※高校生設定
「好きです、付き合ってください」 「えっ…」
やった、言えた。 とうとうやったぜ俺。俺頑張った、ちょう頑張った。これでもう丸井先輩にヘタレとか言われねえ!巷では草食系男子が流行ってる、とか聞くけど、やっぱり女ウケがいいのは肉食系。って丸井先輩が言ってた。まああの人は肉食っていうか甘食系だと思うけど。肉食系は俺に任してください丸井先輩。
彼女の髪がテニスコートを吹き抜ける風に煽られ、ふわりと舞った。そんな様子にドキリとしてしまうが、顔に出すのは抑えた。なんたって俺は肉食系男子を目指すんだからな! 意気込む俺を数秒見つめて目をぱちくり(そんな仕草もかわいい)。彼女はたっぷりの沈黙の後、小首を傾げた上目遣いでこう言った。
「…ええと、どちら様でしょうか」
***
「たるんどる!」
ハイすんません。俺ちょっとたるんでました。うかれてました。 現在位置はテニスコート横。正座インザコンクリート…あれ?バイ?オンだっけ。まあ何でもいいけどコンクリの上。剥き出しの脚が擦れて痛い。めっちゃ痛い。けどそれを目の前にいる副部長に言えるはずもないから我慢。 腕を組んで俺を見下ろす真田副部長はものすごい怒っていて、その背後ではお腹がよじれるってほど爆笑してる幸村部長がいる。何であんな笑ってんすか部長。あれをムービーにでも収めて幸村部長のことが好きなクラスメイト達に見せてやりたい。間違いなく半殺しにされるのに。…俺が。ほんとあいつら目を覚ました方がいいと思う。
「聞いとるのか赤也!」
おっと。真田副部長の怒鳴り声に慌てて真剣な顔を作った。うわやっべえ。怒られてる途中なの忘れてた。でも仕方ないんすよ。幸村部長があんまり激しく笑ってるものだから。頭の中で勝手に幸村部長のせいにすることにした。
「聞いてますって」 「そうか。…それで、どうしてあんな真似、をしたかだな」 「あんな真似?」 「何で初対面の彼女に突然告白したのかってことだよ」
爆笑から立ち直ったらしい幸村部長が、しかしまだ顔は半笑いの状態でこちらを見てきた。真田副部長は告白というワードに照れてた。さすが副部長。
「だって俺、あの人の名前も知らないじゃないですか」 「うん?」 「聞けばいいだろう」 「そんなん正直ナンパと一緒じゃありません?ならいっそ告白しても同じかなーって」
俺なりの理屈を述べれば、幸村部長は苦笑い、真田副部長はそれから笑いを引いた感じの表情で顔を見合わせていた。何で。
「…一目惚れしたの?」 「ち、違いますよ!」
彼女のことは中学の時から知っていた。初めは多分何校かでの練習試合で。他校の、氷帝の制服を着ていた女の子。キラキラした目でテニスコートを見つめる、その横顔に惹かれたのだ。それから3年。あれから何度も試合があったけど、俺はその全てで彼女を見付けてきた。テニスコートを見つめる女の子なんて彼女だけではないのに、まるでレーダーでも付いてるかのように俺は彼女を見付け出すのだ。そしてその結果が先ほどの告白である。
「くくっ、いきなり告白した上に認知もされてないとか…!」
…部長そこは放っといてくださいって。
「赤也!聞いとるのかと聞いている!」
あっやべまた忘れてた。幸村部長のせいだ。焦った俺が「聞いてます!」と叫ぶのと、おずおずとしたその声が響くのはほぼ同時だった。
「すみません、立海さん」
怒られてる俺に気を遣ってか、控えめに小さく投げ掛けられた言葉。彼女だった。
20120504
連載なりそこない。
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