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 「また来てくれたの」

変わらない笑顔のまま彼は言った。


 ライモンシティの真ん中。巷では乗ったら最後の廃人列車なんて呼ばれるそれ、バトルサブウェイに乗って揺られること数時間。20戦を勝ち抜いて来た私への一言だった。

7戦で1周だから、3周目のラストだ。次々に強くなっていくトレーナーたちを倒し、進んできた。二匹のチームワークが物を言うダブルバトルは頭を使うが、そのぶんシングルバトルよりも楽しかった。

 最終車両で待ち受ける白コートの笑顔に会うことも、また楽しみで。

彼はまるで張り付いたかのように、いつも口元が笑っている。他の部分は、しかめっつらの相方と同じものだというのに。このサブウェイに乗りはじめてから随分経つが、彼の笑顔以外の顔を見たことがない。反対に、彼の相方は笑顔を見たことがない。
白と黒のコートの色を除けば、そこだけが彼らを見分ける術である。



 「こんにちは、クダリさん。今日は負けませんよ」



 もちろん、今の彼は真っ白なコートを着てダブルバトルをしているから、見分ける必要もなくクダリさんだ。一瞬でわかる。ただ、時々コートを入れ替えられたら話し掛けるまで気付かないかもしれないなあと思うだけで。


 「うん、いい目。ぼくも負けない」
 「・・・頑張ります」


 ああ、相変わらずニヤアとか、ニタアとか、そんな効果音がつきそうだな、彼の顔は。私の精一杯の宣戦布告をモノともしない。何を考えているのかわからない無彩色。コートと同じ、何色にも染まらない顔。


 「ノボリが言ってた、たまにはシングルトレインにも来て欲しいって」
 「シングルバトルはちょっと・・・。苦手で」


嘘ではない。ダブルバトルでもクダリさんのところでいつも負けてしまうし。廃人への道は遠い。

それでも私が何度でも20戦して来る訳を、果たして彼は知っているのだろうか。無邪気に笑っているけれど。




 「じゃあバトルしよう」
 「・・・はい」


 そして、また1戦目からスタートなのです。


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