夏の冷房はあまり好きではない。肌は乾燥するし地球にもよろしくないし、何しろ効きすぎると寒いのだ。皆は教室に冷房が入ると大歓声を上げたりするのだが、私は嬉しいとは思わない。夏の学校にはカーディガンが必需品だし、毎朝毎晩の肌や髪の保湿ケアも大変。だからこのところ毎日つけられる冷房にはうんざりしていた。
いつもならばエアコンのスイッチにはもともと生徒たちが勝手に弄らないようにとカバーが取り付けられており、そのカギは先生が管理している。しかし何ということだろう。今日はたまたま授業担当の先生がカギをかけ忘れてカバーが開けられる状態にあったのだ。だから休み時間、暑さに耐えかねた学生がその禁断のスイッチに手を伸ばすのは当然の流れでもあった。
「温度下げようぜ」 「グリーン、お前やれよ」 「何で俺が」 「生徒会長のやることなら許されるだろー」
わいわいガヤガヤ、うるさい声。茶髪の生徒が「しょうがねえなあ」と席から立ち上がってスイッチのあるこちらの法へと歩いてくる。
「ねえ」
気付けば口を開いていた。一度も話したことのないようなクラスメイトに突然話しかけられたグリーンくんはものすごく驚いた顔でこちらを見る。何なんだと、固まった表情から聞こえてくる。
「温度、下げないで」
その言葉に彼は少し怪訝な表情を浮かべたが、にわかに「ああ、」と納得顔になってこちらを見直した。
「ナマエの席、冷房直撃だもんな」 「…うん」 「寒いの苦手?」 「……すこしだけ」
何故私はこんなところでグリーンくんと話しているんだろう。彼はブレザーの裾を気にしながら「そうか」と淡々と答えた。それだけ言って身を翻す。どうやら温度調節は中止していただけるらしい。
「あれ、グリーン今温度下げた?」 「あー、下げた下げた」 「おーよくやった!」
あんな嘘ついて。しかしまあそんな、罪のある嘘でもあるまい。私は安心して、でもやはり少し肌寒い席で半袖シャツの上にカーディガンを羽織った。
20120728
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