッカー部だからって茜ちゃんとあんまり仲良くしないでね」
「いや、それ俺より浜野とかに言った方がいいんじゃ…」

第一、あの子俺に興味ないだろと苦笑い。ふん、そんなの当たり前じゃないか。なんたって茜ちゃんは一に神童くん二に神童くん、三四がなくて五に神童くんだ。ちょっとでいいから私も入れてほしいよ茜ちゃん。
…ともかく、美少年さんの出る幕はないんだ。というかこれでこの美少年さんの茜ちゃんの中でのランク付けが私より上だったらこのきれいな顔引っ叩くよ。嫉妬のあまり往復ビンタだよ。そんなことしたらいろんな人に怨まれそうだから多分やらないけど。私って無力だ。


「とにかく、茜ちゃんと必要以上に仲良くなるのは禁止です」
「…じゃあお前も神童とあんまり仲良くするなよ」
「えー、嫉妬?へへ、大丈夫だよ私茜ちゃんに神童くんを紹介してもらったこともないんだからー」
「知ってる。言ってみただけだ」
「あ、嫉妬否定しないんだ。あれだね親友取られたくない仲間だね」
「……もう面倒だからそれでいいよ」

うえ、今面倒って言った!言ったよ!それも心底うんざりした調子で!そろそろ私がうざいってか。はいはい分かってるよ自分でも。でもこういう性格だから仕方ないんだよ。
そう思うのに、美少年は呆れ果てた表情であろうことか「他のサッカー部の奴とも仲良くするな」とさえのたまいなすったのである。待て待て、サッカー部と言えば茜ちゃんだ。私から茜ちゃんを取るとか却下としか言いようがない。そう告げると「じゃあ男子だけでいい」と返され、更に訳がわからなくなった。サッカー部男子とか本気で元から関わりないですけど。


「…あと、俺の名前霧野蘭丸だから。じゃあなみょうじ」

言うだけ言って颯爽と去っていく美少年…もとい霧野くん。サッカー部と関わるなってことは、サッカー部全員親友なのかな。1人も取られたくないとかちょっと欲張り過ぎだぞ霧野くん。それに私にだけ言ったって、既に女子の間ですてきーなんて言われるくらい人気なんだからそのうち取られちゃうかもしれないんだぞ。詰めが甘いなあ。
というか、私霧野くんに名前教えたっけ。名乗ってる途中で止められた気がするんだけどな。あと、何で私がまだ茜ちゃんに神童くんを紹介してもらってないことを霧野くんが知ってるんだろう。茜ちゃんに聞いたのかな?あれ、でも私のこと知らないって言ってた…あ、でも茜ちゃんと一緒にいるのを見たことがあるとも……うん?もう訳がわからん。疑問に思いつつ私も教室に帰った。


 翌日の朝、通学中に出会った茜ちゃんに「サッカー部の人にあんまり変なこと言わないで」と叱られてしまった。もしかしなくても昨日あいつにした宣戦布告のことであろう。ちくしょう霧野め、ちくったな。
しかもあれだけ言ったのに茜ちゃんに話し掛けたとか許しがたし。とりあえず昼休みあたりに文句言いに行こうと思う。何組なのか後で茜ちゃんに聞こうっと。


∴いつどこでだれとだれがなにしてどうなったか
20120223 title:自慰

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