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 私と彼とは大抵いつでも一緒だ。物理的に、という訳ではない。ただ思考的なもの、例えば"窓の外が気になる"だとか"お茶が飲みたい"だとか"この曲が好き"だとか、そういうのを感じるタイミングがやたら似通っているのだ。つまりはおそらく、思考が似ているのだろう。

同じセリフをユニゾンしてしまったりすることもしょっちゅうで、周りからはよく双子双子とからかわれる。こんなにも似た者同士な二人はきっと、同じ血を分けた双子のきょうだいなんだろうということだった。


 もちろん、行動が同じだけで血縁関係など一切ない私たちはそれなりに適度な距離感で接し、まあまあ普通に仲がいい。

紆余曲折ありながらもたくましく立ち上がり、公立校としては快挙の全国大会ベスト8入りを果たしたテニス部員、しかもレギュラー、な彼は学校中みんなの英雄で(ついでに言うなら運動会のリレーでも常に主役だ。速いから)。だから一般人の私なんぞが言うのもおこがましいのだけど、友達・・・と言ってもバチはあたらないくらいの関係だとは思うのだ。その親密さの程度は自分では測りかねるところなのだが・・・まあとにかく、皆の言うような双子でないことは確かである。




***





 「「あ」」


 それは授業終わりのチャイムを聞き終わるのとほぼ同時だった。
例によって全く同じタイミングで発された短い声に、私はまたか、と深く考えずに右隣へ顔を向ける。双子双子と面白がるクラスメイト達の策略により、席まで隣同士にされたのだ。

一文字だけの言葉だし、偶然被ってしまっただけだという可能性もなくはないが、私には妙な自信があった。彼の発した声の意味は、私のそれと同じだという、根拠のない自信が。
それでも一応形だけは気付かないふりで、何気ない顔をして「どうしたの」と尋ねる。長い前髪から覗く目がこちらへ向けられた。声にこそしていないが、その顔はどう見ても「またかよ」と言っている。最近はもうこんなことまで分かるようになってしまって、双子説に説得力が増しつつあるのだ。まあ何回も言うが血の繋がりはないのだけど。というか私は神尾のお母さんを見たことすらない。


 私がもう一度質問を繰り返すと、彼はやっと気を取り直して「あー、」と髪をかいた。さらさらストレートの髪が少し乱れる。


 「いや、なんか今頭の中であの歌流れたからさ」
 「奇遇だね。私もだよ」
 「奇遇ってか、正直聞く前から何となく予想はできてたけどな」
 「それも同じく。さては神尾も昨日のミュージックステレオ略してミューステ見たね」

 私が最近はまっている音楽番組の名前を挙げればこくりと肯定。神尾もそのテレビ番組が好きだということは知っていたから別に驚かないが。つくづく趣味の合う二人である。


 「まあいつもの如くな。どうせお前もだろ」
 「いつもの如くね。あの歌手良かったよねー」
 「おー。CD出たら速攻買うぜ!」
 「そしてそれを私に貸してください」
 「・・・まあいいけど。かわりにお前アレ買えよな。あのグループの新曲」
 「はいはい了解」


 毎月恒例になりつつあるやりとりを済ませ、前の黒板の横に貼ってある時間割を横目でちらっと眺めた。ああ、次は数学か。面倒臭いな。でも教室移動がないのは楽だ。ギリギリまで話せるしね。


 「―――なあ、あれの歌詞ってどんなだっけ」
 「さっき浮かんだじゃん」
 「ちょっとド忘れ」


神尾が再び口を開き、話題にしたのは昨日のミューステで歌われた曲のこと。先ほど頭を過って会話のタネになった歌である。
彼は本気で思い出せないみたいだから私も同じように思い起こしてみようとする。しかし、先ほどはふっと浮かんだのだが、いざ思い出そうとすると上手くいかない。メロディばかりが浮かぶのだ。ならば、と思ってテレビの画面を浮かべても、出てくるのは歌詞の表示ではなく歌手の着ていた衣装のみ。全く役にたたなかった。から、無理せず正直に答えるとする。


 「・・・あれ?どんなだったかな。なんか、ふふふーんー♪みたいな曲だったよね」
 「多分。お前意外と音痴な」
 「うるさいよ神尾」


片方隠れた目を軽く睨み付けながら頭の中でもう一度メロディラインをなぞってみる。そんなに音痴かな・・・神尾の判定が細かすぎるだけじゃないの。もうそういうことにしとこう。ふふふーんー。うん普通普通。
あーでもやっぱ歌詞は出てこないや。やだな、中学生にして老化とか。いやこの場合はただド忘れしてるだけか。ほんと、どんな歌詞だったっけ。


 「俺わかんね。降参」
 「えっ早いよ」


 私がまだうんうん唸って首を傾げている間に神尾はスクールバッグのポケットから携帯を取り出し、いそいそとイヤホンを差した。いつもは携帯音楽プレイヤーにヘッドホンだからちょっと新鮮な光景。カチカチと少し操作して、少し髪をかきあげて左の耳に片方のイヤホンをはめる。


 「諦めて正解聴き直そうぜ」

軽く笑って「ん、」と片方渡されたイヤホンを戸惑いつつ受け取る。
少し悩んだが結局誘惑に負けて右耳にはめ、流れ出した半分この音を聞いた。あ、やっぱりいい曲だ。問題の部分まではもう少し。

次の数学の時間はきっと、二人ともこの曲が流れて離れなくなるだろうな、なんて予想をしながら目を閉じる。
次のチャイムまであと2分弱、やわらかな昼下がりの一時だった。







永遠ヒーロー様に提出。
ありがとうございました!


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