小ネタ | ナノ

 
 



 「ナマエちゃんはマイナス26.8等だから」


それは、彼が友人に話していた言葉だった。忘れ物を取りに帰った教室、彼と彼の幼なじみであるジュンくんがいて。私は普通に入ろうとしていたのを、この言葉を聞いて止めた。
ジュンくんと彼―――コウキくんはどうやら私の話をしているらしかった。


 「は?マイナス?」
 「うん。マイナス」
 「なんだよそれ。コウキの例えって全然わかんねー!」

ジュンくんの呆れた声が廊下にまで漏れだした。その考えには私も同意である。
マイナスだなんてちょっと嫌なイメージ持たれてそうだ。最悪。私はコウキくんのこと結構、好きなんだけどな。

 とりあえず、このタイミングで対面なんかしたらいたたまれないからスッと身を翻す。忘れ物のことはもう仕方ない。諦めることにしよう。あの中に入るよりはずっとましだ。
そう思ったのに。


 「・・・あれ、ナマエちゃん?」


嫌なことは重なるもので、話し終わったのか教室の外に出てきたコウキくんの声が歩きかけた私の背中に投げられる。私は気付かないふりをしてそのまま歩き出した。


 「あ、待って、ナマエちゃん!」
 「・・・何」

思ったより冷たい声が出た。あれ、私ったら意外と気にするタイプだったのね。なんて他人事のように考えてコウキくんを見た。


 「あのね。ナマエちゃんはマイナス26.8等星なんだ」
 「は?」

 前置きもなく突然始まったのは先程も聞いた・・・いや、先程のものより少しだけ長くなったセリフだった。そのマイナスなんちゃら等星、は、星と言うくらいだから星に関係することなのだろうか。そういえばコウキくんは星に詳しいし、それでも不思議はない。私は知らない言葉だけれど。

 「ねえ、太陽は何等星か知ってる?」
 「太陽?・・・知らない」
 「あのね、太陽の実視等級はマイナス26.7等なんだ」

 「ふーん・・・え?」

私が固まったのを見て、コウキくんが笑う。

 「等級は、数が小さければ小さいほど明るくて眩しいんだよ」




太陽より眩しいきみ
20111112


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