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「あれは、なんだったのですか」

 水差しからコップに水を注いでいるだろう彼に尋ねる。見えはしないが、カチャリと音がするから、なんとなくわかった。

「どうして私の目は見えないのですか」

 やはり、喉は掠れていて声は弱々しかった。水を注ぎ終わったのか、机の上にコップを置くような、コトリ、という音がした。小さく、息を吸い込むような音がする。

「君の目は、精神的な原因による一時的な失明でしょう。あまり怖がる必要はありません」

 そう言われて初めて、自分が恐怖を感じていると気づいた。見えないのは、怖い。手が少し震えているのがわかる。あまりに様々なことが起こりすぎて、いまだに頭がぼうっとしていた。そして再び、息を吸い込む音がきこえた。何故か、重く、ゆっくりとしたものに感じた。

「あれは、死喰い人の仕業です。あなたのお父上への逆恨みでしょう」

 私の父は、闇祓いだった。曾お爺さんまでは、伝統的な純血主義だったけれど、一人息子だったお爺さんがグリフィンドールに入ったことで崩れていったと聞いた。父はそんな祖父の性格を受け継ぎ、闇祓いとなり、マグルの母と結婚した。

「……最低」

 奴らも、自分も。家族を殺した奴らは憎い。けれどもそれ以上に自分が憎かった。皆、私のせいで死んだも同然だ。それなのに、自分が辛いから、見たくないからと視力を手放すなんて、本当に最低だ。

「あまり思い詰めるなというのも無理な話でしょうが、そう、内に閉じ込めてしまわずともいいんですよ」

 不意に、また、穏やかな声が聞こえる。彼の声は場違いな程穏やかで、それでいて凛としている。不思議と安心できる、とても心地のいい声だった。
 ただ、今の私には逆効果だった。

「そん、なこと、言われても」

 不意に、涙が頬を伝うのがわかった。ああ、とまらない。

「私のせいで、皆死んでっ、私は、何もしてないのに!お父さんも、お母さんも、タバサも!何も、できなかった!目も、見えなくなるし、怖い、痛い、皆に会いたい」

 膿が出るかのように、感情が溢れ出た。どれだけ嘆いた所で、家族に会える訳でもないのに。

「いやだ、なんにも忘れたくないのに、見たくないって、もう忘れたいって思っちゃって、もう、いやだよ……」

 息が詰まる。目も、喉も痛い。ベッドのスプリングが軋む音がする。私がしゃくりあげるたびに、キィキィと小さな音を立てる。ふと、ぎしりと決して小さくはない音が聞こえた。途端に私は抱きしめられた。

「君の、ポラリスのせいじゃない」

 そう言って、彼は震える手で私をただぎゅっと抱きしめた。やはり彼の腕の中は居心地がよかった。彼は今どんな顔しているのだろうか、と、涙でぐちゃぐちゃになっているだろう顔で見上げてみたが、やはり見えたのはただの闇であった。

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