∴財前くんがボカロ好きさんの設定なので注意。 声フェチと言うほど声の話出てきませんが財前くんがあんまりかっこよくないです。
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よくある話だと思うのだ。普段は普通くらいの声なのに、授業で発表する時はすごく声が小さくなる女の子。 かく言う私もその1人で、普段からそこまで大きな声ではないが、授業中当てられた時は先生に「蚊が飛ぶ音より小さいでー」と言われるくらいに声が小さくなる。発表が恥ずかしいというより間違いが恥ずかしくてそうなるのだが…。2年生になってまだ数日、新しく同じクラスになった人達はどうやら私をシャイな女の子だと思っているらしい。 最初のホームルームでやった自己紹介ではそこそこの声を出したと思うのだけど、その後の授業からずっと"蚊が飛ぶ音より小さい"声だからだろうか。記憶が上書きされて忘れてしまったのかもしれない。まあ困ることもないのであえて訂正はしないが。
さて、そこに来ての音楽の授業だ。しかも先生の意向により初っぱなから歌のテスト。何でも最初に実力を確認したいのだとか。 クラスメイトの中にはあからさまに嫌そうな顔をする子もいたけれど、私は嫌ではなかった。歌なら数学や英語と違って間違いの答えがないし、声を小さくする必要もないだろう。音痴だったら少し恥ずかしいかもしれないけれど、幸い私の歌は笑われるほど酷くはない。
だから歌った。普通の大きさで、頑張って歌った。それだけだ。何もおかしいことなんてない。
なのに。
「……」 「あ、の…」
なのに、どうしてこうなってしまったんだ。
目の前に立つ男の子はクラスメイトの1人、財前くん。この一週間ではまだ女の子の名前しか覚えられてないから下の名前は思い出せないけれど、とてもカッコいいと評判だ。見た目ちょっと怖いけど。 そんな素敵なクラスメイトに呼び止められたのは、さっきの音楽の授業が終わって数分後。グループの違う女の子に「ナマエちゃんさっきは蚊ァ飛んでなかったやん!」なんて話し掛けられている真っ最中のことだった。
突然「なあ」と呼ばれ、「名前なんやっけ」と今さら過ぎる質問を続けられ、素直に答えたら「ちょっとええか」と階段の踊り場まで連れて来られた。その後訳が分からないまま今に至る。財前くんはセットした髪をくしゃりと撫でながら「あー」と居心地悪そうに目を逸らし、やっと口を開く。
「俺、財前ゆうんやけど」 「知っとるよ、クラスメイトやし。ほんで、どしたん?」
下の名前は自信ないけどなとは言わず、先を促す。財前くんは再び言い辛そうに苦笑いして続けた。
「あー…と、ミョウジ、サン」 「はい」 「ボーカロイド、って知っとりますか」 「うん?ボーカロイド?」
突然の展開に少し戸惑う。ボーカロイド、聞いたことはある。確か前にテレビで特集されていたはずだ。何の話なんだろう、と思いつつもそのことを彼に伝えると彼は少しの沈黙の後「それ見てどう思た?」と言ってきてますます話が読めなくなった。が、それを聞くのも失礼な気がして普通に「日本の技術ってごっついなあって…あとデモで掛かってた曲が素敵だった」と返す。財前くんが少し目を見開いた。
「ホンマに?」 「え…うん」
何をそんなに驚くことがあるんだろうか。デモで掛かっていた曲はタイトルが分からなくてそれっきりになってしまったけれど、素敵だと思ったのは事実だし、技術だってすごいと思うのに。というか財前くんは一体何が言いたくて呼び止めたのだろう。もう休み時間も終わってしまうと言うのに。 そう思ったらまるで読み取ったかのようなタイミングで思わぬ言葉が降ってきた。
「ミョウジさん今度カラオケ行かへん?」 「え?」
待って待って、何でボーカロイドの話からカラオケのお誘いになるの?私は話の展開に全くついて行けないのだけど。
「何やったら俺奢ってもええし」 「え、ごめん、財前くんがそこまでしてくれはる理由が分からんのやけど」
頭にハテナマークをいっぱい付けて尋ねる私に、財前くんは「あ、すんません」と謝ってカラオケの話になった理由を付け加えた。
「ミョウジさんに歌おてほしい曲あんねん」 「え?」 「俺ミョウジさんの声好きやから」
そうしてCD渡すから頼むわとかとりあえず1曲だけでもええからとか、この冷めてそうな雰囲気のどこに隠していたんだというくらいの熱心さで説得され、私はついに頷いてしまったのだった。その曲はボーカロイドの歌だということで、なるほど、最初の質問はここに繋がるものだったのか。あれじゃ分からないのも仕方ないと思うけれど。
でもちょっとときめいたから、同じクラスやのに今まで声聞いてなかったんかい!なんて突っ込みは、今はしないでおこう。
20111205
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