小ネタ | ナノ

 
 

 何か、とてつもない浮遊感を感じて目を閉じた。真っ暗なはずの視界がグルグルと回って、気持ち悪くなって。私の意識は一度シャットアウトされたのだった。

そして。次に目が覚めた時、私は私でなかった。


 「・・・なにこれ」

呟いた声は間違いなく私のものではない。しかし聞き覚えはあった。私はこの声を毎日聞いているから。少し低くて、掠れる、柔らかな声。

 とりあえず、長い前髪が鬱陶しくいのでばさっと払う。試しに、よく見えるようになった目の前に手をかざしてみれば、いつも見ている自分のそれとは違う、白くて長い指が現れた。とても細いが、女の子のものではない、節ばった男の手である。
声も低い、手も固い。現状を理解すると、私はとりあえず叫ぶことにした。

 「持っていかれたあああ!!」
 「・・・うるせーよ」


 すると、少し離れたところで人間がむくっと起き上がるような気配がして、聞き慣れた声が私の耳に届く。自分で聞いているものとは若干イメージが違う、だけどカラオケなどでマイクを通して聞いた声とはだいたい同じな女の子の声。言葉は汚いけれど、あれは間違いなく私のものだ。
声の主も気付いたのだろう。いつも目を覆っている前髪がないことを確認して、私と同じように「持っていかれたあああ!!」と叫ぶ。いやなんで決まりみたいになってんの。内心ツッコミながら、私の見た目をした彼に声をかけた。


 「ねえベル。これ、身体入れ代わってるよね・・・?」
 「え、あ、ああ。身体が入れ代わってんのか」
 「?何だと思ったの?」
 「てっきりナマエがオレの前髪切ったのかと」
 「・・・持っていかれた!って、前髪の話なんだ」

今更ながら驚くベル(外見は私)。そういう私は、てっきり某錬金術師兄弟の弟さん的な状態になったんだと思って叫んだのだけど。これも見当はずれだったな。私とベルで入れ代わってるんだもん。私がベルでベルが私で。


 「もう!ベルのせいだよ!ベルが私に向かってナイフなんか投げるから」
 「テメーが避けねーのが悪いんだっつの」
 「避けれるかー!!」


 コトの経緯はこうだ。
ベルが私にナイフを投げる。私がヒビる。ベルがワイヤーで軌道修正する。私がヒビって変な方向に避けようとする。ベルが止めに入る。足がもつれてごっつんこ。冒頭に続く。ナイフが当たらなかったことが唯一の救いである。


 「・・・っていうか、どうするよ、これ」
 「知んねーよ。王子に聞くな」

 私の顔をしたベルは既に順応して、髪の枝毛チェックを始める。ハイ、ちなみにそれ私の髪だからね。痛み具合とか見なくていいからね。
というか、これだけ非科学的な超展開なのに反応薄いな。もっと反応があってもいいんじゃないだろうか。それともヴァリアー幹部様くらいになるとこの程度の展開では驚けないんだろうか。そっか、むしろ自分達が超次元ですもんね。ししゃもナイフで暗殺ですもんね。

 「ナマエ、テメー今ししゃもって言っただろ!!」
 「何故聞こえるし!」
 「ヴァリアークオリティだし」

さすが超次元。


 「っていうかさー、入れ代わったこと、ザンザス様とかスクアーロ様とかにバレたらイヤだよねー」
 「おいナマエ、テメー何で鮫に様付けなんだよ。ボスはともかく」
 「細かいところに突っ込むな!強いて言うならベル以外の幹部は全員様付けしてる」
 「ししっ愛の差か」
 「敬意の差です」

テメー殺す!なんて言ってくるけど、自分の顔に言われたって全然怖くない。ただちょっとした違和感を感じるだけだ。

 「私の顔で殺すとか言わないでよ」
 「うるせーよ下っぱ。テメーこそオレの顔で私とか言うなキモい」
 「えー。じゃあ、"ししっ、だってオレ王子だし"みたいな?」
 「うっわムカつく」
 「私はベルがそれを言う度にムカついている」
 「カッチーン」

結構キレていらっしゃるようだが、ナイフは私(外見はベル)の手の内にあるのだからやはり怖くない。あと今の私はベルの見た目だしね。いくらベルでも自分を殺すとか無理だしね。絶対防御だよね。


 「しかし、こうやって身体に入っちゃうとわかるけど、ベルって細いねー」
 「うるせー。そういうナマエは肉ヤバイし」
 「ぎゃっ!!お腹の肉をつままないでよー!」

必死に止めるが、何しろ身体の中に入られているのだ。抵抗のしようがない。まあ向こうも絶対防御だしね・・・ちくしょう。


 「なあ」
 「なにー?」
 「したほうがいいって、ダイエット」
 「倒置法で強調するほど?!」


そこまでヤバかったかな、肉・・・。標準体型だと信じたいんだけどな。

 「なあ」
 「肉関連のハナシはもう聞きたくない!」
 「ちげーよ。コレ、いつまでこのまんまなワケ?オレ任務とかあんだけど」
 「えー、知らないよ」
 「マーモンにでも聞くか?」
 「マーモン様は幻覚でしょ?入れ替わっちゃった現象にも効くの?」
 「さあ。知んね」
 「でも、このままだとヤバイよね」
 「だな。勢いあまって自害しそうなぐらいヤベー」
 「そんなにイヤか私の身体」
 「ヤダ」
 「私もヤだよ」


かと言って自分ではどうしようもないし。

あーあ、どうしてこんなことになったんだろうね。






(結局、一晩寝たら戻ってたりして)




途中まで書いて挫折した。

20110724


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