「自分、何京都としゃべりよったんや」
道を歩いていると、突然大阪が話し掛けてきた。いや、話し掛けて・・・というか、私が大阪に気付いて手を振ったら目も合わさずぼそっと言われただけだから、彼としては問い掛けたつもりはなかったのかもしれない。でも黙っていて「無視かい」なんて言われたら厄介なので一応答えておくことにした。
「え?何って・・・世間話?」 「にやっにや笑おてか」
私の返事に素早く答えた大阪は、目を細めて私を睨んだ。ただでさえ悪い目つきが更に鋭さを増し、すごい迫力を生み出す。私は少し萎縮してしまった。
「に、にやにや・・・?にやにやなんかしてないもん!」 「嘘つけや!!笑てたやないかい!にやにやにやにや!あー気持ちわる!」
声をいきなり荒らげた彼。いつもの帽子を目深に被って、睨みつける。対する私はそのあまりの剣幕に既に涙目だ。
「にやにやじゃ、ないもん・・・お、大阪のばか」 「あーー、何で泣くねん!!俺が悪いみたいやろ?!」 「・・・うっ、大阪がわるい、も、・・・」
ついには涙をこぼして泣き出す私に、大阪はうっ、と言葉に詰まった。一応、悪いという意識はあるみたいだ。
「泣くなや。・・・けど、ナマエのせいや」 「なんで、」 「ナマエが、クソボケ京都やかと話すきんや」 「だ、て・・・」
話し掛けられたんだもん。瞳にあふれる水滴を指でこすりこすり言い募る。
「こちとら、いらちなんや。あんまし怒らすよなことせんとってくれや」 「・・・無視しろと」 「おう」 「そんな、無茶苦茶な」 「わやなんは知っとる。やから、」
一度切って、私のまだ少しうるんでいる瞳を見つめた。
「・・・やから、頼むわ」
本当、無茶苦茶。 そんなふうに言われたら、どんなに理不尽な願いでも頷くしかなくなるじゃないか。
20110717
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