小ネタ | ナノ

 
 
 冬。学校帰りの制服姿で歩いていると、悪意があるとしか思えないような冷たい風が私を容赦なく打つ。


 「寒ー・・・」

それはもう、一人でいてもつい口の中で呟いてしまうくらいだ。こんな日は早く帰って暖かい部屋でのんびりするのに限る。ただでさえ寒いのに、寒さから身を守る衣服がスカートだなんて堪えられるはずもない!!




 ・・・と、まあ、そんな時に限って厄介な出来事が起こったりするのはお約束なことで。
「やあ、偶然」なんて呑気な挨拶で当然のように現れたその男に、無駄と知りながらも殺意が湧いた。



 「・・・あの、臨也さん?私急いでるんです」
 「偶然だね、俺も急いでるんだ。竜ヶ峰くんでも引っかけれたらよかったんだけど、ちょうどいいや。付き合ってよ。花の高校生だし、寄り道くらいしたいでしょ?」


こんな季節に、外で寄り道しようなんて考えの高校生なんか紀田正臣くらいのものだ。元気な紀田くんは、今日もやる気満々でナンパに繰り出して行った。多分今日は収穫ないと思うんだけどな。

そして確か、今この男が言った竜ヶ峰くんも一緒に連れて行かれた、はずだ。なるほど、私に否定権は与えられていないらしい。


 ちなみに、何故私が帰ろうとしていることをこの男が知っているのか、という疑問は時間の無駄なので飲み込んだ。"折原臨也だから"で説明は完了する。




 「寒いんですけど」
 「そうだね、今日は今月一番の冷え込みらしいよ」
 「・・・臨也さんはコート着てますけど、私は制服なんです」
 「可哀相にね」
 「そう思うなら帰してください」
 「イヤ」

にこりと一刀両断。まあ期待はしてなかったけど。



 「手とかすごい冷たいんですよ?!臨也さんはコートのポケットで暖かいでしょうけど!!私の手も入れてください!」
 「イヤ。大丈夫だいじょーぶ、子供は風の子だから」

そんなことを言う。手の暖かい人は心が冷たいって言うけど、どうやら本当らしい。きっと、この人の手は灼熱のように熱いことだろう。


 「寒いんですって!出来たら私、帰って暖房のついた部屋に引きこもりたいんだって!」
 「へー、そうなんだ。仕方ないね」

特別だよ?


折原臨也は楽しそうに言って、私の手をポケットから出した手で掬い上げ、息を吐きかけた。


 「はい、あったかーい」
 「・・・っ!」


むしろ水蒸気で冷たくなるわ!
子供扱いすんな!!
言いたいことはたくさんあったけれど、とりあえず黙った。




 握るその手は思ったより暖かくなくて、少し面食らった。




コートと吐息




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