例えば、シャーペンを好きな人の名前の文字数だけノックして、ハートを書いて塗り潰したら両想いになれる、とか。
好きな人の机のすみに小さなハートを書いて、一日中誰にも気付かれなければ距離が近付く、とか。
そんな小さなジンクスに頼ってしまうことくらい仕方ないと思う。それが女の子ってもんなのだ。
「――――これでよし、と!」
彼の机のすみにこっそりかいたハートマークを撫でて、ため息をついた。こんなので距離が近付いたら苦労はないんだけど。試すくらいなら許されるよね。
「・・・か、帰ろ!!」
恥ずかしくて思わず立ち上がる。
よく考えたら、この机とか椅子って沖田くんのじゃないか!!うわあ、座っちゃったよ?! 慌てて周りを見渡す。幸い、教室には誰もいないけれど、今来られたら軽く失神するかもしれない私。
特に、本人に来られたら。
「――――何してんでィ」
・・・特に、本人に来られたらァアアア!!
背後に現れたご本人の姿に、ぎこちなく振り返った。神様の意地悪、アホ、バカ、おたんこなす!!このタイミングで沖田くんが来るとかダメでしょコレ!!
「お、沖田くん・・・えと、ごめんね!つ、机間違えちゃって沖田くんのとこに座っちゃってそれでえっと、その、座っちゃったんだけど・・・」
しどろもどろに言い訳を考えるが、逆に泥沼に嵌まっていくみたいだ。何言いたいのかわからなくなってきた。
「えっと、」
うまく言えなくて俯く。 これヤバいよね、絶対怪しまれたよね。恥ずかしい。
妙に静まった空気の中、沖田くんが口を開く。
「知ってますかィ?最近女子の間で流行ってるあのおまじない、当たるそうでさァ」 「え?」
・・・それ、もしかして。
「俺は眉唾モンだと思ってたんだがねィ・・・どうも本気で当たるらしいや」
ほら、お前のおまじないも当たってるし。
目の前で、小麦の髪が揺れた。
初恋ジンクス
(それってつまり、その、えっと)
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