「えー、嘘だあ」 「ほんとだって」
私の話を聞いて第一声にそれを疑ってくる友人を軽く睨み付け、私はトントンと手に持ったノートの束を揃えた。いちにーさん、…一人ぶん足りない。
「何で信じてくんないかなあ」 「ええ…だって信じられる?あんたがまさか、ねえ」 「偏見だ」
尚疑わしげな視線を向けてくる友人は多分、私がいくら言っても信じることはないだろう。明確な証拠か何かがなければ。しかしそんなものはない。つまり信じてもらえない。エンドレス。
「っていうか、それあんたの妄想か何かじゃないの」 「何でよ!違うよ!絶対そうだから!」 「えー」
私はノートの端を揃えながら立ち上がり、キッと友人を睨み付ける。友人はおお怖いと笑った。信じる気は全くないようだ。
「間違いないんだよ、絶対に伊武くんと私は両想いなんだよーだ!」
先ほどから何度も伝えた台詞をもう一度なぞり、同じように何度数えてもやっぱり一冊足りないノートを抱え、私は教室を立った。友人は尚やはり信じていないようで、「いってらっしゃい」なんて片手をひらひら振ってみせた。…ちくしょう。
さすがに私だって、「伊武くんは私のこと好きに決まってる!じゃなきゃおかしいのよオホホホ」とまで言うつもりはない。そりゃあ確かに、友達にはさっき「絶対」とか言っちゃったけど、それは相手にもしてもらえなかったのが悔しかったからで…ほんとはそこまで確固たる確信があるわけでもない。私が彼を好きだから、いくらかは"そうであってほしい"という希望も入っていると思う。
だけど、ただ、なんというか。彼はおかしいのだ。タイミングというか、何故かやたらと私の行くところ行くところに現れるのだ。この間だって「帰り本屋寄って帰る」と周りに宣言して教室を後にしたら、私が出た時にはまだ教室にいたはずの伊武くんが先に本屋にいたりしたし。私は結構大きな声で言ったはずだから、知らなかっただなんて言わせない。
「あ、伊武くん」 「…」
それにほら、また。 見慣れ過ぎた冷たい瞳が私を映した。
「あれ、伊武くん5分くらい前には教室にいたよね?」 「ああ…職員室に用事あるから」
若干噛み合わない会話。多分彼は意図してやっているんだと思う。先ほどの予想と同じく、確たる証拠はないけど何となく。彼はぼそぼそと何事かを呟きながら私を見つめて、それで視線が合わさった。
聞くなら今だと思ったのだ。
「ねえ伊武くん」 「何」 「もしかして、…違ってたらごめんなんだけど、伊武くんて私のこと好き、だった、り…しませんか、ね?」 「は?」 「うわあああごめんなさい何でもないです!自惚れてごめんなさい!」
何言ってんだ私!とんだナルシストだよばか!伊武くんもすごく不快そうな顔をしているし。何しろあのキレーなお顔にぴしっと眉間のシワが浮いているのだ。なんか怖い。
「いやまあ合ってるけどさ」 「えっ?」
「っていうかさ、酷いよね。あんだけやったら普通は気付くし。あり得ないでしょ、行く先々で会うとか。しかも行くって宣言した時ばっかり」 「え、本屋の時だけじゃなかったの?!」
目を丸くすれば伊武くんは更に深くため息をついた。はあああ…と、生来の彼の表情と相まってとてつもなく馬鹿にされた気分になった。多分間違いなく馬鹿にされているが。
「ほんとミョウジって鈍いよね。今だって俺がわざとノート出してなかったのに確認にも来なかったし」 「え、一人ぶん足りなかったのって伊武くんなの?!」
数しか確認していない私には知るはずもなかった情報である。伊武くんはもうこれでもかというほど苦々しい顔で吐き捨てた。
「爆発すればいいのに」 「ばくっ…?!ちょ、怖い!」
ぎゃーっと色気なく叫べば煩いと睨まれる。 嘘だ、絶対嘘だよこの人が私を好きなんて!この表情は好きな子に向けるものじゃないもの!多分今本気で煩いと思ってる顔だもの! そう思ったから素直に「嘘でしょう!」と言ったのに、彼から返されたのは相変わらずの冷めた瞳と低い声だった。
「あり得ないほんとあり得ない。何なのお前ふざけてるとしか思えない。っていうかふざけてるよね実際。だって普通気付くだろ。あんだけ遭遇して全部偶然とか逆にキモいし馬鹿じゃないの。本屋のやつ以外にもかなりヒントみたいなの教えてやってんのに全く気にも止めてないし。ちょっとは頭使えよそれ飾りかよ。少し考えれば分かるだろ俺がミョウジを好きなことくらい」
そんな、一気にたくさん言われても困る。
彼の言うようにお飾り程度にしか働いていない私の脳みそでは、どうやら私の半分願望だった予想は正解らしいということしか認識できていないのだから。
終わりが見えた片想い 20111117 企画ボツ
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