――――重い。 人通りのそれなりにある廊下で、私は全神経を腕に向けていた。 胸の前で突き出したその腕には大量の荷物。先程通り掛かった先生に頼まれた荷物だ。
・・・全く、何で私がこんなこと。たまたま居合わせてしまった私の運のなさを呪いたい。 何キロあるのよこれ、私女の子なんですけど!第一自分で運べよあのハゲ!!と、当人がいないのをいいことに心の中で毒づく。
「あー、もう、重い!」
腕がそろそろ限界かな、というところまできて、一回下ろそうと膝を折りかける。少し休憩だ、休憩。アイ ウォントトゥ レスト! そっと荷物を下へ下げようと。 すると、「ナマエー」と笑いながら後ろからぱしんと背を叩かれた。
私は真面目に限界だった。だってこれ、腕とかプルプル震えてた。だから当然、後ろから叩かれて無事なはずもなく。
「あ゛ー!!」
ばっさあ、と大きな音を立て、私の持っていた荷物は見事に床に散らばってしまった。 通行人達が迷惑そうに避けていく(いや、そこは拾おうよ?!)
落とさないように、というせっかくの私の努力は一瞬にして崩れ去ったようだった。そう、この荷物のように・・・言ってて虚しくなってきた。
思わずついてしまった膝をさすりながら、私はコトの元凶である男を振り返る。同じクラスの奴だ。
「ちょっと、何すんのよバカ神威!」 「えー?」
睨みつけたそいつは、怒鳴られているにも関わらず飄々と笑っていた。間違いなく自分が悪いとは思っていない笑顔で。 あまつさえ、こんなことまで口にする。
「ちょっと叩いたくらいで落とすなんて、ナマエもまだまだだね」 「・・・」
まだまだって。脳みそまで筋肉な神威に言われたくない。 くそう、もう決めた、こんなやつ神威じゃない、バカムイだ!バカムイ!むしろバカ!
「わあ、ナマエにバカとか言われたくないなあ」 「って口に出してた?!」
慌てて口を押さえる。もちろん意味はないが(既に相手には聞こえている)。完全に負けた気分だ。
にっこり笑ったままの神威は、そんな私を見て楽しそうに床を指差す。散らばったままの頼まれ物だ。
「ほらほら、早く拾わないと授業始まるよ?」 「わ、分かってマス!」
偉そうに、と思いながらぱっと手を伸ばして、急いで拾い集める。でも、これを拾ってからまだ教室まで歩かなきゃならないんだよなあ・・・。気が重い。
ようやく集め終えると、私はのろのろと立ち上がる。これからこの重いのを持たなくてはならないのだ。気合いを入れねば。
しかし、その気合いはすぐにしぼむことになる。
私が持ち上げようとした荷物を、先に軽々と手にした神威はほら行くよ、と私に笑ってみせた。
一緒に行ってあげてもいいよ
(君一人じゃ明日までかかりそうだからね)
title:確かに恋だった
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